フロアが油で"ジュワッ"とアガる。この音にピンときたら『とんかつDJアゲ太郎』 とんかつが教えてくれる、快感の構造

宮﨑 雄2016年01月04日 印刷向け表示
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とんかつDJアゲ太郎 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
作者:イーピャオ
出版社:集英社
発売日:2015-02-04
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あけましておめでとうございます!
年末年始、皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか。こちらはカレンダーとマンガと餅を摂取して生存しておりました。今年は正月が土日に丸かぶりだけど、8月に新祝日「山の日」があるからプラスマイナスはむしろプラスなんだ…と自分を鼓舞する三が日。今回はそんな薄暗い姿勢で正月を過ごした僕が、しかし思わずアガってしまった作品『とんかつDJアゲ太郎』の話をしたいと思います。

『とんかつDJアゲ太郎』の謎

ご存知『とんかつDJアゲ太郎』。昨年末の「マンガHONZ超新作大賞 2015」で5位にランクインし、今年も期待値MAXです。 意味不明な単語が組み合わさったタイトルと絵のクオリティから入り込みにくさを覚えてしまいそうですが、読み始めると止まらなくなってしまう作品です。

しかし、なぜなのでしょう。

なぜこの作品から目が離せないのでしょう。なぜページをめくる手と高揚感がいつまでも止まらないのでしょう。それはあたかも、名店のとんかつが脂っこさを感じさせることなくいくらでもお腹に入ってしまうようです…。作品のあらすじとマンガ界における異色さについては兎来さんのレビューで語り尽くされています。そこで僕は今回、"なぜ『とんかつDJアゲ太郎』を読むとアガってしまうのか"という本作最大の謎に切り込んでいきたいと思います。

とんかつとDJって同じなんだ!

『とんかつDJアゲ太郎』3巻より
 

このテーマを掲げるにあたって自分がいつどこでアガってしまうのかという問いを立てて考えたのですが、1秒で解決しました。このセリフが出た時です。とんかつを揚げる機械とクラブイベントの集客用チラシがどちらも「フライヤー」であるというダジャレに始まり、その後も何度も叫ばれるこのマジックワード。とんかつ屋でありDJでもある主人公のアゲ太郎が、とんかつとDJの共通性に気づいたときのセリフなのですが、僕はこの時に自分の内にバイヴスが湧き上がるのを感じました。 つまり僕は、アゲ太郎がDJのことを理解したときにアガっているようです。

人は理解できたとき、"アガる"

今度は理解という現象を深堀りしてみます。安宅和人さんの『イシューからはじめよ』によると理解にはいくつかパターンがあって、そのなかでもポピュラーなものに“共通性”の発見があるそうです。簡易かつ明快に解説されていたので引用します。

「人が何かを理解する」というのは、「2つ以上の異なる既知の情報に新しいつながりを発見する」ことだと言い換えられる。(中略)いちばん簡単な新しい構造は共通性だ。2つ以上のものに、何らかの共通なことが見えると、人は急に何かを理解したと感じる。たとえば、「あの人はメキシコの建国の際に2つの対立陣営を束ねる大きな役割を果たした人です」と言われるより、「あの人はメキシコにおける坂本龍馬です」と言われたほうが(日本人であれば)圧倒的に理解したと感じるだろう。

 「とんかつとDJって同じなんだ」はまさにこの構造だと考えられます。アゲ太郎は自身のとんかつ屋としての経験をDJの要素に照らし合わせて共通性を発見し、理解し、取り込みます。たとえばDJとラッパーの関係は「とんかつとキャベツの関係である」と解釈して理解しています。

『とんかつDJアゲ太郎』3巻より

また、ところで川上量生さんの『コンテンツの秘密』によると、人は何かを理解できた時に快感を覚える生き物です。人がジブリを何度も観てしまうのは、人が人の目でみる以上に現実を理解させてくれる描かれ方に快感を覚えるからです。以上の説をがっちゃんこさせると、こんな仮説が見えてきます。

『人は、2つ以上の何かの間に共通性を見いだすと快感を覚える』


いわゆる「ピンとくる」という感覚です。つまり「あ、これ進○ゼミでやった問題だ!」は勉強から得られる快感を的確に表現しているフレーズだったというわけです。『とんかつDJアゲ太郎』による快感も同様のものと見て間違いないでしょう。僕はクラブカルチャーとはトンと縁がない人生を送ってきたのでDJに対しては「レコード回してる人」というイメージしか持っていませんでした。しかしとんかつなら食べたことがありますし、揚げたことだってあります。共通性の発見は対象との距離をグッと縮めてくれるものです。初対面の人でも共通の知り合いがいるとわかったらスムーズに仲良くなれるように、『とんかつDJアゲ太郎』を読むと、とんかつに親しむようにDJに親しめてしまうのです。今まで知らなかったことを知り、理解する。その快感で、僕らはアガってしまうのです。

そして、そんな素敵体験への感謝ゆえに脳が体に「とんかつを食え!!」という指令を発した結果、僕は今もとんかつ禁断症状に苦しんでいるのでしょう。アゲ太郎に気分はアゲてもらえたものの、年末年始に手にとったのは失敗だったかもしれません…皆様におかれましてはお近くのとんかつ屋の年始営業日をご確認の上、お楽しみください。今年もよろしくお願いいたします。

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作者:小山 ゆうじろう
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出版社:中央公論新社
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