レースで勝てなかった馬はどこへ行くの?本当に肉になるの?『元競走馬のオレっち』 登録抹消馬のその後を描いたリアルコミック

佐藤 樹里2015年12月11日 印刷向け表示
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もうすぐ中山競馬場で有馬記念が行われます。GⅠレースの中でも国内レースの総まとめ的な位置にある有馬記念。レースへ参加する馬を決める方法もユニークで、ファン投票によって人気の馬からレースへの出馬を打診していくのです。芝2500mと馬が脚力を存分に発揮できる距離もさながら、本当に愛されている馬だけが出場できる記念レース。今年のファン投票も無事に終了し、出場しそうな馬がわかってきました。年度末に開催されるGⅠレースだけに、数々の名馬がレース後に引退式を行ってきました。近年だとシンボリクリスエス、ディープインパクト、オルフェーヴルなどが有馬記念を勝ち取った後に引退式を行い、有終の美を飾りました。1着を取った後に引退式とは、なんという栄光でしょうか。「まだまだ俺は走れるぜ」なんて声が聞こえそうですが、競馬の未来のために人気の絶頂の中引退してゆく姿に目頭が熱くなります。かくいう私は記念馬券(馬名印刷された引退馬の勝ち馬投票券を単勝で買うこと)を買いに中山競馬場へ行き、オルフェーヴルの引退式を観に行ってものすごく感動したのですが、「こんなふうに競馬生活を送れるサラブレッドは何万頭に一頭なんだよなぁ。」としみじみ考えていました。新馬戦、未勝利戦、いくらやっても勝てない馬。つまり、そんな稼げなかった馬。馬が「その後」どうなるのかちょっと知ることができる作品があります。おがわじゅりさんの『元競走馬のオレっち』です。ななんと、電子書籍化されているではありませんか!紙本のファンだったので、紹介せずにはいられません。ほのぼのテイストでも馬の現実が惜しみなく描かれています。

元競走馬のオレっち (書籍扱いコミックス(レーベルなし))
作者:おがわじゅり
出版社:幻冬舎コミックス
発売日:2008-04-30
  • Amazon Kindle
主人公/オレっち
サラブレッド/牡
父、母、兄弟ともにGⅠ馬。
超良血のエリート。鳴り物入りでデビューするも、フタを開けてみれば1勝もできないままひっそりと引退。根は素直だがイレ込みやすいところがたまにキズ。

うう・・・。プロフィールを読むだけでも心が痛い・・・。私も完全にオレっち側の人間だよ・・・。
物語はオレっちが一勝もできず、どこか別の場所へ連れて行かれるところから始まります。超良血馬なので、将来はダービー馬だなんて小さい頃から期待されていたオレッち。しかしまだ現状が変わっていることに気がついていませんでした。彼は乗馬クラブへ移送されていたのです。

( 『元競争馬のオレっち』より おがわじゅり 君の居場所はここじゃないとは・・・?)

馬というのはとても賢く、気位が高い生き物です。もちろん中にはぽわんとした性格の馬もいますが、元競走馬で良血馬のオレっちはどうも現実がうまくわかっていないようです。これは知り合いの乗馬主さんに聞いたのですが、その人の経験によると「馬というのはとても賢く、元サラブレットは自分のことをよくわかっていて低姿勢」「乗馬用に生まれてきた外国産馬は気位が高く、乗らせていただくという感」とおっしゃっていました。速さを求めるのがサラブレッドの世界なら、乗馬の世界では品評会で競技会で成績をおさめられる馬になることか、乗馬初心者に乗りやすい馬になることが生きるために必要なこと。つまり「足の強さ・身体の丈夫さ」「気前の良さ」が大事となり、サラブレッド<乗馬用の品種の馬となるといえます。『元競走馬のオレっち』ではサラブレッドだったオレっちが、自分のプライドとどう折り合いをつけて乗馬に適応していくかが物語の軸になります。

・仕事ができなくなった馬はどうなるのか

『元競走馬のオレっち』では直接的ではないですが、馬がいなくなるシーンがあります。

( 『元競争馬のオレっち』より おがわじゅり )

これがどういうことを意味するのか、察しはつくとは思いますが、実際には情報が少ないので、競馬調教師の角居勝彦さんのインタビューを引用します。

日本で生まれる競走馬は年間約7000頭。華やかな冠レースの裏で、このうち約9割が勝てないことや、ケガなどで競争能力を喪失したことなどを理由に最終的に殺処分されるのは「業界の常識」だ。

JRAで言えば、原則3歳の秋までに1勝できなければ、競走馬は、地方競馬など別組織で活躍するなどのわずかな可能性を除くと、乗馬クラブなどに売却されていく。そこまでの流通経路は確実である。だが、日本の乗馬クラブの人口は正会員ベースでは10万人未満といわれる。一見のビジターも30万人ほどで、役割を終えた競走馬の「第2の人生」の職場としては、現状はあまりに小さすぎるのだ。

東洋経済オンライン「勝てない競走馬」はどうなるのか 日本一の調教師・角居師の「もう一つの挑戦」 より引用

サラブレッドとして生まれた馬の9割が殺処分となる現状を変えたくて、ホースセラピーを全国に広めるべく立ち上がった角居調教師の記事ですが、馬が経済動物だということを思い知らされます。とりわけ「速く走る」ことに特化して品種改良されたサラブレッドの足は細く、丈夫とはいえないものです。名馬の血統を受け継ぐ牝馬ならば、その血統を活かして次の世代の子どもを生むために牧場に残れる可能性がありますが、勝てなかった牡馬の現実は、厳しいものです。
馬が乗馬クラブにもいられなくなるのも、「カイバ代」を稼げなくなるからなのですが、物語のオレっちにも危機が訪れます。

( 『元競争馬のオレっち』より おがわじゅり  オレっちがどうなるかは読んでお確かめを )

ほのぼのタッチでのほほんと乗馬のお話をマンガ化されていると思いきや、現実を直視した話に引きこまれて一気に読みきってしまいます。実は私がこの本と出会ったのは、乗馬クラブの体験乗馬待ちの時、待合室に置かれていたのがきっかけでした。何回も人の手で読まれてボロボロになったマンガに夢中になって、家に帰ってすぐに注文したのでした。体験乗馬の時に「フサイチコンコルド」産駒の馬と出会って少し乗せてもらったのですが、乗馬クラブのスタッフさんによると「本当ははやく走れるから上級者用の馬として期待したんだけど、やる気がない」とのことでビジター用の馬になっているとのこと。「大丈夫かよ~」といまもちょっと心配になります。

馬を取り巻く環境は厳しいですが、それを支えている人たちは馬をこよなく愛している事に間違いはないので、馬の世界の光と影をあますことなく描く『元競走馬のオレっち』と作者のおがわじゅりさん。毎年JRAの絵やグッズ制作に携わられていて、馬を身近なものになるように伝えられているので、でこれからも勝手に応援していきます!

オマケ
おがわじゅりの馬房

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作者:おがわじゅり
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元競走馬のオレっち  ~みんなの日常編~
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