ワンピースがダメだった堀江さんにも読んで欲しい『HUNTER×HUNTER』の魅力

兎来 栄寿2016年01月15日 印刷向け表示
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マンガHONZ代表の堀江さんが『ワンピース』を25巻くらいまで読んで挫折した、という話は有名です。「みんなが面白いというから読んでみたけど、微妙だった」と。そこは好みもありますので、仕方ない所でしょう。そして「『HUNTER×HUNTER』(以下『ハンター』)もどうせ同じ感じでしょ?」と。

違います!

圧倒的に違います!!

『ワンピース』と『ハンター』は面白さの質が全然違うんです!!!

今回は、その辺りをみっちり語って行きます。そして、もし堀江さんと同じように思って今まで『ハンター』に手を出してきていない方がいたら、ぜひここで読んでみて頂きたいと思います。

 


世界の不条理と共にある物語

少年マンガの王道をしっかりと押さえた上で、突き抜けて行く。それは冨樫義博作品の大きな美点です。少年マンガでありながら少年マンガらしからぬエグさ・ブラックさがあり、それが深みを生んでいます。他の多くのマンガが描くのが光り輝く太陽であるなら、太陽を描きつつもその周辺の無限の暗黒をもしっかり描写して来るのが冨樫義博作品です。

それは『幽☆遊☆白書』の仙水編が非常に顕著でした。主人公・幽助たちが戦う相手・仙水は、自分の先輩であり、自分と同じく妖怪を敵として戦ってきた人間でした。強い正義感を持って任務を遂行する仙水でしたが、ある時自分が守ってきた人間の方が妖怪に対して行っていた暴虐の饗宴を目の当たりにします(その描写も、今だとジャンプに載せられるのかどうかという凄まじさです)。自らが守って来た人間という種の醜悪さに絶望し、人間の悪逆無道な行為のみを何万時間も収めたビデオテープ「黒の章」を観ることによって絶望を深めます。

悪夢のような光景を見て、その場の全員を皆殺しにして曰く

ここに人間はいなかった 一人もな

そして、

オレが護ろうとしてたものさえクズだった

と。

仙水編は、在りし日のジャンプを読んでいた少年少女たちに善悪の彼岸を考えさせました。その後も、生まれてすぐに性の玩具奴隷として腹を改造され女性としての機能を喪った人物なども登場し、少年マンガとしては極限のラインを攻めているなと常々思わされます。

『ハンター』では、14歳だった幽助に対し11歳のゴンが主人公となったことで、最初こそより少年マンガ向けの要素は強かったです。しかし、その描写の容赦無い残酷さや、子供の時では全てを理解することは難しいであろう深みは健在。決して、子供向けの単純な話ではありません。蟻編のラストなどは大いに賛否も分かれていますが、まず通り一遍の少年マンガでは至らないであろう凄まじい結末を描き切っています。圧倒的な現実の寓話として深い味わいがそこにあります。

 


極上の心理戦

『ハンター』の大きな魅力の一つは、バトルに留まらない心理戦の数々です。練り込まれた世界設定によってそれぞれのキャラクターの性格や立ち位置を明確にした上で、与えられた状況の中で個々に最適解を考えつつ目標達成に向けて動いて行く。その中では様々な策謀が巡り、逆転が何度も起きる。ページを読み進めるごとに、刻一刻と変化し続けるダイナミズムの波に気持ち良く飲まれます。時に、主要な人物すら一瞬であっけなくゴミのように退場させられてしまう緊張感はたまりません。

基本的に登場人物が皆頭が良いのが『ハンター』で、肉弾戦が得意な力自慢の主人公ゴンでさえも時に大胆な駆け引きを仕掛けてきます。とりわけ蟻編以降では普通のマンガではザコ的な立ち位置のキャラクター一人一人ですら高度な知能を持ち、質の高い心理戦を間断なく提供してくれます。

冨樫先生はお話を作る際に一番最初に思い付いた展開はまず捨てて、必ずその斜め上の展開を考えるといいます。単純に必殺技と必殺技をぶつけてどっちが強い? とやるような普通の少年マンガのバトルとは一線も二線も画しています。舌戦や政治的・戦略的な駆け引きも多岐にわたり描かれ、戦闘がなくてもヒリつくようなサスペンス的展開を楽しめてしまう稀有な作品です。

 


ハンターにおけるとてつもないインフレ

バトルマンガは、「インフレ」という構造的な弱点を背負っています。主人公が最初から強いケンシロウのようなタイプであれば、多少は緩和できます。しかし、少年マンガの王道的に成長していく場合、必然的に敵もどんどん強くなっていかざるを得ません。後に出てきた敵が以前倒した強敵より弱いのでは、カタルシスも半減してしまいます。

『ジョジョ』などは能力ごとの相性などもあってインフレを上手く回避している好例であり、『ハンター』もそれに近いタイプではありましたが、ただ蟻編において一気にインフレが起きてしまいました。しかし、最新の暗黒大陸編においてはそれを見事に克服しているのです!

実は、私は『ハンター』は32巻の時点で終わって良かったのではないかと思ってました。主人公の大目標が果たされ、非常に美しい大団円が描かれ、これ以上はジャンプマンガにありがちな蛇足に陥るのでは? と危惧していました。そして、再開された暗黒大陸編を読み始めて、ジャンピング土下座。冨樫先生を無礼(なめ)てました

暗黒大陸編では、未知の災厄や脅威に満ちた未開の暗黒大陸へ渡って行く物語が描かれます。そこでは壮絶なインフレが起きました。しかし、それはキャラクターにではなく世界に、です。

何と、これまで32巻かけて巡ってきた広大な世界は、この星の湖一つの上に浮かぶ小さな島々に過ぎなかったというのです! 何というスケール!! これは長期連載であるからこそ重みを持って生きてくる設定ですね。

そして、その湖の岸の向こうの陸地こそが暗黒大陸と呼ばれる地。そこは、作中屈指の強者ですらも辛うじて生きて帰って来られたほどのあまりにも過酷な環境。未知の凶悪な生物や疾病、厄災の巣窟。暗黒大陸で要求されるのは、最早単なる戦闘能力だけではありません。知識、経験、分析力、判断力、思考力、想像力、精神力、胆力、連携力……。その比類なき危険性を、とてつもない見開きの一枚絵だけでこれ以上ないほどに伝えて来た瞬間、冨樫義博という天才性に改めて敬服しました。

それは言わば宇宙開発にも似た、超高難度ミッション。常々私は『宇宙兄弟』や『度胸星』など宇宙開発マンガは名作ばかりだと言っていますが、それは宇宙という極限の環境が生み出す緊張感や、そこで剥き出しにされる人間の本質が面白いのだと思います。そして、今『ハンター』が向かっているのもそういった領域。しかも、そこには様々な国家や団体、個人の思惑や利得が複雑に絡まりあっています。面白くない訳がない!

これまで登場したキャラクターたちにも、生存や探査といったことが至上命題となり求められる強さの質が変わった場では活躍の場があるかもしれない。オールスターによる、未知という最大対象のハント。こんな滾るものがあるでしょうか!

 


『ハンター』だけは読んで欲しい

『ハンター』は全くもって良い意味で普通の少年マンガではないのです。こんなマンガは冨樫先生にしか描けないし、『ハンター』しかない。「『ワンピース』は無理、『ハンター』もどうせ同じ感じだろう」と思っている方も、騙されたと思って読んでみて欲しいです。読めば解ります。

何なら、暗黒大陸編が連載している時であれば、「今一番面白いマンガは何?」と尋ねられたら「『ハンター』です!」と答えたことでしょう。

しかし、残念ながらその最高に面白くなっている所は単行本化もされていないまま、2014年8月11日発売号を最後に休載が続いています。2015年は『ハンター』が始まって以来、ジャンプに1Pも載らないという初めての年になってしまいました。本気で冨樫先生の体調が心配ですが、あの暗黒大陸の超常的な見開きのような興奮を与えてくれるのであれば月刊ペースでも全く構いません。なにとぞ続きを……!

心より、心より『ハンター』と冨樫先生の復活を願っています。それまでは既刊を読み返して待ちましょう。何度でも面白く再読できるのもまた『ハンター』の魅力ですから。

 

 
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