WEB×マンガ表現の最高到達点! 現代版トキワ荘『トキワブルーに憧れて』を読んで劣等感と戦え

徳谷 柿次郎2015年11月30日 印刷向け表示
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はじめまして。株式会社バーグハンバーグバーグの徳谷柿次郎と申します。最近は、どこでも地元メディア『ジモコロ』の編集長として日々奮闘中です。

さて今回、マンガHONZのレビュアーである小禄さんに「柿次郎さんが面白いと思っているマンガのレビューを描いてほしい」と言われて、走馬灯のように名作タイトルが脳内を駆け巡ったんですが…。最終的に「マンガHONZで最初に書くならこれしかない」と選んだ作品がこちらです。

タイトル
作者:牧 鉄兵
出版社:トーチweb
発売日:2015-05-22
 
鋭いコンセプトの漫画を次々に発表している「トーチweb」で連載中の『トキワブルーに憧れて』。漫画家、映像作家として活躍中の牧鉄兵氏が2015年5月22日に第一話を発表した本作は、約10年前にネット上に自身がこっそり公開していた漫画のリメイク作だそうです。
 
かつて、まんが家が興味と好奇心と情熱だけで
何にでも挑戦していった時代があったーー。
そんな精神をもった現代の「まんが家」に憧れ、
クリエイティブな世界で働いている著者の、
若かりし日の苦闘と努力、興奮と挫折を描く、
ドーパミンとアドレナリン全開の青春ノンフィクション!
何かを創り出す仕事に携わっている人すべてに読んでほしい、
クリエイター版「まんが道」。
 
仕事中になにげなく読んだんですが、「うわー!おもしろすぎるー!!」と心の中で叫んで、そのままの文字列を静かに同僚や漫画好きの知人にメッセを飛ばしまくった経緯があるほど衝撃を受けたんですよね。

今時の会社員が、ネットを通じて出合った感動の表現として最上級ではないでしょうか?
 

この作品は、地方から東京に出てきた若者(作者本人が主人公)が、「パラッパラッパー」のシナリオを手がけた伊藤ガビン氏、「コップのフチ子」を作ったタナカカツキ氏といった一流クリエイターに囲まれながら、自身の才能と向き合うことを余儀なくされる厳しさを描いています。

また、圧倒的な才能をまざまざと見せつけられつつも、「このままでは絶対にダメだ! 俺はもっとやれる!」という“最適な努力の方向性”に深く潜り込んでいく瞬間が大きな見どころといえるでしょう。「クリエイター版 まんが道」という例えも納得!

すべての始まり、この漫画の初期衝動はこのシーンに宿っている

とあるプロジェクト用にキャラクター案を考えて来て欲しいと、伊藤ガビン氏に頼まれる場面。主人公も「ウーン、ウーン」と頭を悩ませながら“自分の中での創作活動”に勤しむものの、一晩で仕上がったのは1体のみ……。

翌日出社してみると、タナカカツキ氏が驚くべき言葉を口にします。

ドクンッ!!

狼狽する主人公。むしろ宙を浮くレベル。この感覚はクリエイティブの現場に限らず、一般的な仕事に置き換えると身に覚えがあるのではないでしょうか。プレゼン用のパワポ資料や時間の無い中での企画提案書、数日で上がってきたWebデザイン、数パターンのロゴなどなど……

この経験、僕は凡人代表として何度もあります

まず、その場から消えて無くなりたい衝動を必死に堪えますよね。そのまま同じ土俵で相撲をとり続けるのか、マゲを切って違う世界へ主戦場を切り替えるのか。厳しい世界で生きる覚悟が問われる瞬間なんでしょう。ここで脱落していく人も多いんだろうなぁ。

クオリティとスピードが両軸で担保された成果物のパワーは強大すぎる。

この体験を機に主人公は、これまで抱えていた自信をミクロレベルで粉々にされて、圧倒的な才能と努力を目の当たりにし、絶望にも近い心境に陥ります。

実は、この“一晩で100体を仕上げてきたタナカカツキすごすぎ伝説”は、タナカカツキ氏と牧鉄兵氏と親交のあるシモダテツヤ(バーグハンバーグバーグ代表取締役)から聞いたことがあってですね。東京にはスゴいクリエイターが身近にいるという皮膚感覚はこういった人づたいの話から生まれるものであり、同時に東京の才能が集まる密集率を物語るエピソードなんじゃないかなと思うわけです。

あの噂で聞いていた伝説のエピソードが、なにげなく読み始めたWeb漫画で目に飛び込んでくるだなんて…!

ここまではまさに現代版「まんが道」ともいえる一流のクリエイターを生む現場ノンフィクションとして秀逸なんですが、ここから牧鉄兵氏の本領発揮というべきか、本来描きたかった表現にグイッと踏み込んでいきます。

言葉は不要! Web×マンガ表現の最高到達地点

ひたすら机に向き合って、理想に近い表現を求め続ける苦悩……。古典的な漫画表現のオノマトペが立体的に浮き上がり、映像作家としての色彩感覚が背景に宿り、これまで目にしたことのないような漫画のコマが並び始めます(ゾクゾクするっ…!)。

劣等感をエネルギーに換えて目の前のクリエイティブと戦う牧鉄兵氏。このマンガの肝ともいえるシーンに僕は心を鷲づかみにされました。

うわああぁぁぁぁっ! 最高ぉぉぉぉっ!!

Web漫画というフィールドだからこそ発揮できる一枚絵の迫力。こだわりの3D表現が第3話に凝縮されています。いやー、映像作家として先鋭的な作品を発表してきた牧鉄兵氏にしか描けない表現ではないでしょうか。コミックサイズではきっと出せない、モニター越しのフルカラーだからこそ伝わる脳への刺激!

さらに特筆すべきは、タナカカツキ氏という圧倒的な才能を目の当たりにし、心が折れかかっていた苦悩を描いているにも関わらず、その描写自体がクリエイターとして、漫画家としてめちゃめちゃ才能に溢れているってことなんです。こんな一コマ見たことありますか? 額に入れて玄関に飾りたいっ!!
 

結論:どっちもスゴい

これ以上は説明不要だと思うので、ぜひ本編は「トーチweb」で読んでください。

トーチweb「トキワブルーに憧れて / 牧鉄兵」

(画像は全て上記、トーチweb 牧鉄兵『トキワブルーに憧れて』より引用)

くも漫。 (torch comics)
作者:中川学
出版社:リイド社
発売日:2015-08-11
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サ道
作者:タナカカツキ
出版社:パルコ
発売日:2011-11-28
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