すべての逆境をプラスに転化する決意をしたイラストレーターの半生 『トコノクボ』

山田 義久2015年11月25日 印刷向け表示
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マイナビ文庫 トコノクボ くじけない心の描き方
作者:榎本 よしたか
出版社:マイナビ出版
発売日:2015-10-17
  • Amazon Kindle

らばQの猫、ロックマン4のブライトマンと言えば絵が思い浮かぶ人がいるだろうか。
その作者であり、フリーのイラストレーター&法廷画家として活躍されている榎本よしたかさんは、自身のホームページで現在に至るまでの半生記、トコノクボ(「”ボクノコト”を過去から語る」という意味で、逆さから”トコノクボ”)を公開されている。
以前、たまたまそれを見つけ、シャレにならないくらいおもしろかったので、Facebookで紹介したところ、友人たちも「おもしろくて全部一気に読んだ!」とか「感動した!」とかコメントがきまくった。
この本は、そのホームページ上で公開されている半生記と、書籍のための書き下ろしをまとめた一冊である。

イラストレーターの方だからか、目に優しい見やすい絵で構成されているのだが、そこに描かれている半生は凄まじい。しかし、自分の意志で人生を切り開く、とはどういうことなのか本当に考えさせられる作品なので、ぜひ万人に読んでほしいと思う。

榎本さんの生い立ちから20代までは、、なんというか、、逆パワースポット状態で、何か引き寄せているようにさまざまな困難が降りかかる。和歌山県に生まれ、父親のDV、学校でのイジメに苦しみ、高校卒業後は経済的事情により進学の選択肢はなく、ブラック企業に就職。青春を謳歌する同世代を横目にひたすら働き、一方でイラストレーターの道を目指すが、交通事故により障害者となった父親の介護、自身の交通事故、さらに、父親の借金+身内の犯罪による多額の借金を背負った上、さらにさらに、家族を経済的に養う義務を背負う、という状況に追い込まれる。

肉体的にも精神的にも追い込まれるなか、一時期は自殺まで考えるまで至るが、バイトをしながらでもフリーのイラストレーターを目指し続ける。

"外食もほとんどしたことない、ビールが高級飲料"という厳しい経済状況のなか、安定した仕事に就き、様々な不安から逃れるという選択も頭をよぎるが、布団の中で不安に震えようとも、あくまでイラストレーターとして稼いで生計を立てることを誓う

そんな強い決意を持って、イラストレーターという仕事に臨んだ榎本さん。一つ一つ仕事を獲って、鼻血を出しながら仕事を増やしていく姿がさらっ~と描かれているが、そこにはどの分野の社会人でも共通するいわゆる「仕事ができる人」のTipsが読み取れ示唆に富む。例えば、

1.自分で営業すること(自分の技術や技能を自ら売り込むこと)。

2.来た仕事は基本断らないこと(榎本さんは法廷画家の専門でもなかったが、それを受けたことがその次の展開に)。

3.受注した仕事は期限より少し早いくらいで仕上げること

などなど。

サイズに関係なく、こつこつ一つ一つ仕事を積み上げていく。それが信頼に繋がる。ひょんなきっかけで掴んだ法廷画家の仕事が仕事を呼び、生活は安定の方向へ動き出す。フリーのイラストレーターとしての仕事も軌道に乗り、やがて10年の時を経て父親の借金も完済する。

その後、仕事のいい循環が生活のいい循環を呼び込んだのか、旅行先で最愛の人となる女性と出会い、、とその馴れ初めから結婚に至るまでのプライベートも詳しく描かれている。

榎本さんが彼女と結婚することを決めるきっかけが描かれた場面などは、男が結婚相手を選ぶ本質を表している気がするのだが、それは本編を読んで思いを巡らしてみてほしい。

ふと振り返ると様々な出来事が思い出される
楽しい思い出ではなく、当時本当に辛かった記憶の数々
しかし、すべての点は線となって現在があるように思える
全てはつながっていたのだ

これが、作中で一番印象的な榎本さんのセリフだ。

この言葉、それ自体は簡単な言葉だが、心からそう思えるようになるまでは難しい。
榎本さんほどの逆境が襲ってきたら、一種の自己防衛手段として、人柄が荒みまくったり、性格がひん曲がったり、精神を病んだりするほうが、むしろ普通な気がする。
榎本さんは、自分の心を壊さず、すべての出来事を「点」とし、よりよい未来へ続く「線」で結ぶことを選んだ。何かのきっかけでそういう信念を持ったのか、そのような直観をもともと薄々感じていたのか。その辺を詳しく伺ってみたいものだ。

多かれ少なかれ、誰しも生きていくなかで、一定数の逆境に遭遇するもの。それにどう立ち向かうかは人それぞれだと思うが、「逆境に勝つ」とは、ただ逆境に耐えるのではなく、逆境が持つ負のエネルギーを、自分のなかでプラスに転化する決意を持つことだ、という榎本さんの静かだが強いメッセージを感じる本作。悪いことはいわない。一度絶対に読んでおいたほうがいい傑作だ!
おススメ! 

マイナビ文庫 トコノクボ くじけない心の描き方
作者:榎本 よしたか
出版社:マイナビ出版
発売日:2015-10-17
  • Amazon Kindle

追記:ちなみに後半は生まれた子供への愛情が炸裂しまくっていて、それもまた素晴らしい。特に、娘が年頃になったら伝えたい10のことのエントリーがバズっていたし、あと、娘さんが初めてメロンを食べたときのリアクションがあまりに可愛いということで話題になった。

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