手っ取り早く『孫子』を読むならこのマンガ一択です。『江河の如く 孫子物語』 読んだ"つもり"は今日でおしまい600を超える孫子関連本から、いったい何を選べばいいのか

東海林 真之2015年12月18日 印刷向け表示
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先日(といっても11月に)、アマゾンが上陸15年でもっとも売れたビジネス書を発表しました。どうやら近年もっとも売れたビジネス書は、「もしドラ」とのこと。では、今まで世の中でもっとも売れたビジネス書は、いったい何だと思いますか

残念ながら統計的なデータはありませんが、間違いなく長く売れ続けている戦略の書があります。それは『孫子』。 古くは、諸葛亮(孔明)、曹操、ナポレオン、武田信玄、徳川家康、高杉晋作など錚々たる人物が愛読し、現代でも松下幸之助、 ビル・ゲイツ、孫正義など、世界中の名経営者、為政者たちに読み継がれている書です。

しかし、その情報を聞いたことがあっても、改めて「『孫子』に何が書かれているのか?」と問われると、ぼんやりとしか理解していないのではないでしょうか。実は私も、経営コンサル業務に携わる身でありながら、しばらくは読んだことがありませんでした。

「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」とか、「其疾如風 其徐如林 ・・・」といういわゆる風林火山(の元となった節)くらいは、なんとか思い浮かぶところ。けれどそれ以上は曖昧で。時折思い出しては、読もう読もうと思うのですが、ついつい新刊書や話題の書に手が伸びてしまい、あとまわしにしてしまう日々。

思い返すと、その怠慢の理由のひとつに、『孫子』に関する本が多すぎる!というものがあったように思います。要は、何から読めばいいのか分からないわけです。今しがたアマゾンで「孫子」と検索すると 670件 がHITしましたし、「孫子の兵法」でも 476件 がHITしました。(おそらく)中身のない本が、多すぎます。買うからには、身につく本を選びたい次第。 すると、岩波書店の『新訂 孫子』や、講談社学術文庫の『孫子』など、テッパンと言われる本を読めばいいわけなのですが、「もう少し敷居が低いものはないかな・・」と思うものぐさの心と、「けれど深く理解し身に着けたい」という浅ましい考えで本を選んでいた当時の私。

結局は上述の本を買ったのですが、なんと今年、ものぐさな当時の私に勧めたい!と思う『孫子』を、偶然にも見つけてしまいました。せっかくですので、ここにおススメしておこうと思います。マンガという入り込みやすさをもちながら、必要事項はきちんと盛り込まれていて理解しやすい『孫子』。それがこの、『江河の如く 孫子物語』です。
 

江河の如く 孫子物語
作者:杜康 潤
出版社:KADOKAWA/中経出版
発売日:2015-09-07
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おススメ理由その1:『孫子』に通底する"理念"が腹おちしやすい。だから『孫子』の理解が進む

このマンガは、『孫子』の原形を記した「孫武」を主人公に据えています。孫武がどのような時代に生き、どのような背景で『孫子』を記したのか。その点をストーリーで描いているため、孫子に通底する"理念"が自然と理解でき、語られている兵法のひとつひとつが腹におちてくるのです。

そもそも『孫子』は、ひとりの作者が紡ぎあげた書ではありません。孫武だけでなく、何人もの孫子がいたと言われますし、そのひとりは曹操だったともいいます。けれど、そんな複数人の手による"つぎはぎの書"だと思うと、各章を暗記しなければいけないようなお勉強モードになってしまうもの。一方で、1つの本に通底する理念、貫かれている"芯"が分かれば、理解も進むというものです。

たしかに『孫子』は、紀元前515年ごろに孫武によって原形が著されたものの、その後、異本や解説編の付加が多くつくられ、形が変わっていきました。そして紀元前200年ごろ、曹操により整理され、本論13篇だけが受け継がれていくようになります。その後もやはり異本や解説編が生まれますが、基本的には曹操が整理した形で現在に伝わり、それがいまの『孫子』になっています。(*以上はひとつの有力な説)

こんな背景がありますが、やはり原形を為した「孫武」の思想が、全体に通底しているとみるべきでしょう。曹操編纂以前の内容が記された『竹簡孫子』が近年見つかったことにより、その後の改変との差異もわかってきています。この研究によると、曹操は、通底する思想を理解し尊重したうえで、その時代に必要だと思う最小限の改変を加えていたようです。

曹操も尊重するほどの、孫武の思想。「孫武」を主人公に据えたストーリーであるがゆえに、その思想がわかり、『孫子』の理解が進む。これが『江河の如く 孫子物語』 をおススメする理由その1です。  

おススメ理由その2:マンガだからこそ、分かりやすい!

今さらかもしれませんが、この本は「マンガ」です。つまり、言葉だけでなく、絵でも説明がされています。入門書として、これが分かりやすさに直結します。

例えば地理。春秋時代の国々の位置関係や、その間に隔たる河や山の位置などは、戦略を知るための前提知識として重要なのにも関わらず、文章だけでは把握が難しいものです。ところが一枚の絵にされたとたん、わかりやすくイメージでき、その戦略の意味(という本質)を理解することも容易になります。

『江河の如く 孫子物語』 p.94

『江河の如く 孫子物語』 p.95

あるいは感情。孫武が置かれた状況下でどのようなことを考え、感じ、戦略に落とし込んだのか。前述した「思想」を理解するためにも、文章ではなく絵で感情を読み取ることができるマンガは、適しているように思えます。

『江河の如く 孫子物語』 p.49 

 

おススメ理由その3:マンガのストーリーに加え、専門的な解説も掲載

『江河の如く 孫子物語』では、マンガのストーリーに加え、1章ごとに1ページの解説が記されています。『孫子』は13篇ありますが、各篇を1ページずつにまとめ、計13ページの解説があります。 純粋にマンガ"だけ"を楽しみたい人には余計なページなのかもしれませんが、たった1ページですし、なにより、コンパクトに必要なことがよくまとめられています。

例えば、第一篇として記されている「計篇」。戦の前にシミュレーションを立てるべきであること、その際に必要な5つの項目(五事)と7つの指標(七計)。さらにはこの「五事七計」という論が、この時代いかに異質であったのかという解説。これらが1ページでまとめられていて分かりやすい。 ビジネスモデルのフレームワークを覚えるのもいいですが、1ページに収まる「五事七計」を覚えておく方がどれだけ力になるでしょうか。

『江河の如く 孫子物語』 p.18

だらだらと身のない解説や、著者の浅い私見が綴られているビジネス書よりも、よっぽど役立つのではないか、と思います。
 

最後に

マンガだからと言って、あなどるなかれ。まずは本書を読みとおし、孫武という人間とその思想を理解する。その上で改めて、岩波文庫や講談社学術文庫の『孫子』を読んでみる(もちろん他の出版社でも構いません)。 年末年始の空いた時間に、じっくりとまず『孫子』を読むことから始めてみてはいかがでしょうか。

経営や政治に携わるひとはもちろん、少しでも「戦略」を活用する人であれば、読んでおいて損のない本(マンガ)だと思います。
 

江河の如く 孫子物語
作者:杜康 潤
出版社:KADOKAWA/中経出版
発売日:2015-09-07
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以下は、記事中に名を出した参考書。テッパンです。

新訂 孫子 (岩波文庫)
作者: 翻訳:金谷 治
出版社:岩波書店
発売日:2000-04-14
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孫子 (講談社学術文庫)
作者:浅野 裕一
出版社:講談社
発売日:1997-06-10
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こちらも売れてます。

まんがで身につく 孫子の兵法 ((Business Comic Series))
作者:長尾一洋(著)、久米礼華(まんが)
出版社:あさ出版
発売日:2014-11-08
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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