HONZイチオシ伝説の再来 『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』

仲野 徹2015年11月14日 印刷向け表示
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冒険歌手 珍・世界最悪の旅
作者:峠 恵子
出版社:山と渓谷社
発売日:2015-09-18
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山岳雑誌の老舗『山と渓谷社』に勢いがある。2010年に刊行がはじまったヤマケイ文庫では、山岳本でこれを読まねばどうするというような、ヒマラヤの難峰ギャチュン・カンからの決死の脱出を描いた山野井泰史の『垂直の記憶』や、死に至る過程がこまかに記録されている松濤明の『風雪のビヴァーク』から、HONZイチオシ伝説の記念的作品である『くう・ねる・のぐそ』まで幅広いラインナップがそろえられている。また、2014年からのヤマケイ新書でも、山好きにたまらない本が続々と出されている。

たぶん調子にのっているんだろう。そうでないと、こんな本を再刊しようなどという話はでないはずだ。偉大なる冒険ノンフィクション作家・高野秀行をして、「これは日本冒険界の奇書中の奇書である」と解説に書かしめているのがなによりの証左だ。その内容は、歌手・峠恵子が『日本ニューギニア探検隊』に参加した顛末と後日談、そして、いっしょに探検隊に参加したユースケとの対談である。あらすじは、まず塩田春香のレビューをごらんいただくとして、ここでは気になったところを気のむくままに。

「どんな気持ちで参加したいのか」と聞かれ、「遺書を書きます」と答えた。

失格だろう。まったくの素人が死ぬ気で参加って、あかんやろ。しかし、隊長は即決だった。よほどの大人物か、まったくものを考えていないか、あるいは、他に参加してくれそうな人がいなかったか。すべてかもしれないし、どれとも違うかもしれない。はっきり言おう。作者である峠恵子もすごいが、藤原隊長もたいがいすごいのだ。

全編を通じて「なんなんだこの隊長は」感が持続する。峠と険悪な状況になることもしばしばだし、ユースケは考え方があわず途中で帰国してしまう。それでもユースケは、隊長のことを「人生で会った人のなかでは一番か二番」のすごい人だと断言する。峠にいたっては、「何億人に一人っていうくらい」と絶賛だ。ということは、世界に十人ほどしかおらんレベルなんか。たしかにそうかもしれんような気がするのが怖い。

二人とも、隊長の冒険家としてのスキルの高さ、ポテンシャルの高さを超一流だと褒めちぎる。そしてものすごく魅力的な人だと。しかし、付け加えることを忘れない「でも、詐欺師」。う~ん、そこまでいくと、世界に十人どころか一人しかおらんかもしれん。赤毛のアンの大ファンらしいし。大冒険を終えて入港をしたときのお出迎えのエピソードなどは感動を禁じ得ず、笑いこけてしまったことを申し添えます。吉本新喜劇もびっくりですわ。

この本は、高野にいわせると、一貫してぶれない『峠さんと藤原隊長の愛と葛藤の物語』らしい。隊長に対する峠の愛が最高潮に感じられるのは、(たぶん)世界初のトリコラ北壁登攀の後だ。体調不良で寒くなった隊長の要請に応じて、自分も震えながら、命がけでセーターを差し出す峠。涙に震えるシーンだ。「命がけ」というのは比喩ではない。峠はとある「先天性の難病」に罹っているらしいのだ。

病名がはっきり書いてあるのだが、う~ん、その病気にはある程度の遺伝性が認められるけど、先天性ということはないのとちゃうの、という病気である。が、もしその病気であるならば、寒冷刺激は禁忌といっていいくらい避けるべきだし、精神的緊張もよろしくない。峠にとっては、まさに命を懸けた行為だったのだ。ちなみに、その病気、今は「波動療法」でよくなっておられるらしい。喜ばしいことではあるが、やっぱりなんやらようわからん。

帰還時、峠は「自分はどこへ向かうべきか?」を自問する。そして

私にはそれしかない。-そう、歌に生きる「人生」だ。

と、力強く自答し、シンガーソングライターという人生の冒険の旅に漕ぎ出した。らしい、けど、知らんがな、そんな歌手、という、私のような人が多いような気がする。で、ググってみたら、夕陽がまぶしいなんと爽やかなホームページなんだ!こんな感じのいい人がほんとうにヨットからケツを出してクソとかしてたのか…

BS朝日の『鉄道・絶景の旅』をご存じの方は多いだろう。これなら私も見たことがある。峠さんは、あの主題歌とナレーションを担当しておられるのだ。イメージが、イメージが、わけわからん…。ちなみに、HPの『隠れた自慢』には、「オセアニア最高峰2位トリコーラ山(4750m)北壁部世界初登頂」と「三浦半島ーニューギニア島インドネシア領イリアンジャヤ間小型ヨットでの日本人女性初の航海達成」と高らかに謳われているが、この本『冒険歌手』のことは書かれていない。う~ん、やっぱりイメージか…

気を取り直してYouTubeを検索して歌を聴いてみた。うまいっ!って、あたりまえか。いやぁ、隊長もすごいけど、峠さんもやっぱりすごいわ。なんと森永製菓のテレビCMの『モリナガっ』という声も峠さんらしい。ここまでいくと、隊長だけでなく峠さんも世界で一人かもしれんなぁ。ともあれ、ぜひ、この本のHONZイチオシを記念して、あの川口浩の向こうをはって『ゆけ!ゆけ!峠恵子!!』とかを作って歌ってほしいと切に願うところである。

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