スーパーマンはいつ死ぬのか?『僕のヒーローアカデミア』とあわせて読むべきアメコミを紹介したい。 アメコミの伝統的命題に、週刊少年ジャンプはどう応える?

今村 亮2015年12月17日 印刷向け表示
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90年代、熊本にはアメコミブームが訪れていた

僕は33歳です。熊本県熊本市という文化的僻地に生まれ、多感な10代をその退屈な街で過ごしました。時は1990年代。バブルが崩壊した後に訪れた、みみっちいサブカルチャーの時代です。

東京では、エアマックス、イルクジ、リーバイス501と並んで、アメコミが小さなブームとなっている。雑誌はそう告げていました。


(画像はCAPCOM「XメンVSストリートファイター」)
熊本のゲーセンには「XメンVSストリートファイター」の前に50円玉を握った少年たちの行列ができ、書店には小学館プロダクションのアメコミ翻訳誌『マーブルクロス』が並びました。映画館ではスターウォーズの新シリーズが始まり、雑貨店にはSPAWNのフィギュアがとんでもない高値で陳列されました。僕達の射幸心を、激ヤバ即ゲット!という下品なキャッチコピーが煽り、お年玉は溶けるようになくなりました。

今思えば、あれは雑誌がつくった幻想だったのかもしれません。熊本の少年たちはググることもせず、遠い東京を追いかけました。時は1990年代、インターネットが庶民化する夜明け前。牧歌的な時代でした。

『ヒロアカ』は1980年代生まれの青春を呼び覚ました!

あれから20年。僕は熊本を離れ、東京で定職につき、家庭を持ちました。電車通勤しながら読むのは週刊少年ジャンプです。熊本の実家にホコリまみれで積まれたアメコミやフィギュアのことを思い出すこともなく、いつしか母ちゃんも「あんた、どぎゃんして片付けすっとね!」と怒るのをあきらめました。

そう。『僕のヒーローアカデミア』の連載がはじまるまでは。

僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)
作者:堀越 耕平
出版社:集英社
発売日:2014-11-04
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『ヒロアカ』という典型的なジャンプ作品

『僕のヒーローアカデミア』は、人口の80%が「個性」と呼ばれる超常能力を持っている、という設定ではじまる少年漫画です。はじまりはこんな感じ。

しかし主人公のデク君は「個性」を持っていない・・・

つまり『ヒロアカ』は、週刊少年ジャンプが得意とする典型的な異能バトル物です。主人公が落ちこぼれというパターンも、『ナルト』をはじめ、『エムゼロ』や『ブラッククローバー』にもつながるような、よくあるパターンです。

日本の教育では個性が重視されていない? 

教育NPOの目線としては、超常能力のことを「個性」と呼んだ点でも『ヒロアカ』は秀逸だと思います。

2008年、Benesse教育研究開発センターが全国の公立小・中学校の教員3,981名と公立小・中学校の校長1,087名を対象に実施した「第4回学習指導基本調査」によると、下記のような考察がなされています。

教員の教育観はこの10年で大きく変化しており、「得意な教科や領域の学力を伸ばすこと」より「不得意な教科や領域の学力をつけさせること」を重視する教員が増えるなど、子どもの個性や自主性を尊重する意識よりも、教員が中心になって学力を底上げしようという意識が高まっている。
※Markezine編集部の考察より引用
 

 一方で、電通総研「電通ワカモン」が2010年に実施した高校生600名への調査によると、高校生自身は個性への強いこだわりが見て取れます。

同時に自分の場所をつくろうとする『個性(キャラ)重視』の意識が強いことがあきらかになりました。
※電通ワカモンのプレスリリースより引用

自分には個性があるのか?ないのか?その感覚は高校生年代にひろく受け入れられるリアリティです。だからこそ『ヒロアカ』、週刊少年ジャンプの典型的な王道となりうるのでしょう。
 

アメコミ80年の伝統へようこそ!

以上のように、『ヒロアカ』は、きわめて典型的な週刊少年ジャンプ作品ですが、この王道にアメコミの画風やキャラクターデザインを輸入した点に、ファンとしては大きな拍手を贈りたいと思うのです。ジャンプを拓くたび、ふつふつと再燃するアメコミ熱。たぎります。

アメコミにインスパイアされた作家はいないわけではありません。しかし寺田克也はアートすぎるし、桂正和はエロすぎるし、カネコアツシはオルタナティブすぎる。僕たちが待っていたのは、王道少年誌に掲載される、王道のアメコミなのです。

なんといっても、このキャラクター!
主人公の先生である、オールマイト。

オールマイトが登場すると、画風も変わる。タッチも変わる。いきなりアメコミになる。

ピンチには必ず来る!

オールマイトは、ナンバーワン・ヒーロー。世界の平和の象徴なのです。


(ここまで画像はすべて堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)  

どうだ!この既視感!

言うに及ばず、オールマイトというキャラクターはスーパーマンへのオマージュです。

(画像はアレックス・ロス『キングダム・カム』)

スーパーマンは、1938年の登場をきっかけに、今なお、80年の歴史の最前線に君臨する最強のチートキャラです。アメコミ読者でなくとも、スーパーマンを知らない読者はいません。
『ヒロアカ』は一話目からオールマイト(=スーパーマン)を登場させることによって、新連載ながら、アメコミ80年の歴史を伏線に張りました。

余談ですが、スーパーマンがどの程度チートかというと、目からビームは出るし、死んでもすぐ生き返るし、宇宙でも息をするし・・・悟空の100倍くらいチートです。
 

しかし、スーパーマンは死にゆく宿命にある。

『ヒロアカ』第一話、主人公デクくんは、敵に襲われたところを憧れのオールマイトに助けられます。その姿は最強そのものでしたが、実はオールマイトには秘密がありました。

立ち去るオールマイトを追うと、物陰には病弱なおじさんがいて・・・


(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)

なんと、オールマイトにすでに全盛期の力はなく、活動時間は限られており、マッチョな体型を維持することもままならない状態だということがわかります。

(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)

オールマイトは、衰えゆく自分にかわって平和を守るヒーローに成長してもらうべく、無個性の主人公デクくんにその能力を託すことを決めます。


(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)

『ヒロアカ』は、典型的なジャンプ作品です。しかしアメコミ史が積み重ねた、スーパーマンは最強であるという伏線を活用しました。これは少年たちの成長譚によって語られる、死にゆくスーパーマンの物語なのです。

死にゆくスーパーマンを継ぐ者と、追う者

強すぎる光は影を生みます。デク君が力を受け継ぐ一方、オールマイトの命を狙う謎の一味があらわれます。単行本が6巻まで刊行された今でも、その動機はいまだ明らかにされていません。

『ヒロアカ』の大きな醍醐味は、敵からの襲撃シーン。のんびりとした学園漫画の日常が一気に引き裂かれ、恐怖と戦慄が物語を支配します。


(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)

ほら!この大ゴマ。この迫力!


(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)

この緊張感!この迫力!敵キャラ脳無の造形も、ベノムやマックスを彷彿とさせます。いいよいいよいいよいいよいいよいいよ。

しかし、弱体化しているとはいえ、相手は世界最強のオールマイト。敵連合の襲撃は、二度に渡って失敗します。失敗してもオールマイトを追う彼らの姿は、主人公以上に人間臭く、読者を引き込みます。

『ヒロアカ』の魅力は、主人公デクと敵キャラ死柄木弔という、対照的な二人のキャラクターです。どちらも、オールマイトの引力に引き寄せられ人生が大きく変わった少年です。

(画像は堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』)  

死にゆくオールマイトから力を引き継ぐデク。死にゆくオールマイトを殺そうとする死柄木弔。オールマイトの死は、二人の青春です。
 

著作権を作家が持たないのが、アメコミ。

アメコミの話をさせてください。そもそも「スーパーマンの死」はアメコミの伝統的命題でした。

スーパーマンの最期 (中公アメリカン・コミックス)
作者: 翻訳:アダム・カウフマン
出版社:中央公論社
発売日:1993-04
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スーパーマンの誕生は1938年にさかのぼります。スーパーマンは、星条旗を模したスーツをまとって生まれた、国威そのものでした。歴史を持たない移民たちの人工国家アメリカ合衆国は、アメリカンコミックに国家の正統性を託したのかもしれません。スーパーマン自身が宇宙人という地球への移民であるという、後に付け加えられた設定がまさにアメリカ的です。

1940年前後は、アメコミのゴールデンエイジと呼ばれています。同じ時代には、バットマン、キャプテンアメリカ、ファンタスティック・フォーが生まれました。誰もが、強いアメリカのアメリカン・ドリームを背負ったヒーローたちでした。
 

(画像はアレックス・ロス『キングダム・カム』)

1960年代はシルバーエイジと呼ばれ、スパイダーマン、Xメン、ハルクが誕生します。社会の表舞台ではなく、マイノリティたちが特別な能力を持つ、多様性と群像劇の時代が始まります。

この20年を通してアメコミ出版業界に定着したのは、作品の版権を出版社が持つスタイルです。作家がキャラクターの版権を持つ日本とは、大きく異ります。

そして業界には二強が誕生しました。それは、スーパーマン・バットマン・グリーンランタンを擁するDCコミックス、そしてXメン・スパイダーマン・ハルク・キャプテンアメリカを擁するマーベルコミックスです。
 

スーパーマンの死をめぐる作品史

スーパーマンの死が語られはじめるのは、80年代になってからだったでしょうか。ベトナム戦争を経験したアメリカの、勧善懲悪のメッキが剥げ、本当の正義が問われ始めた時代だったのかもしれません。

代表作を紹介します。
たとえばフランク・ミラー『ダークナイト・リターンズ』。

近未来のアメリカを生きる年老いたバットマンが、本当の正義をめぐってスーパーマンと対峙します。宇宙人なので加齢しないスーパーマンの変わらぬ姿との対比が、物語に哀しいアクセントを加えます。

バットマン:ダークナイト・リターンズ
作者:フランク・ミラー
出版社:小学館プロダクション
発売日:1998
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正義の旗をかかげ、勝って勝って勝って勝って勝ちまくったヒーローたちが、お互いの尊厳をかけて闘う姿は国威の否定であり、歴史の再構築です。ベタな展開を重ねに重ねた作品にだけ許される、大どんでん返しの迫力。どうだ。これが、アメコミです。


(画像はフランク・ミラー『ダークナイト・リターンズ』)

そして『キングダム・カム』。これもまた舞台は近未来。ヒーローを引退したスーパーマンが、苦悩しながら正義のあり方を捉え直す物語です。

キングダム・カム 愛蔵版 (ShoPro Books)
作者:マーク・ウェイド 翻訳:秋友克也
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2010-10-30
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 スーパーマンの前に立ちはだかる、かつての盟友キャプテンマーヴル。

(画像はアレックス・ロス『キングダム・カム』)

そして2016年、ついに映画で「バットマンvsスーパーマン」が描かれるそうです。予告編を見る限り、なかなか期待してしまいます。

では、スーパーマンはいつ死ぬのか?

答えは、死なない。
スーパーマンに限らず、バットマンも、スパイダーマンも、アイアンマンも、死にません。いかに物語がヒーローへの批判精神を扱おうと、それは一過的なものにすぎません。

原作者が死のうと、作画者が死のうと、アメコミのヒーローたちは死にません。なぜなら版権を持つ二大出版社が、リレー形式でヒーローを描き続ける不死身の構造があるからです。読者は結局、スーパーマンやバットマンが最強であることを望んでいるのです。そのようにしてアメコミ80年の歴史は紡がれてきました。

オールマイトの死に際をどう描く?

『ヒロアカ』では、早晩、オールマイトが死ぬでしょう。この死に際の描かれ方に、僕は注目したいと思います。

そもそも人気投票によって物語の行方が左右するマルチエンディング感、ライブ感こそ、週刊少年ジャンプの醍醐味です。人気が安定しない新連載作品であれば、なおさらです。『ヒロアカ』はまだまだはじまったばかり。僕たち読者の要請にこたえ、物語はこれからどちらへでも転がっていくでしょう。

僕は毎週毎週、手に汗握りながら、オールマイトが死ぬ回を待っています。ぶっちゃけオールマイトには死んでほしい。情けない延命に逃げないでほしい。それは、スーパーマンのオマージュを扱ったことに対する責任だと思うのです。

アメコミはスーパーマンを殺せない。でも『ヒロアカ』にはそれが可能です。その意味で、
『ヒロアカ』が本当に面白くなるのは、これからだと思うのです。
僕のヒーローアカデミア 6 (ジャンプコミックス)
作者:堀越 耕平
出版社:集英社
発売日:2015-11-04
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出版社:中央公論新社
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