マイナンバー制度が不安?それなら、極限の人間賛歌『蛮勇引力』を読むしかない。

佐伯 英毅2015年11月26日 印刷向け表示
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蛮勇引力 上 (ジェッツコミックス)
作者:山口 貴由
出版社:白泉社
発売日:2007-09-28
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最近見かけるマイナンバー制度に関するニュースは、なんだか不安を煽ってくるものが多いような気がする。

マイナンバー制度が導入されると、一体どんなメリットがあるか、今までと比べてどれだけ便利になるか、ということにはあまり詳しくはないが、マイナンバー詐欺なんていう新手の詐欺事件が増えだしているのは、知っている。

不穏なニュースばかりだと、ついこんなことを考えてしまう。

「もし、このまま色々なことが管理されていったら一体どうなるのか…」

 

そんな「漠然とした未来への不安」を「未来の超管理社会VS 野蛮人の闘い」を通して描いた作品がある。

『蛮勇引力』という漫画である。

このマンガで、『1984』のビッグブラザーや、『未来世紀ブラジル』の情報省にあたるのが神機力Q発電「国常立尊」であり、徳川惑星である。

『未来世紀ブラジル』をつくったテリー・ギリアムが「この映画は1984年版『1984』だ。」と語ったらしいが、2007年の東京版『1984』が『蛮勇引力』なのだ。

人はビッグブラザー(ジョージ・オーウェルが『1984』の中で、ヨシフ・スターリンをモデルに描いた独裁者)を恐怖する。『1984』が書かれたのは1948年、共産主義がリアルな脅威として勃興していた時代だ。マイナンバーも含めて、世の中には「管理される」ということに対する恐怖が溢れている。そして、我々はそれに対抗する「自立した自由な個人」に強いあこがれをもつ。一方で「長いものに巻かれる」気持ちよさを感じながら。そういう複雑な人間のありようが、創作者に、こうした「管理社会VS自由な個人」というモチーフを繰り返し描かせる動機になったのだろう。

 

それでは、この漫画がもつ、新しさとはなんだろうか。

それは、とにかく熱いということ。こちらに凄まじい熱量で語りかけてくる。熱くて熱くて、読んでいると自分の中の「人間らしさ」「ヒトの雄」の部分が、熱をもってくる。単行本のウラには、この漫画がどのような物語かが書いてある。

 

これは狼や鷹の物語だ

愛だとか 夢だとか 成功だとか、

そんなものは押し流す

太い野生の川を泳ぐ者たちの物語だ

 

もはや、冗談か本気かわからないだろう。本物の創作というのは、冗談と本気の境目に生まれる。それがカブくということなのだ。

主人公・由井正雪が登場する1話の導入を読んでもらえれば、

この漫画の「引力」に“引き寄せられる側”か否か、ハッキリ別れるだろう。

 

 山口貴由『蛮勇引力』

 

なんて大胆不敵で、シビれる導入なんだ…… 
汲めども尽きぬ真清水の如きエネル源

という素晴らし過ぎるワードの並びは、一体どのように生み出されるのか、全然検討がつかない…。この独特のリズムと、圧倒的な熱量、毛筆風の明朝体、そして主人公・由井正雪の自由を求める狂気が物語をドライブしていく。

由井正雪の敵は、神都の中枢にいて全てを掌握する、徳川惑星というボス、この物語のビッグブラザーである。しかしながら、この徳川惑星という人物は、自らの中に確固たる信念を持っていて、一概に悪とは言い切れないボスなのである。

 

 

 山口貴由『蛮勇引力』

徳川惑星が言うように、世の中はどんどん便利になっていく。

だが、進んでいく世の中で、

「失われていくもの」もあるだろう。

由井正雪と神都の闘いの始まりは、窮屈さを表したような、サラリーマンが溢れる神都駅から始まる。

ここでの彼のセリフは、「失われてはいけないもの」は何か、ということを表している。

 

 山口貴由『蛮勇引力』

何にも支配されない、

自由人である由井正雪と、

人類愛をもって文明を押し進めていく、神都の主・徳川惑星

どちらが勝って、人類はどうなるのか? 

この物語がどのような結末を迎えるのかは、自分の目で確かめてほしい。

そして、あなたはきっと、未来への「漠然とした不安」は、蛮勇なる行動によってしか解消されないという夢を見ていることだろう。その夢が正夢であると証明する勇気があなたにはあるだろうか。 

蛮勇引力 上 (ジェッツコミックス)
作者:山口 貴由
出版社:白泉社
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蛮勇引力 下巻 愛蔵版 (ジェッツコミックス)
作者:山口 貴由
出版社:白泉社
発売日:2007-09-28
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