子供っぽいスターウォーズに食傷気味のあなたにはこちらの星の物語『イムリ』 今回はペプシのボトルキャップは無いのか・・・

苅田 明史2015年12月22日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最近、テレビをつければスターウォーズ最新作にからめたコラボCMばかり。
映画の予告編だけでなく、コンビニ、食品メーカー、家電メーカー、航空会社、引っ越し業者・・・

ダーン ダーン↑ ダダダ↓ ダーン↑ ダーン

いつものテーマ曲とともに流れる映像は、いったいどの部分がスターウォーズに関連するのか、本当にコラボの意味があるのか、よくわからないほど世の中にあふれかえっている(よっぽど代理店が優秀なのだろう)。

前回の3部作ではペプシコーラのペットボトルを買うと、キャップにフィギュアがついてきて、それが欲しいがために毎日ペプシを飲んでいた気がする。
引っ越しの時に捨ててしまったけど、あれがないスターウォーズは何となく物悲しい感じだ。
コカ・コーラじゃなく、ペプシっていうところも何となく斬新な感じがして良かったのに。
そして、あの食玩があったからこそ、スターウォーズと自分とのつながりを感じられたのかもしれないのに。


僕は年明けに30歳になるのだが、ルークが主人公の3部作は生まれる前に公開されたものだったので、テレビやビデオでしかみたことがない。
アナキンが主人公のエピソード1のときは中学1年生。前作であるエピソード3が発表されたときは20歳。
エピソード1のときは甘ったるい恋愛ドラマですらドキドキしていた僕。エピソード3では世間の辛酸も知らなかった僕。
そんなときに見たスターウォーズは、映画館で本当にハラハラドキドキして、心から楽しめていた。


そして前作から10年後。
水着を着たグラビアアイドルで我慢できていた少年はとっくに、モザイクなしのグロテスクな写真でも正視できる青年になってしまった。
どうして異星人同士でも会話が通じるのかとか、フォースで戦えるならライトセーバーはなぜ必要なのかとか、映画の予告を見るだけでも色々気になってしまう。

ペプシのボトルキャップもなく、蔓延するコラボCMに大人の事情を感じてしまう僕は、本当にスターウォーズを楽しめるのだろうか。
公開されたら真っ先に見に行こう!と思っていた僕を思いとどまらせる理由がここにある。

いつもより前置きが倍くらい長くなってしまった・・・。

というわけで、スターウォーズよりも大人っぽい「スペースオペラ」を体験したい!というあなたにオススメしたいマンガがこちらの『イムリ』だ。
実は1年前にも紹介したことがあるのだが、あまりにも多いスターウォーズのCMに辟易した僕のような人にピッタリの濃厚なダークファンタジーである。

イムリ 18 (ビームコミックス)
作者:三宅 乱丈
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2015-11-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

あらすじを簡単に紹介すると(※少しネタバレ含みます)、この作品は主人公デュルクが2つの星の間で生じる民族戦争に巻き込まれていく話だ。
マージという星を支配している民族カーマは、厳しい階級制度を持つとともに、他人の精神を侵犯する能力を持っている。
カーマ民族のなかでもエリートとして育てられた主人公デュルクは、この世界のもう一つの星、ルーンに派遣されることに。

ルーンというにはこの作品のタイトルにもなっている「イムリ」という原住民がいて、狩猟採集を糧とした素朴な生活を送っている。
平和主義のイムリたちなのだが、実は4000年前にカーマと激しい戦争を繰り広げたという過去を持つ。
どうやらその秘密には「イムリの道具」という、秘密兵器がかかわっているようなのだ。
デュルクはこの「イムリの道具」を調査するべく、惑星マージからルーンへと旅立っていく。

小さな石のような物体、これが「イムリの道具」
『イムリ』(三宅 乱丈)より

ここからは『イムリ』の濃厚なダークファンタジーっぷりをご紹介していきたい。
(※ネタバレ含みます)

『イムリ』の魅力その1

主人公のデュルクがカーマ民族のエリートとして育てあげられたことは既に述べた通りだ。
しかしその育てられた環境が全て嘘だったとしたら・・・?

実はデュルクはカーマではなく、イムリの血を引いているのである。
その証拠に、彼はカーマには使えないはずの「イムリの道具」を体に宿して使うことができる。
デュルクが父と信じていたものは赤の他人であり、母は息子を守るべく何年ものあいだ秘密を隠していたのである。

息子を守るべく、イムリであることを隠していた母。
『イムリ』(三宅 乱丈)より

まるで強力なフォースを持つルーク・スカイウォーカーの父親がダースベイダーであったような設定がこの物語にもある。
ただし、身の安全を守るべく隠して育てられたルーク・スカイウォーカーとは異なるのは、デュルクの場合、彼が利用されるために欺かれていた点である。

主人公の出自以外にも、『イムリ』では欺き、騙す、という行為が幾重にも絡み合って行われている。
イムリは必ず双子で生まれ、お互いの夢を見る。デュルクにもその片割れであるミューバという人物がいるのだが、彼はデュルクに騙されたと勘違いし、デュルクを貶めようとする。

個人的に一番好きなシーンの一つ。騙しているミューバ。しかし、彼もまた騙されている一人なのである。
『イムリ』(三宅 乱丈)より

傍観者である僕たちにしかわからないドロドロの人間関係と巧言の数々が作品の魅力を増しているのだ。

『イムリ』の魅力その2

惑星ルーンからマージに移住していたカーマ民族は、再びルーンへ帰還するべく拠点を築きつつあった。
彼らはイムリたちを殺し、ときには手先として利用しながら勢力を拡大していく。

理不尽な絨毯爆撃を繰り返すカーマの船。
『イムリ』(三宅 乱丈)より

軍事クーデターがきっかけとなって追われる立場となったデュルクは「イムリの道具」という兵器の使い方を編み出すことに成功する。
しかし、この兵器は思いもよらない強力な力を秘めており、ひとたび使えば一分隊くらいワケもなく皆殺しにできるものだった。

平和を望むデュルクはこの兵器の使い方を隠していたが、イムリたちに懇願され、ついにその秘術を教えてしまう。
この兵器の使い方はカーマに対する有効な手段としてイムリに広まっていき、それを脅威と感じたカーマはよりいっそう攻撃の手を強めていくのだ。
こうして争いが争いを呼ぶ、だれにも止められない悲劇の連鎖が始まってしまった。

カーマもまた、イムリの脅威に軍事力強化を決断する。
『イムリ』(三宅 乱丈)より

『イムリ』の魅力その3

実は上述した以上に『イムリ』の世界観はかなり複雑にできている。

イムリの道具には宿す順番があり、失敗すると悲惨な目にあってしまうこと。
カーマに伝わる能力にはいくつかの階層があり、その伝播方法は非人道的な危ない手法であること。
イムリとカーマに加えて、奴隷としてこき使われている「イコル」という民族の存在。
そして、ともに戦っていたデュルクとイムリの間にも亀裂が・・・。

平和を願うデュルクとカーマから仲間を守りたいイムリにすれ違いが生じる。
『イムリ』(三宅 乱丈)より

ちょっとレビューでは書ききれないし、ここから先は作品を読んでもらうしかないだろう。

とにかく、スターウォーズは子供っぽくてちょっとなぁ・・・という人はぜひ手に取ってみてほしい。
僕は、童心に帰ってスターウォーズも見に行くことにするけれど。
 

三宅 乱丈さんは『ペット』同様、期待感をあおる終わり方が特徴的なのだ。 
『イムリ』(三宅 乱丈)より
イムリ 1巻 (BEAM COMIX)
作者:三宅 乱丈
出版社:エンターブレイン
発売日:2007-07-25
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
イムリ 16 (ビームコミックス)
作者:三宅 乱丈
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2014-10-25
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

三宅乱丈さんの代表作の一つ『ペット』。
こちらも精神にぐっとくる物語である。

ペット リマスター・エディション 1 (BEAM COMIX)
作者:三宅 乱丈
出版社:エンターブレイン
発売日:2009-10-26
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事