『ドラえもん』に出ていた!? 日本発・最先端の宇宙開発ベンチャー

森 旭彦2015年11月23日 印刷向け表示
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『ドラえもん』をはじめとした藤子・F・不二雄SF作品には、類まれな未来の先見性があるのはよく知られていることだ。


僕が宇宙と聞いてすぐに思い出す藤子・F・不二雄作品は、1991年から92年にかけてテレビ放送されていた『21エモン』シリーズ。舞台は2051年のトウキョウシティ(おお、もうすぐじゃないか)。江戸時代から受け継ぐ「つづれ屋」という安ホテルの跡継ぎ息子が、自分のスペースシップを手に入れ、宇宙の様々な星を旅してゆくロードムービーだ。「一話一星」でいろんなストーリーが展開するが、その非常に内容の濃いストーリーは、SF短編集を読んでいる人から見れば、藤子・F・不二雄が決して「子供向け」だけのためにつくったものでないことがうかがえる。
長らくDVDがリリースされない時期が続き、幻化していたが、今はレンタルでも配信でも見ることができる(ちなみに筆者は当時、友人をたよったりネットを駆使して放送時の全録画を集めようとしていた)。


よくよく見ていると、インターネットにも見える検索機能をそなえた情報ネットワークやIoT、iPadのようなタブレット端末など、偶然とは思えないほどの、本物の未来道具がすでに出ている。

そんな藤子・F・不二雄SF作品だが、今回、偶然取材をさせていただいた宇宙開発ベンチャーのビジネスモデルが、どうしたわけかすでにドラえもんの道具として描かれていたので紹介したいと思う。

超小型人工衛星が変える宇宙利用  

2015年の現代日本のトウキョウシティには「人工衛星のオーダーメード」を手がけるベンチャーがある。重さ100kg以下の超小型人工衛星を開発する『アクセルスペース』だ。
人工衛星を超小型化して何ができるのかというと、低コストで開発ができるため、今まで人工衛星を持つことができなかった企業や個人が人工衛星を所有できるようになる時代が到来するのだ。

NASAの大型人工衛星には2.6トンのものもある。そして大型衛星の場合は開発コストが数百億円、小型衛星でも数十億円が相場だ。さらには打ち上げコストも膨大になる。こうした人工衛星は国レベルのプロジェクトでなければ開発も所有も難しい。それは同時に、国レベルにならないと、人工衛星によって得られる情報を手にできないということも意味する。


そこにアクセルスペースは高価な宇宙専用部品を使用せず、信頼性を確保した民生品を使うことで、開発費を場合によっては1億円以下に抑える超小型人工衛星を実現した。1億円と言われると、「十分高いじゃないか」と思ってしまうが、これはヘリコプター1機を所有し、運用するのとほぼ変わらない投資額だ。


さらにアクセルスペースは超小型人工衛星の開発の他に、自社の人工衛星を打ち上げ、地球全球の高頻度観測データを取得することで宇宙の「情報ビジネス」を確立することを目指している。いわば、毎日全球のデータが更新されるGoogle Earthのようなものだと思ってもらっていいだろう。アクセルスペースは、こうして得られた情報を広く社会利用してゆくビジネスを展開しようとしている。

さて、このまったく新しい人工衛星のビジネスだが、どうしたわけか『ドラえもん』のポケットにはすでに道具となってそのアイデアが入っていた。道具の名は「自家用衛星」。このエピソードで藤子・F・不二雄は、人工衛星が小型化し、さらに個人所有する未来までをすでに描いていたわけだ。


ある日、旧ソ連が打ち上げた人工衛星が落下し、流れ星になったものをのび太が「UFOだ!」と早とちりするところからストーリーは始まる。そしてドラえもんが「ひとつ打ち上げてみよう!」ということで、のび太の家の庭から人工衛星が打ち上げられることになる。もちろん、こんなところで人工衛星打ち上げロケットをぶっぱなしたら、のび太の家もろとも周囲が消し飛ぶが、それも大丈夫だ。なんと、人工衛星も、打ち上げロケットも、超・超小型なのだ。

 

 藤子F不二雄『ドラえもん』第17巻
「自家用衛星」より


なんでもドラえもんが誕生する22世紀では、何百万という人工衛星が地球の周囲を回っているという。そこでは、「極超大規模集積回路」の開発によって、ドラえもんの手に乗るほど、人工衛星は小型化しているのだという。それゆえに打ち上げ機も小型化されているというわけだ。ちなみに2003年に日本の大学生が打ち上げた、重さ10キロの超小型人工衛星「CubeSat(キューブサット)」は手のひらに乗るほどの大きさだという。

藤子F不二雄『ドラえもん』第17巻「自家用衛星」より

のび太は人工衛星からのデータを使って、しずかちゃんが家でマンガを読んでいることを知ったり、ジャイアンとスネ夫が空き地にいることも知る。さらにママが急な雨で困っていると知れば天気を自由に操作できる「気象衛星」を打ち上げ、天気を晴れに変えてしまう。

のび太の使い方は、さすがドラえもーん!という感じだが(当たり前)、実際の人工衛星からのデータにも様々な使い道がある。たとえばアメリカやブラジルでは「地平線の果てまでが自分の畑」なんてことも少なくない。そうした巨大農地を衛星から写真データで捉えることで、栽培状況の把握や収穫高予測を行うことができる。


さらには商業施設設置などの際に行われる、周辺の人々の流れやアクセスの良さを実証する「エリアマーケティング」、主要都市部の渋滞についても、地上の情報と掛け合わせることで新しい情報を生み出すことができる。

現在の衛星でもこうした情報を得ることはできるものの、その情報を入手するためのコストは衛星写真1枚あたり100万円と非常に高価で、さらに情報取得の頻度も低い上に、得たい情報が得にくい。アクセルスペースは将来的には1日に一度の全球データを、現在のコストの100分の1程度で提供するのが狙いだという。同社は約18億円の資金調達を行い、自社の衛星3機を軌道上に上げる。

流れ星をつくる

さらには流れ星を開発しているベンチャーも存在する。つくづく最近は、どこまでがSFなのか分からなくなってくる楽しい時代なのだ。
 

流星群や皆既日食、ブルームーンなどの天体ショーは常に私たちを惹きつけるが、人類はまだ宇宙空間で繰り広げられるエンターテインメントを自分の手でつくることには成功していない。それに挑戦するベンチャーが「ALE」だ。そのビジネスは、流れ星をつくること。もちろんホログラフィーやプロジェクションマッピングなどではなく、実際に流れ星をつくるのだ。なんと夢とロマンのあるビジネスだろう。

流れ星は、宇宙空間から地球の大気に突入した物質が光り輝き、流れるもの。ALEは人工衛星に「流星源」を搭載して打ち上げ、宇宙空間から地球へ放出することで、流れ星をつくりだす。まるで花火を見るように、予定された時間と場所で流れ星を見ることができる未来はもうすぐそこまで来ているのだ。

 

藤子F不二雄『ドラえもんプラス』5巻 「流れ星ゆうどうがさ」より

さて、実はドラえもんも似たような道具を持っている。道具の名前は「流れ星ゆうどうがさ」。天空に向けると、宇宙空間にある小さな星が誘導され、地球に落ちてくる。さらにその星を捕まえることもできる。

 

 

藤子F不二雄『ドラえもんプラス』5巻 「流れ星ゆうどうがさ」より

どうしてこんな道具をドラえもんが出したのか。それはのび太の小さな“願い事”に始まる。新しい電子ゲームが欲しくて夜空を見上げていたのび太は、流れ星を見つける。しかしのび太が願い事をする前にその流れ星は流れ落ちてしまった。誰しも子どもの頃、一度や二度は思い出にある出来事だ。
 

そのことをドラえもんに話したところに登場する道具が、流れ星ゆうどうがさだ。ドラえもんは「流れ星を手もとにおいて、じっくりと願い事すれば」と持ちかける。そうしてのび太は流れ星を捕まえようと夜空の中を追いかける。

方法こそ異なるが、流れ星を自在にコントロールするというアイデアが、ドラえもんにはすでに登場しているのだ。私たちにとって、流れ星はとても特別な存在だ。誰かの願いを乗せ、夜空の中を静かに流れていく。そんな流れ星を花火のように流すことができれば、どれだけ多くの人々がその光を見つめ、どれだけの願い事をするだろう? 

同社は流星源、そして放出装置・供給装置を開発中で、様々な実験を繰り返している。2017年後半を目処に衛星を打ち上げ、2018年のサービス提供を目指しているという。

最先端の宇宙開発では、ドラえもんの道具が実現されている。そしてこれからの宇宙開発を変えてゆくのは、他ならぬ民間のベンチャー企業なのだろう。ふと思うのは、ドラえもんの道具は、どれも「未来デパート」で売っているものばかりだということ。そしてドラえもんもおそらくは22世紀の民間ベンチャーによって生み出されているのだろう。


イーロン・マスクの「スペースX」には世界中が注目しているし、宇宙空間を旅行できる日も、もう目前だ。旅行会社のカテゴリに「アジア」「アメリカ」「ヨーロッパ」に「宇宙」が並ぶ日も近いのではないか。本当にワクワクする時代になった。

さて、最後に、このレビューに登場するアクセルスペースとALEというスタートアップの2人の起業家が登壇するトークイベントをお知らせします。渋谷ヒカリエで行われる『TOKYO WORK DESIGN WEEK2015』の11月24日、時間は【第2部】14:45~15:45の「未来の宇宙(そら)へ」です。「宇宙ではたらく」をテーマに、2人の事業、そしてこれからの宇宙についてお話いただきます。私はキュレーターとして参加します。興味を持っていただいた方はぜひ、遊びにきてください。

『TOKYO WORK DESIGN WEEK2015』【第2部】14:45~15:45「未来の宇宙(そら)へ」

大きなところでは、イーロン・マスク率いるスペースXの躍進、身近なところでは、マンガ宇宙兄弟の大ヒットなど、宇宙について考えることがここ数年増えているように感じる。「未来の宇宙の働き方」では、そんな最新テクノロジーの集まりであろう「宇宙」という場所にスポットを当てて、宇宙ビジネスなどの可能性を聞きながら今は無い職業をどう作っていくのかのヒントを得るセッションを目指す。

出演者:◎中村 友哉(アクセルスペース代表取締役)◎岡島 礼奈(株式会社ALE 代表取締役社長・創業者)◎森 旭彦(サイエンスライター)

チケットはこちらからどうぞ!!
 

 

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