「売れた第1巻」の法則について考える!!Vol.02 マンガ市場の再成長のために

角野 信彦2015年12月01日 印刷向け表示
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 この度、日販さんのご協力をいただき、「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」の記事について、執筆者の芝原 克也さん(日販 販売企画G)とマンガHONZ編集長の佐渡島、レビュアーの佐藤、上原、山中、角野で対談をさせていただくことになりました。前回(VOL.1はコチラ)に引き続き、2015年上半期で売れたコミックス第1巻売上ランキングBEST50冊を語る会(通称50巻会)の模様をお送りいたします。

人物紹介


 

芝原克也

日本出版販売(株)販売企画グループコミックチームチーフ。1974年神奈川県生まれ。現在コミックチームにて、コミックの仕入、「全国書店員が選んだおすすめコミック」など書店での販促企画立案を行う。日販運営の情報サイト「ほんのひきだし」でコミック関連の記事を担当。人生のバイブルは「プラネテス」と「寄生獣」

 佐渡島庸平

クリエイターのエージェント会社・コルク代表。編集に携わるマンガ作品に『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)

角野信彦

 犯罪マンガレビュアー。マンガ新聞代表。ライブドアパブリッシングで『ホリタン』などの編集を担当。『風の谷のナウシカ』『カムイ伝』『栄光なき天才たち』など。届きそうで届かない、切ない物語が大好物。

上原梓

アラフォーカープ女子代表。ナレーター。1976年生まれ横浜育ち。マンガと氣志團とももクロとカープが大好き。空気を吸うようにマンガを読み続けて35年。そろそろマンガ様に恩返しがしたいと思っております。

 佐藤茜

アラサー腐女子代表。1986年東京都生まれ。文学部卒業後なぜかIT企業に入社。大人になってからは気の向くままジャケ買いを繰り返す。守備範囲は『姫ちゃんのリボン』から『家畜人ヤプー』まで。

 山中羽衣

1987年生まれ神奈川育ち。早稲田大学卒業。在学中よりPR/プランニング/プロデュースという立ち位置から映画・映像業務に従事。大衆居酒屋と暗くなれるエッセイ漫画が好き。


表紙の話

上原 私は大体本屋に行って、今まで完全にカバーで買ってきたものを、こうも自分の感覚にビっとこないものを50冊も読む機会は…貴重だったんですけど(笑)。ただ、ビっとこないっていう感覚は結構正しかったんだなって思います。ビっと来なくて、読んでみて、ああ貴重だった、この本めったに出会えなかったと思うものってないんですよね、あんまり。

佐渡島 表紙って結構情報を正しく伝えてますよ。

上原 表紙が、なんかワンショットカメラ目線で目力押し?みたいなって、顔のアップで、カメラ目線で。それがやたら多いなっていう(笑)。

角野 こういう表紙が売れるっていう傾向あるんですか?

佐渡島 目がね、合わないと、書店で売れないと言われてますね。

芝原 目を背けないで合わせたほうがいいというのは聞きます。

角野 気づきにくいですよね、確かに。

上原 私、それで言うなら『HIKARI-MAN』でしたね。表紙から内容がよく分からなくて、タイトルも読めなくて、読んだら面白かったんですが、自分で本屋を巡回しているときには、ここまでたどり着かなかった。

HIKARIーMAN 1 (ビッグコミックススペシャル)
作者:山本 英夫
出版社:小学館
発売日:2015-02-27
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佐渡島 結構表紙って、プロフィール写真みたいなところがあるから、目を読者と合わせて、「買って!」っていうところがないとダメな気がする(笑)。今回、この企画をやんないと、『ザ・ファブル』を、表紙だけでは絶対読まなかったけど、本当に面白かった。雑誌で追いかけたくなるくらい。

佐藤茜 本当に『ザ・ファブル』は、すごく面白い。2、3巻すぐ買っちゃいました。

ザ・ファブル(1) (ヤンマガKCスペシャル)
作者:南 勝久
出版社:講談社
発売日:2015-03-06
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●WEB上でファンのコミュニティを作る重要性

芝原 でも、これは南勝久さんの前作の『ナニワトモアレ』より動きが遅いですね

上原 私は『ナニワトモアレ』と同じくらいか、もっと面白くなってると思う。

芝原 そう名作だと思うんですが、 なぜか新連載になったタイミングで、お客さんが切れちゃうんですよね。急にパカッて落ちるんですよ。

佐渡島 これ、曽田さんが『capeta』で獲得した読者が、そのまま『テンプリズム』について来てくれないのと同じ現象ですよね。

芝原 雑誌読んでいる人減ってきちゃってるんで出たことに気づかないっていうのもあるんでしょうけど、熱心に「作家名」で追いかけている人も減ってるのかもしれないですね。

角野 だから顧客リストをネット上でキープするのはすごく大事ですよね。

佐渡島 そういう意味で言うと、この『ランド』みたいな作品は、ちょっと難しくて、型にもはまってなくて、世間的にもどう感想いえばいいのかわからないものが、しっかり当たっているっていうのがすごい。

佐藤茜 山下さんは、きっともう固定客がガッツリついてますよね。新作出すと、絶対あたってるように思っていたんですが・・・

佐渡島 でもね、40,000とか50,000とか固定客がついている作家ってほとんどいなくて、知名度高くても。やっぱりWEB上にファンのコミュニティをつくって、継続的に作家とファンがコミュニケーションがとれることはこれからものすごく重要になってきますね。

ランド 1 (モーニングKC) (モーニング KC)
作者:山下 和美
出版社:講談社
発売日:2015-04-23
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物語の「型」がもつ商業的な力

芝原 書店さんでプッシュしても、その作家さんのファンだったお客さんがその期間に書店に来なければ気づきもしないわけですし、1ヶ月ぐらい経っちゃうと新刊でも平台から撤去されちゃいます。だから、名前が売れている大御所でもないし、ネットもやってない作品が売れたのは奇跡ですよね。だからすごいと思うんです、『ゴールデンカムイ』なんか。そういう意味では。

佐渡島 『ゴールデンカムイ』とかって、絵が抵抗感ないので、誰にでも受け入れられるわけじゃないですか。新人さんということもあって、作家も編集も努力してそうしてると思うんですが、絵がすごく受け入れやすくて、コマ割りも自然で、読みやすい。それに、まだ、当たってない、新人の方を、レベルの高いベテラン作家よりも、新しく見つけたいっていう感じが読者には常にあると思うんですよ。そこにチャンスはある気がしますね。『宇宙兄弟』もそれまでの小山さんが当たってないなかだったから、注目されたっていうのも大きいかなと思ってて。

芝原 やっぱり大御所さんだと厳しくなりますよね、判断基準が。前よりつまらないとか、前の作品と比べちゃうんで

角野 これの売れ方ってどういう形なんですかね?

芝原 これはもう、最初からバカバカ売れて、どんどん重版突っ込んでっていう感じですね。即完売して市場から消えました。だから、もともと連載中から話題にはなっていたんで期待値は高かったんだけど、まあやっぱり、みんな今、1巻から大勝負しなくなっているんで、売れたら、即重版みたいな感じですね。

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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角野 僕は新人っていう要素はあると思っていて、マンガHONZのレビュワーの話でね、最初からいるレビュアーさんと最近入ってきたレビュアーさんの違いは明確にあります。最近入った人たちは、「これこうした方がいいよ」っていうことをすぐに実践して、タイトルも「お願いします」みたいな感じでやってバズる物が多いんですけど、ベテランの場合は「こうした方がいいんじゃないですか」って言ったら、「いえ角野さんこれはこういう考えで・・・」みたいな感じで、すごい長い議論になっちゃって、で、最後に出てくるのが、お互いの妥協案みたいな感じになっちゃってる。

佐藤 耳が痛い(笑)

角野 だから、『ゴールデンカムイ』とか、入れ墨を集める話とか、ドラゴンボールを集める話じゃんと思って。定番に面白いというか、こういうの普通にウケるよっていうか、そういう型があって、新人のほうがすなおに編集の話を聞いてハマりやすいというところがあるのかなって。それで新人が売れるっていう所があるんじゃないかな。

佐渡島 今まで型にはまったことがないから、型にはまることが楽しい っていうのもあるでしょうね。僕、伊坂さんと『モダンタイムス』やってた時に、伊坂さん、みんな伏線を回収するのを期待するんだけど、伏線を貼っているの自分だから、自分としては、面白さが減っていく。自分で広げた風呂敷を、自分でたたんでいるだけだから、皆すごいすごいって、言うんだけれど、「これ、すごいことなのか?」みたいな疑問がわいてくるらしいんですよ。

佐藤茜 ひゃー・・・天才の悩みですね。

一同 (笑)

佐渡島 そういう話をしていて、でもそれって、十年とかやってると、必ず起こってくることです。そうすると、今度は風呂敷を畳まないまま楽しませる方法ってあるのかな?今まで、誰もやっていない型ってあるのかな、っていうふうに、探すっていうのがあって、やっぱり新人の作品っていうのは、型の面白さみたいなのはあります。新人からすれば、新しいもの作ってるっていう感覚なんだけど、実は編集とタッグを組んで定番の面白さに近づいていくっていうのがありますよね。ジャンプの作品っていい意味でも悪い意味でも型がありますよね。

芝原 『ブラッククローバー』もある意味そうですよね。

角野 『僕のヒーローアカデミア』もそうですけど、物語って30くらいしか型がないっていうのは、ジョージ・ルーカスがスターウォーズを作るときに参考にした、ジョセフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』とか、川上量生さんが『コンテンツの秘密』で紹介していたウラジミール・プロップの『昔話の形態学』などにも書いてある学問的には定まった話なので、ストーリーがある程度「型」に依拠するのはしょうがないと思うんですよね。最近、チャンピオンもストーリーにおける「型」の重要性というのを意識してる気がしてます。これからチャンピオンは『弱虫ペダル』と『少年ラケット』の路線を強く押し出してくると思う。当然、「型」のある物語は、水戸黄門や半沢直樹シリーズがあれだけ当たっているのを見れば明らかなように商業的にもすごく力をもっている。

佐渡島 だから、娯楽商品としてのマンガを楽しんでいく場合と、作家性のつよい作品としてのマンガって両方存在していて、娯楽商品としてのマンガを、作家性の強い作品としてのマンガとしてけなすと、その人の職人技を否定してしまうことになりかねない。テンポとかコマ割りとか、1本1本の線がきれいに書けるとか、そういうところはむっちゃ努力してるから、そこは素晴らしいところだと思います。街の写真屋と写真家として食っていく人は、撮る写真が全く違うじゃないですか。みたいなことが、実は、おんなじ市場で起きているなあって気はしますね。

角野 それでも、ある程度のポピュラリティを獲得しないと消えていっちゃうわけで、そのバランスをどうとっていくのかっていうことですよね。ただでさえ、売れなくなってきているから、

芝原 やっぱり、ポピュラリティという意味で言うと、今のトレンドに乗っているっていうのは大事です。例えば『ハニー』とか『俺物語!!』が売れたから、「強面だけどカワイイ男子」というような同じ流れに乗っている作品が増えてきたのかなと。そうすれば、その漫画を買っている人の何パーセントは買うみたいな、ある程度の市場が読めるというのは多少ありますよね。

ブラッククローバー 1 (ジャンプコミックス)
作者:田畠 裕基
出版社:集英社
発売日:2015-06-04
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角野 『ゴールデンカムイ』1巻、まだ3刷なんだ。これね。でもね。Googleトレンドで見たら、このランキングの中で1位ですよ。ダンジョン飯を抜いて検索クエリー数が。発売のときからじわじわと伸びるマンガって本当に少ないんだよね。

佐渡島 『インベスターZ』なってますよ。

角野 ああ。『テンプリズム』もこうなっている。

佐渡島 僕のやつ全部そうですよ。結構僕最初からキャンペーンやるんですけどね。

角野 なんかあの、『テンプリズム』の武器を投票してもらうとか。

佐渡島 型があるという意味では、『波よ聞いてくれ』もすごいいいなと思いましたね。『無限の住人』の沙村さんがこれを描いたってことがすごいなと思いましたよ。

波よ聞いてくれ(1) (アフタヌーンKC)
作者:沙村 広明
出版社:講談社
発売日:2015-05-22
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上原 沙村さんの作品を全部見ると、『無限の住人』がむしろ異色なのかなぁって。

佐藤茜 『ブラッドハーレーの馬車』とか『春風のスネグラチカ』みたいにシリアス路線もありますが、コメディ・ギャグも多いんですよね。

角野 『波よ聞いてくれ』はストーリーとしては定番だよね。ピグマリオンコンプレックスというか、男が女の子を自分のいいように育てている。プリティ・ウーマンというか。・・・それ、上原さん独自資料を自分で作ったの?

上原 自分で作ったやつ。

佐藤茜 すごいなあほんと。

上原 でも全然書けなかったんですよ。(資料をみながら)やっぱほらほら一緒に『ベアゲルター』が買われている。

芝原 やっぱそうですよね。『ベアゲルター』2巻が久々に出て。

佐藤茜 型がないというか、見えないという意味で『ザ・ファブル』はいいですよね。顔がイケメンとて描写されてないけど、すごく格好いい。

角野 『ザ・ファブル』、僕も読んで面白かったんですけど、なんかどうも、でっかい敵とかもまだ出てこないし、殺し屋ものとしては革命的に「ユルイ」感じですね。最終的にどこにいきたいのか、わからない。そんな感じもいいですね。

佐藤茜 これは日常系なんじゃないですか?銃がでてきているだけで実は

上原 あれじゃないかな。2巻ででてきた女の子がなんかなるんじゃないかと思ったけど。

佐藤茜 ラブストーリーになるの?もしかして!

上原 それは、死ぬか犯されるかと思ったけど。

佐藤茜 けっこういきますね!こわいわぁ。
 

Vol.3に続く

本対談のきっかけとなった「ほんのひきだし」の上半期コミック第1巻売上ランキングもあわせてご覧ください。

「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」

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