「売れた第1巻」の法則について考える!!Vol.01 マンガ市場の再成長のために

角野 信彦2015年11月30日 印刷向け表示
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この度、日販さんのご協力をいただき、「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」の記事について、執筆者の芝原 克也さん(日販 販売企画G)とマンガHONZ編集長の佐渡島、レビュアーの佐藤、上原、山中、角野で対談をさせていただくことになりました。

マンガHONZの菊池の分析記事によると、2013年、2014年とマンガの売上はプラスに転じています。通常の書籍とマンガの違いは、1巻がヒットしたら、2巻、3巻と数字が大きくブレにくいということです。つまり、「売れたコミック第1巻」になんらかの法則性を発見できれば、版元・取次・書店の皆様にとって貴重な情報になるのではと考え、今回の対談を企画しました。

現在のマンガ市場規模の再反転には、Twitterやブログなどで、商業誌に掲載されにくかったタイプのマンガが、まさに雨後の筍のように出現していることが関係していると考えます。市場が成熟して、顧客の嗜好が多様化し、供給者(要はマンガ製作者)が市場の全体をとらえにくくなったときに解を見つけるためには、試行錯誤の回数を増やす必要があります。

Twitterやブログなどのパーソナルメディアが発達したことによって、1話を試験的に読者に届けるコストが劇的に低下しました。そうした恩恵を受けて、数多くの作品がWEBから出現し、人気を得た作品は、紙で出版されることになりました。一方で、スマホというデバイスの普及によって、スキマ時間を情報収集や娯楽のために使えるようになったことでマンガの需要が高まったことも事実でしょう。

そのなかで、マンガHONZは、自然淘汰を黙って見つめるのではなく、有意にヒット率を上げるためのヒントをつかもうとする試みとして、この対談を企画させていただきました。とはいえ、全員が大のマンガ好きであるため、ときに議論が脱線もしているのですが、それもあわせて楽しんでいただければと思います。それでは、議論の参加者のプロフィールからスタートです。


 

芝原克也

日本出版販売(株)販売企画グループコミックチームチーフ。1974年神奈川県生まれ。現在コミックチームにて、コミックの仕入、「全国書店員が選んだおすすめコミック」など書店での販促企画立案を行う。日販運営の情報サイト「ほんのひきだし」でコミック関連の記事を担当。人生のバイブルは「プラネテス」と「寄生獣」

 佐渡島庸平

クリエイターのエージェント会社・コルク代表。編集に携わるマンガ作品に『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)

角野信彦

 犯罪マンガレビュアー。マンガ新聞代表。ライブドアパブリッシングで『ホリタン』などの編集を担当。『風の谷のナウシカ』『カムイ伝』『栄光なき天才たち』など。届きそうで届かない、切ない物語が大好物。

上原梓

アラフォーカープ女子代表。ナレーター。1976年生まれ横浜育ち。マンガと氣志團とももクロとカープが大好き。空気を吸うようにマンガを読み続けて35年。そろそろマンガ様に恩返しがしたいと思っております。

 佐藤茜

アラサー腐女子代表。1986年東京都生まれ。文学部卒業後なぜかIT企業に入社。大人になってからは気の向くままジャケ買いを繰り返す。守備範囲は『姫ちゃんのリボン』から『家畜人ヤプー』まで。

 山中羽衣

1987年生まれ神奈川育ち。早稲田大学卒業。在学中よりPR/プランニング/プロデュースという立ち位置から映画・映像業務に従事。大衆居酒屋と暗くなれるエッセイ漫画が好き。


佐藤茜 「売れた!」って言えるのって何万部くらいからなんですか?

佐渡島 5万出てるとしっかり売れてる感じで、10万でると素晴らしい。

角野 もう『ヲタクに恋は難しい』が30万だから。

佐渡島 30万!!!それは大ヒットですね。

角野 『ダンジョン飯』はどうだろう?4、50万いってるんじゃない?いきなりですが、芝原さんなにかありますか。データ分析しながら考えたこととか?

ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)
作者:九井 諒子
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2015-01-15
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芝原 なんでしょうね、全体的に選ばれてるものの傾向として、過去の実績があるって言う人、大御所は強いなあって感じですね。あとはやっぱりネットとか、ネット媒体で書かれているもの、『ヲタクに恋は難しい』、『女の友情と筋肉』がPixiv(イラスト・小説投稿ポータルサイト)発祥だったり、comico(スマホ向けマンガアプリ)の『保留荘の奴ら』もそうですけど、ネット系がこれだけ上位に入ってくると、『恋と嘘』もマンガボックスですし、これは今っぽいなぁって思います。過去に売れた実績のある作者の作品とか、ネットなどでの発信力のあるものでないと、なかなか1巻は売れづらいのかなぁって思います。雑誌だけでブレイクするのは難しいというのを感じます。

ヲタクに恋は難しい (1)
作者:ふじた
出版社:一迅社
発売日:2015-04-30
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女の友情と筋肉(1) (星海社COMICS)
作者:KANA
出版社:講談社
発売日:2015-01-09
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佐渡島 合計4冊ですか。ネット系は?

角野 いや、まだあるまだある。だから、ネットと連動しない1巻って本当になかなか売れない。そんな感じになってきちゃってますね。

佐渡島 やっぱりこのネットのものがこれだけ入ってきているってことは、ネットで話題になっているというか、読む前に話題になっている、買う前に知っているっていうのは大切ですね。

芝原 そうですね。『ヲタ恋』なんてPixivで更新されるたびに話題になっていましたし、『女の友情と筋肉』もTwitterですごい回ってきましたし、確かに発売前に知られていましたよね。

佐渡島 買う前に知っているっていうことがすごく重要で、それをどう作るかっていう。

佐藤茜 今、雑誌を買う人がどんどん減ってしまっているんですよね。単行本を買う前に判断するものが雑誌からネットに移っている。

芝原 そうですね。だからずっと連載していて、5巻とか10巻でているのに、LINEで無料掲載したらバーン!とはねるというのがあるので面白くても知られていないというのはけっこうあると思います。

角野 まあ、まずは面白いが前提で、知らしめるためにどういう活動を起こせるかが大切なんですね。

芝原 たぶん書店さんに来ない人もいるわけで、うちが「ほんのひきだし」作ったのって、そういうお客さんにアピールするためですよね。

角野 上期に売れた1巻で1位になっている『ダンジョン飯』の売れ方ってどうだったんですか?

芝原 『ダンジョン飯』は初回からもう即品切れ重版重版で、追いつかず。かなりもう何ヶ月も品薄が続いた感じでした。

佐藤茜 1巻発売時にナタリーとかマイナビニュースまで「1巻出た」ってニュースが出ていたので結構びっくりしました。

芝原 これは書店員さんの中にも連載中から「これは面白い!」って騒いでいる人が一部いたなという感じがした。

佐渡島 読む前から騒げるって重要ですよ。

佐藤茜 『ダンジョン飯』は、キャッチコピー的に新しいんですよね。RPGものは通常戦闘・戦術・戦略がメインだけど、ご飯がメイン。読む前から「なんだろう?」って、今までと違う感じがする。

角野 僕これ感想で「RPGの新しい遊び方を見つけたような新鮮さがある」っていうふうに書いたんですけど、そういう一言で言えるような・・・

佐藤茜 宣伝文句的な。

佐渡島 だから、『ザ・ファブル』って面白いんだけど薦めずらいんですよ。「面白い」って薦めかたになっちゃって「この殺し屋マジで会ってみたい」って言われても

一同(笑)

芝原 「殺し屋がお休みしてます」って言っても面白さがなかなかうまく伝わらない。

ザ・ファブル(1) (ヤンマガKCスペシャル)
作者:南 勝久
出版社:講談社
発売日:2015-03-06
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佐渡島 それで『ナニワトモアレ』の人だよっていってもヤンキーものだから普通のマンガファンには伝わりずらい。

角野 オビに風変わりな物語ってかいてありますね。

佐渡島 コルクで編集を担当している作品だと、今回のにはいってないんだけど、データをさかのぼると『テンプリズム』の1巻も入ってたと思うんですよ。50位以内に。

テンプリズム 1 (ビッグコミックス)
作者:曽田 正人
出版社:小学館
発売日:2014-08-29
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角野 『テンプリズム』って上がって来てるでしょ。下がるんではなく。1巻から上昇してくることって珍しい現象ですよね。そういう作品が佐渡島くんが担当している作品には多い。『テンプリズム』もそうだけど、『ドラゴン桜』とか『宇宙兄弟』も。

芝原 1巻も売れなくて、メディア化もなくて、後からジリジリ伸びてくるものが非常に少ないですね。もう1回スポットライトを浴びるのは、メディア化以外ないから、最初に売れないと厳しいです。佐渡島さんがやっているような作品は珍しい。

佐渡島 最初に売れなくて伸びたやつって、そういうのはデータで見れないんですか?それをレビューしていきたいかも

芝原 なるほど。初回が小さいけど、最終的に伸びたもの。

佐渡島 そうそう。『キングダム』とかそうじゃないですか。

芝原 そうですね。

佐渡島 キングダムって、10巻くらいまでは、そこまで話題にはなってなかったですよね。雑誌人気はあるけど、単行本はそれほど売れない。

佐藤茜 え、そうだったんですか。

佐渡島 ヤンジャンの編集部の作品を見る目が鋭かったのと、粘り腰の勝利ですね。
でもアンケートはずっと1位という話だった。

佐藤茜 1位のときは単行本の動きがよくなかったんですか?

佐渡島 そうだったと思いますよ。

芝原 人気はあるけど確かに、ブレイクするまですごい時間がかかりましたね。

角野 なるほど。でも、仕組みとして、このまえ、ある雑誌の話を聞いたんですけど、1巻を出した後の、最初土日の売れ行きで、2巻で打ち切るかどうか決まっちゃうらしいです。

佐藤茜 すごく悲しい話ですね。

佐渡島 最近は決断が早いですよね。

角野 そこまで早くしないといけない、粘らない理由ってなんなんでしょう?

佐渡島 マクロでみたときに、出版市場が縮小しているのは動かせない事実だから。原稿料という固定費、ある意味での投資にたいする平均リターンが下がってきて、必然的に追加投資に対する見切りを早める必要が出てきているということだと思います。

角野 なるほど。読者アンケートでの人気をどうやって売上につなげるかというハードルもあって、そのキャズムをどうやって渡るかという問題もあるんだね。

芝原 上半期の売れた1巻を見ていると、ツイッターの漫画クラスタの間で評判が良かったような作品が、必ずしも上位に入ってないなっていう印象でした。いわゆる漫画読みというようなコアな漫画ファンが好む銘柄はなかなか入ってこないんだなぁって。


佐藤茜 例えば入ってこないって、どんな作品のことですか?

芝原 例えば「このマンガがすごい!WEB」の月刊ランキングの上位にも入っていた『さよならガールフレンド』とか、『A子さんの恋人』とか。とても面白い作品なんだけど、なかなか広がらない。


角野 僕が思ったのは、ゲームが「懐かしさ」呼び覚ますきっかけになっているようなマンガが多い印象でした。1位の『ダンジョン飯』とかそうだし。時期が違うからランキングには入ってないけど『岡崎に捧ぐ』なんていうのもそうですよね。

佐渡島 流行ったゲームのプレイ体験の延長線上に「面白さ」を感じているというのはあるでしょうね。

角野 だから、「面白さ」って、結局、納得っていうか、共感できるっていうところが大きいと思うんですよね。作品を読んで、「こういうこと、わたしの子供の頃にもあったよね」「うん、あった、あった」というような。そういう共感するとか、懐かしさを呼び起こすきっかけがゲームになってきてるんですよね。

で、あとは「小さい物語」が増えてると思う。昔だったら、巨人に入ってエースになる、ボクシングなら世界チャンピオン、ゴルゴは東西冷戦に一役買い、悪の組織は世界征服を狙っている。そういう「大きな物語」だったけど、『亜人ちゃんは語りたい』とか、要は、これ、デミちゃんって、人間の「コンプレックス」のカリカチュアって言ってもいいと思うんですね。「コンプレックス」を先生に相談しているだけで、ストーリーにしちゃうとか、物語がすごい細分化されてきているという印象ですね。

『花井沢町公民館便り』とかもそうですよね。これ、マンガHONZで工藤さんがレビュー書いたでしょ。これもさ、出られない街みたいな設定で、その中で起こる物語なんだけど、日常に普通にある「ブルーな気持ち」を「街から出られない」というSFっぽい設定で増幅してるんですよ。「小さい物語」を増幅装置をつけて、顕微鏡で見るように拡大して作品にしてるんですね。そんな感じの「小さい物語」がヒットした1巻に多いという印象です。断っておくと、小さいから悪いという話ではないですよ。『メジャー』と『メジャー2nd』の違いみたいなものですね。

花井沢町公民館便り(1) (アフタヌーンKC)
作者:ヤマシタ トモコ
出版社:講談社
発売日:2015-03-23
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MAJOR 2nd(メジャーセカンド) 1 (少年サンデーコミックス)
作者:満田 拓也
出版社:小学館
発売日:2015-06-12
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

  Vol.02 に続く

本対談のきっかけとなった「ほんのひきだし」の上半期コミック第1巻売上ランキングもあわせてご覧ください。

「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」

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