深い夫婦愛に涙・・・やわらかタッチで壮絶な闘病生活を描く『さよならタマちゃん』

榎本 よしたか2015年12月20日 印刷向け表示
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さよならタマちゃん (イブニングKC)
作者:武田 一義
出版社:講談社
発売日:2013-08-23
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本作は2013年に発表された作品で、マンガ大賞3位を受賞し、テレビ番組で話題になったりしたのでご存知の方も多いと思う。ネットでも絶賛レビューのまとめが作られている程の作品だが、最近作者のtweetをキッカケに改めて読み返したのでレビューしたい。

 

『さよならタマちゃん』は当時35歳の漫画アシスタントである武田一義氏(作者自身)が体験した闘病記である。突然前触れもなく精巣腫瘍という睾丸のガンに侵されたと知る武田氏は肺への転移も確認され入院を余儀なくされる。その入院生活が作品の9割を占める作品で、可愛らしい絵柄に対して中身は抗ガン剤の副作用など非常にシビアであり極めて現実的な描写がなされる。

 

しかし読んでいて辛いだけの内容ではなく、仕事や人生、家族に対して誠実に向かい合う武田氏の人柄が温かく伝わり、読後感はすこぶる良い。

睾丸のガンであるため、睾丸をひとつとっぱらってしまうのであるが(タイトルの『さよならタマちゃん』はそのロゴも含めて秀逸である)、抗ガン剤治療の副作用で無精子症になるため、事前に精子の冷凍保存を担当医から提案される。精子の採取は病院内の処置室で行うようにと言われ、なにやら気まずい空気を感じながら女性看護師に案内された部屋にはアダルトDVDが大量に置かれていた。

そこで武田氏は思う。「もしもこの先 早苗(妻)と子供を作るとして、でもそれはそのときの僕のではなく、今のーーー」ここで武田氏が取る行動に私は強く胸を打たれた。同じ立場に置かれたとして、自分ならこう考えられただろうか。武田氏とは年齢も職業も近く、同じ既婚者であり境遇も似ているため、対比して考えるエピソードが多かった。特にこのシーンは深い妻への愛情を感じる名シーンなので、是非続きは本編で読んでいただきたい。


 

同じ病室のガン仲間たちもまた個性豊かでキャラクターが立っている。それぞれが厳しい治療を行い、重い副作用に苦しんでいるのだが、決して暗くふさぎこむだけではなく、元気に明るく生きる様子が描かれる。となりのベッドの田原氏との会話の中に面白いものがあったので紹介。これは一つの真実だろう。

吐き気、食欲不振、口内粘膜の荒れ、そして味覚異常ーーー想像するだに嫌な副作用だが、それらが容赦なく武田氏を含む入院患者に襲いかかる様子をリアルに描写しつつ、患者たちの家族とのつながりや、患者同士の交流の中で見せる笑顔もしっかりと描くので、作品としてのバランスがとても良い。

過去に自分や家族の闘病を経験された方なら、この作品のリアリティある描写に触れて記憶が蘇ることもあると思う。私は父をガンで亡くしているのだが、その当時の病室の空気を思い出しながら読んだ。隣のベッドにいた幼子を抱えた若い父親が見舞いに来た家族に「大丈夫だからね」と笑顔で諭しながら、一人になるとカーテン越しに聞こえてくるうめき声に心が締め付けられたものだ。

二人に一人がガンになり、三人に一人がガンで亡くなるこの時代。この作品に描かれる闘病生活は決して他人事ではないのだ。自分がそうなった時どういう覚悟が必要となるか、家族がそうなった時どういうサポートが自分にできるのか。少しも説教くささを感じさせず、それらを考えるキッカケを与えてくれる作品であると思う。

イブニング公式サイトにて現在試し読みが可能なので未読の方は是非ご覧頂きたい。
ちなみに武田氏は先日12月2日にTwitterを始めており、退院から無事5年が経過し再発も確認されなかったとうれしい報告をしている。


・・・よかった。心からよかったと思う。

武田氏は本作『さよならタマちゃん』で漫画家デビューした後、親子関係を描くフィクション漫画『おやこっこ』を連載し、現在は新連載に向けて鋭意準備中だという。

作中、真心を持って武田氏を支えた妻・早苗さんは夫と同じく漫画家であり、近年単行本『エシカルンテ』(作家名は森和美)が発売されたそうだ。生命の危機、差し迫った人生の危機を深い愛情で乗り切った夫婦が、その後それぞれのステージで着実に活躍されている姿を見て、大変励まされるのであった。

この先、生きていれば私も何か深刻な病気にかかることもあるだろう。その時は武田氏のガン仲間であった桜木さんの言葉を思い出して乗り切りたいと思う。

「なぁ武田さん 考えようによっちゃーよ 病気も贈り物だよな」 

さよならタマちゃん (イブニングKC)
作者:武田 一義
出版社:講談社
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おやこっこ 上巻 (イブニングKC)
作者:武田 一義
出版社:講談社
発売日:2015-03-23
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エシカルンテ(1) (イブニングKC)
作者:森 和美
出版社:講談社
発売日:2015-01-23
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