嫉妬して、人を呪って、それでも幸せがやってくると思っている人へ『白い街の夜たち』

田中 うた乃2015年12月14日 印刷向け表示
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白い街の夜たち 1 (ビームコミックス)
作者:市川ラク
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2014-06-25
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  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
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  中学生の私はどこにも居場所がありませんでした。クラスでは、ガチガチのカースト制度が敷かれ、カーストの上の方にいる気の強い、チャラチャラした女子に目をつけられないように必死だったし、一緒に行動するグループの子たちに仲間はずれをされないように気を使いまくる日々です。

部活では学校一厳しいと言われる吹奏楽部に入部し、先生や先輩にとにかく気に入られよう、怒られないようにとペコペコ頭を下げ、何のためにトランペットを吹いているか分からない状態でした。クラス・部活という、わたしだけのせまい世界のなかで、自分の意思を持たずに、とにかく人に気に入られたい、嫌われたくないという一心で毎日を過ごしていました。

この『白い街の夜たち』の主人公、文子(あやこ)も流されやすく、自分を持たないタイプの女の子です。そんな主人公が、どうやったら自分の居場所を見つけられるのか、この作品がひとつのケーススタディともいえる物語になっています。不毛な負の感情、「嫉妬」にどうやってあらがっていくのかというのもテーマになっています。

都内の服飾専門学校に通う彼女は、特にスキルがあるわけでもなく、学校ではなかなかやりたいことが見つかりません。しかも同級生で気が強い利伊沙にはよく当たられます。そんな文子がトルコのお守り「ナザル・ボンジュウ」を(それと知らずに)身に付けていたことが縁となり新宿のトルコ料理屋「アクシュヒル」でアルバイトをするところから物語は動き出します。

市川ラク『白い街の夜たち』1巻

流されるまま働き始める彼女でしたが、マイペースでのん気なオーナーシェフや、従業員でベリーダンサーでもある勝気なざくろと出会うことによって、それまでまったく知らなかったトルコの文化に、少しずつ影響を受けていきます。

市川ラク『白い街の夜たち』1巻

日本の約2倍の国土を持ち、アジアとヨーロッパ両方の陸にまたがる世界唯一の国トルコ。美しいモスク、響き渡るエザーン、グランドバザールの絨毯屋、チャイを運ぶ少年たち…トルコのエキゾチックな魅力が存分に詰まっています。作者の市川ラクさんのペンネームはトルコのお酒「ラク」からつけられたそう。それだけあって画面のすみずみがトルコ愛に溢れていて、魅惑的な作品になっています。

市川ラク『白い街の夜たち』3巻  妖艶なざくろのベリーダンス


代々木上原にあるイスラム教礼拝施設「東京ジャーミィ」が登場したり、ベリーダンスと敬虔なムスリムの「対立」が描かれたりと、五感でトルコ文化を理解できる作品になっています。

市川ラク『白い街の夜たち』2巻

文子を取り巻く人間関係も、新宿3丁目のトルコレストランで働くようになってから徐々に変化していきます。専門学校の同級生・松尾君、強く当たってくる梨依沙、嫉妬のお守り「ナザル・ボンジュウ」をプレゼントしてくれた旧友・雪ちゃん、勝気で恋敵のざくろ、ホジャさんやその家庭の事情など、人間模様は中々に濃密です。所々、登場人物の表情にあるノイズのような影の描写は、人間の闇や湿っぽさを感じさせます。なかでも「嫉妬」によってこころの病を抱え、自殺未遂をした旧友の雪ちゃんとの関係性が文子に大きな影響を与えます。

市川ラク『白い街の夜たち』3巻

新宿3丁目にある「トルコ」で、ひとに頼られる自分に気づき、文子は自分を見つけていきます。そこには、ちいさな違いを見つけては「嫉妬」する人たちはいなくて、違いが生み出すレストランへの貢献が「感謝」にかわっていきます。なにより、トルコ文化やそれまで関わってこなかったような異世界の人々のなかで、「嫉妬」から開放され、少しずつ自己肯定感を得るようになります

高校時代、自分が無いままだった私も、ある友達との出会いによって世界が広がり、自分が本当に好きなことや、やりたいことを見つけることができた経験があります。その友達はダサいからといって、みんなと一緒にミニスカートにしないような自分を持っている子でした。

彼女は休日になるとライブハウスや古着屋に私を連れて行ってくれて、そこには今まで見たことがないような世界が広がっていました。「ほら、行くよ」と私の前をカツカツと歩く彼女のピンヒール姿に、いつも私の胸は高鳴っていました。トルコ文化に出会った文子のように。

 

市川ラク『白い街の夜たち』3巻

今の環境に自分の居場所を見つけられないのなら、他の世界に飛び込んで探せばいい。『白い街の夜たち』は、そんなことをトルコのエキゾチックな香りとともに伝えてくれる作品です。

白い街の夜たち 1 (ビームコミックス)
作者:市川ラク
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2014-06-25
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白い街の夜たち 2 (ビームコミックス)
作者:市川 ラク
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2014-09-24
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白い街の夜たち 3 (ビームコミックス)
作者:市川 ラク
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2015-06-25
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