「売れた第1巻」の法則について考える!!Vol.03 マンガ市場の再成長のために

角野 信彦2015年12月02日 印刷向け表示
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今回は佐渡島が、マンガの批評空間について語ります。レストランの批評とマンガの批評を比較しながら面白い話に展開していきます。今回はとくに読み応えありますよ。

マンガのメインストリームが消えて細分化された世界での批評空間

佐渡島 マンガって、本当に初期の初期は、風刺で、社会風刺の一コマっていうのが漫画っていうのがあり、次に手塚さんみたいなストーリーものの少年マンガが売れ、そして青年向けの劇画みたいなのが売れてくるとか、当初はバリエーションが少なかったんですよ。マンガ市場が成長していきながらジャンルもどんどん細分化していって、漫画で語れる領域もものすごく広がりましたよね。

多分、マンガも最初は食事とかと同じで、空腹のときに食べるものがあるだけで幸せみたいな状態だったと思うんですよ。作家の分類も小説家と漫画家みたいな分け方だったのが、だんだんと少女、少年、青年とか分かれていって、劇画とかギャグとかストーリーとかどんどん細分化されてきた。

それで、食物も当然細分化されてきてるんだけど、食物のときって、ラーメンとフランス料理を同時に語るってバカらしい。フランス料理のところだと、サーブがなってないとか、マリア―ジュのワインのそろえが悪いとか、そういう風なこととかいろいろ言えるけど、ラーメン店行って、「ここ酒の品揃え悪いな」っていう文句を言う風なことって起きないと思うんですよ。

マンガって、しっかりと食べ物みたいに、これはこのジャンルみたいなのって認識されてなくて、批判されてるマンガが、これ作家の意図も、読んでる人も全然違う楽しみ方しているのに、そこ批判しちゃダメなんじゃないのとか、このは作品こういう意図で作っているのに、それを気づいている人少なすぎるんじゃないかみたいな感じで、語られる場がないから、間違って語られてる?みたいなことを感じてます。

食べログの評価で、星すごく低くつけてる時に、「水が有料だなんてありえない!」ていうのがあって、水が有料な店けっこうあるのに、それ知らないのはあなたの問題だよってことがあって、マンガだとそういうレベルでの批判っていうのが起きちゃってる。そうじゃなくて正しく議論していくっていうのが重要なのかなって。

作家が分かりやすさというのを重視していない作品というのは当然あるわけで、それで分からない作品とかも、分からないなりに、そのジャンルでのコンテクストを理解していると分かったり、そのジャンルが読まれているというのは、読者にもわかるはずなんです。

「塩ラーメン」と「醤油ラーメン」と「豚骨ラーメン」あるなかで、「背油ラーメン」が出てくるのは分かるはずなんだけど、急に背油出てくると「なんだこの脂っこいのは!?」ってなるような読者も若干いるのが現状です。それで読者がそのジャンルのコンテクストに乗ってない限り、入れないなっていうマンガがベスト50のなかで売れているという印象を持っています。極端にコンテクストに乗っている作品が多いんじゃないかな。ただ、それぞれのジャンルの料理人が、職人さんとして、すごく懇切丁寧に作られているマンガは多いなっていうのは思ったんだけど。

一方で、僕は一流って言われる漫画家の人たちっていうのは、そういうジャンルを超えてきて、ジャンクな気持ちを満足させつつ、しっかりと質もキープしているみたいな感じで、幅広く受け入れられる面白さがあると思っていて。実は、ジャンルが狭いマンガていうのは極端な設定やキャラクターで、リアリティを感じづらい。その文脈を知っていると楽しめるんだけど、知らないと「この人なんなのか」みたいな感じになって、思考の仕組みが分からなくなる。

ジャンルを飛び越えて読ませてしまう一流の人たちはやっぱり観察力と情報の整理力がすごいなと思います。『ザ・ファブル』なんて、殺し屋という特殊な世界でも、もしかしたらこの殺し屋いるかも、みたいな気持ちになってきて、「この殺し屋好き!」みたいな気持ちになりますからね。『ストッパー毒島』とかも毒島好きになるじゃないですか。ハロルド作石さんとか小林まことさんとかに通じるものが『ザ・ファブル』にはありますよね。

ザ・ファブル(1) (ヤンマガKCスペシャル)
作者:南 勝久
出版社:講談社
発売日:2015-03-06
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角野 キャラや設定の話でいうと、前、堀江信彦さん(元少年ジャンプ編集長)と佐渡島くんの対談で、キャラが立ってるマンガと、設定が主人公になっているものがあって、キャラ立てて主人公にできない作家は設定を主人公にすればいいんだよっておっしゃってましたよね。『よろしくメカドッグ』とか、キャラはそれほど立ってないけど、あれは車のカスタムをするという設定が主人公で、それが面白くさせるっていう。そういう、キャラが立ってるというか、立てられている漫画って少なくなっているのかなって思う。

よろしくメカドック 1 (ジャンプコミックスセレクション)
作者:次原 隆二
出版社:ホーム社
発売日:1984-02
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佐渡島 もともとキャラを立てるっていうのはすごく難しくて、人を想像するってなかなかできないことだから、

佐藤茜 キャラが立っているマンガは同人誌になりやすいんじゃないですか。キャラの思考を推察しやすいので、妄想しやすい。

佐渡島 だから、キャラが立っている作品でいうと、この『ファブル』と『波よ聞いてくれ』の女性キャラもキャラ立ってたし、この2作がほんとよかったな~

波よ聞いてくれ(1) (アフタヌーンKC)
作者:沙村 広明
出版社:講談社
発売日:2015-05-22
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山中 私はジャンルとかネットの文脈とかいう話でいうと、専門用語の使い方とか特殊だなあって感じて、物語が良くできているというより、その「言葉づかいを面白い」って感じるコミュニティができていると思いました。映画とかで、内容が全然面白くなくても、そのコミュニティの界隈がいいと思ってるとヒットしたりするんです。

芝原 その世界だけでわかる、文脈とか価値感とか?

佐藤茜 これはいいってみんな言っているみたいな?

山中 そういうのを感じて、支持しているコミュニティがあるのかなって思いました。

角野 コミュニティに対してしっかり伝わるようにという意味では、『でぃすこみ』は、ゆうきさんのコミュニティに新刊がでたことを伝えるという販売方法でしたよ。

上原 2冊同時に出ませんでしたか、ゆうきさん。

角野 そう、一緒に買っている率高かったと思うよ。『白暮のクロニクル』と一緒に買っている率50%ですし。

でぃす×こみ 1 (ビッグコミックススペシャル)
作者:ゆうき まさみ
出版社:小学館
発売日:2015-01-09
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白暮のクロニクル 1 (ビッグ コミックス)
作者:ゆうき まさみ
出版社:小学館
発売日:2014-01-30
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芝原 1巻を売るために、同じ作家の作品をぶつけるとか、最終巻と一巻を同時に販売するというのがすごく増えてきてますよね。

佐渡島 そうなんですか。

芝原 そうですね。小学館さんとかは意図的にやっている感じで、切れ目なく同じ作家さんの作品を投入してきますね。

佐藤茜 何かフェアで3冊同時刊行とかありますよね。

芝原 まあ、逆に集中しすぎるとお金が足りなくて買えないというのもあると思うんですけど。

佐藤茜 財布が辛くて3冊の中でどれを買うか・・・って悩んだことあります(笑)

角野 ウェブで1コママンガとか、1ページマンガとか書いてる作家さんはダイレクトに読者からフィードバックもらいながら毎日・毎週のように顧客のリテンションしてる一方で、紙だけだと雑誌を読まないセグメントには3ヶ月に1回とかしかリーチできなくなるから、そういう工夫がないとお客さんに注目してもらうのが難しいですよね。

Vol.04に続く

  対談メンバープロフィール


 

芝原克也

日本出版販売(株)販売企画グループコミックチームチーフ。1974年神奈川県生まれ。現在コミックチームにて、コミックの仕入、「全国書店員が選んだおすすめコミック」など書店での販促企画立案を行う。日販運営の情報サイト「ほんのひきだし」でコミック関連の記事を担当。人生のバイブルは「プラネテス」と「寄生獣」

 佐渡島庸平

クリエイターのエージェント会社・コルク代表。編集に携わるマンガ作品に『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)

角野信彦

 犯罪マンガレビュアー。マンガ新聞代表。ライブドアパブリッシングで『ホリタン』などの編集を担当。『風の谷のナウシカ』『カムイ伝』『栄光なき天才たち』など。届きそうで届かない、切ない物語が大好物。

上原梓

アラフォーカープ女子代表。ナレーター。1976年生まれ横浜育ち。マンガと氣志團とももクロとカープが大好き。空気を吸うようにマンガを読み続けて35年。そろそろマンガ様に恩返しがしたいと思っております。

 佐藤茜

アラサー腐女子代表。1986年東京都生まれ。文学部卒業後なぜかIT企業に入社。大人になってからは気の向くままジャケ買いを繰り返す。守備範囲は『姫ちゃんのリボン』から『家畜人ヤプー』まで。

 山中羽衣

1987年生まれ神奈川育ち。早稲田大学卒業。在学中よりPR/プランニング/プロデュースという立ち位置から映画・映像業務に従事。大衆居酒屋と暗くなれるエッセイ漫画が好き。


前回までの対談はこちらです。

本対談のきっかけとなった「ほんのひきだし」の上半期コミック第1巻売上ランキングもあわせてご覧ください。

「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」

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