年収250万、居酒屋バイト女子が「わたしだけの理想のおうち」を買うまで『プリンセスメゾン』

飯塚 由妃2016年01月06日 印刷向け表示
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プリンセスメゾン 1 (ビッグコミックス)
作者:池辺 葵
出版社:小学館
発売日:2015-05-12
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  「女性の1人暮らし」をしている私が一番好きな時間は「一人、部屋でお皿を洗っている時」。それは孤独と自由を全て受け入れた淋しくも幸せな女性の象徴だと思う。

この漫画に出てくる女性たちは皆、ひとり暮らしをする女性たちである。でも彼女たちを見ていると自分だけの住まいの中で、自分だけのちょっとした幸せな時間をちゃんと見つけている。それは誰かといるときに味わう幸せとはちょっと違うものかもしれない。孤独な夜の寂しさも、その部屋にはひょっとしたら隠れて いるのかもしれないけど、都会の喧騒のなか、ほんのひととき、ひとりの「孤独で自由な」時間を求める自立した女性がいてもいい。『プリンセスメゾン』はそんな漫画だ。

12月のある日、クリスマスパーティーと称して東京近郊の私の家で女子会を開いてみた。ひとり暮らしの私の家に仲のいい女子が集まって楽しく飲んでいるだけなのだけど。「クリスマス」×「女子会」という組み合わせから皆さんが想像するとおり、ほぼ全員が彼氏がいない女子だった。その夜、ひとりの女の子が言った「私、お皿を洗っている時間がひとり暮らししている部屋で過ごす、いちばん好きな時間なの。」という言葉が私の耳にずっと残っている。

その日、女子会がお開きになり、みんなが帰った後の部屋でひとりに戻った私は、もちろん大量のお皿を片すというミッションが残っていたわけだが、「お皿を洗っている時間がいちばん幸せ」と言った友達の言葉を思い返しながら大量のお皿を前に蛇口をひねった。「ジャー」という水の音や、泡たっぷりのスポンジとお皿がこすれる「きゅっきゅっ」という音を聞きながら、泡がシンクに吸い込まれていく様子や水滴をまとって真っ白になっていく食器を見ながら無心でお皿を洗っていた。なるほど、やってみると「これは確かにいい。」と思った。

私にとってお皿を洗う時間は私を浄化する幸せな時間なのだ。お皿の汚れとともに私の中の何かが流れていくような気分になれる。お皿を拭いてくれる人も横にいなければ、 BGMは水道の音だけだけど、ひとり暮らしの私は確かに幸せだと思えた。この漫画にでてくるおさげの「沼ちゃん」もひとり暮らしの孤独と幸せをわかっている女性のひとりだ。

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻

居酒屋で正社員として働く沼ちゃんは、東京の狭いアパートに一人暮らし中。年収250万円ちょっとの彼女だが、今日も理想の住まいを探しに「持井不動産マンションギャラリー」のモデルルームにひとりで見学に訪れる。

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻

そんな沼ちゃんが東京に「私だけの夢のおうち」を買い求めている様は「夢見がちね。」と思うかもしれない。私も最初はそのひとりだった。でも沼ちゃんは「鉄の心」の持ち主だ。こんな言葉がズシンとくる。 

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻
「努力すればできるかもしれないこと、できないって想像だけで決めつけて、
やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃだめだよ。」

 スポ根漫画の主人公のセリフのようだ…。でも沼ちゃんは極めて現実的にマンションを探し求めている。 

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻

「大きい夢なんかじゃありません。自分次第で手の届く目標です。

家を買うのに自分以外の誰の心もいらないんですから。」

ここ大都会東京で女性がひとりで暮らしていくことは、私の想像以上に大変なのだろう。収入の面も不安もある。理想の家の条件も譲れない。そしてなにより、ひとりはやっぱり寂しいのではないか。

池辺葵『プリンセスメゾン』1巻

ちなみに私は、学生でひとり暮らし中だが、将来の理想の住まいは?と聞かれたら「観葉植物とサボテンを育て、本と漫画に囲まれた部屋で、5時の夕焼け小焼けのメロディを聞きながら、近所の商店街で買った食材で夕飯の準備をしたら、夜は寝返りを打っても落ちない広々としたベッドで寝られる部屋」と答える。そんな部屋だったら、きっと孤独も自由も楽しめる・・・・

いけないいけない。理想ばっかり語っているだけでは沼ちゃんに「ズシン」と心を撃ちぬかれてしまうので、理想に近づくためにせっせと貯金を始めようっと。

 

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