何にもすがらず生きてる人なんていない… お酒の力に依存して生きる“私”の日常『アル中ワンダーランド』

田中 うた乃2016年02月03日 印刷向け表示
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アル中ワンダーランド
作者:まんしゅうきつこ
出版社:扶桑社
発売日:2015-04-09
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  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
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いつからこんなにお酒を好きになったのだろう?
現在21歳。飲み始めてからまだ数年しか経っていない。大人の皆さまから見ればまだまだひよっこである。
飲み始めた頃は、「ビールなんて超まずい!ジュースのほうが美味しいじゃん!」などと可愛いものだったが、今では居酒屋の席に着くなりに「生一つ!」である。 ああ、「生一つ!」って頼み方、いかにも中年サラリーマンっぽくて絶対に嫌だったんだけどなあ…。

お酒を飲むとひたすら楽しくなる。お酒の味が好きというよりも(まだお酒を味わうという大人の飲み方をしたことがない)酔いが回った状態になるのが好きなのだ。
3,4杯ビールを飲むとと身体が熱くなってきて少し宙に浮いている感覚になり、多幸感に襲われる。饒舌になって調子に乗って相手にズカズカと踏み込む。まだ、理性はある。全然余裕。
7杯目あたりで周りの風景がグルグル回り始めて足元がおぼつかなくなる。このあたりでも話した内容はまだ覚えている。もっと調子に乗って、さらに相手に踏み込む、絡みまくる。理性はちょっと怪しい。
9,10杯目になると周りの風景と自分が同化して、まるでディズニーランドのスペースマウンテンに乗っている感覚に襲われる。身体が激しく浮き沈みし、目の奥に星が飛び、周りの風景がグワングワン歪んでとっても楽しい。リアルスペースマウンテンである。この頃から記憶が怪しくなる。自分が何を言ったのかあまり覚えていない。テンションはMAX。
それ以上飲むと眠ってしまい、たまに起きてはまた飲んで、意味不明なことを言い、周りを困惑させ、また眠るという状態になる。記憶は無い。

このようなシラフでは味わえない高揚感と非現実感がクセになり、お酒によって辛いことがことが起きたり(お酒が絡んだ恋愛は大体痛い目に合う)、ひどい二日酔いをしても何度でも飲んでしまうのだ。

今回紹介する『アル中ワンダーランド』は著者のまんしゅうきつこさんがアル中になった経験を綴る書下ろしエッセイ漫画である。
帯には『アラサーちゃん』の峰なゆかが「超おもしろい! 超わらえない!」とコメントを寄せているが、まさにそのとおりの内容だ。
飛行機が話しかけてくる幻覚や被害妄想に記憶がすっぽりなくなる記憶障害、そして公衆の前での「ポロリ」という大失態……。壮絶な体験を独特のイラストとテンポで描くので、思わず声をあげて笑ってしまう面白さなのだが、描かれているものはダークで狂気と苦悩と死の雰囲気が漂っている。

著者は「面白いことを書かなければ、話さなければ」というプレッシャーからの逃避と「他人とのコミュニケーションの潤滑油」としてのお酒の力に頼ってしまったことが、アルコール中毒になるきっかけだったそうだ。

 

私がもともと面白い人間だったら、お酒を飲まなくても面白いことを言える人間だったら、こうはならなかったでしょう。
誰か、私を「面白い」から解放してください。もう、お酒というドーピングはしたくないんです。
お酒を飲むと、強気というか、気が大きくなるのは事実です。私はあまり自分の本心を人に見せませんし、しゃべっても面白くない人間だと思うんですけど、お酒を飲むとたちまちフレンドリーな人間になるんです。


私は著者のようにお酒を飲まないとコミュニケーションを取れないというタイプではない。
しかし酩酊状態を楽しむことによって現実に抱えている問題やコンプレックスなどを埋め合わせて快楽を覚えている節はある。酩酊状態になることによって身体や心理状態に現れる非日常な感覚。酔いが醒めないままずっとこの状態が続けばいいのにとさえ思ったこともある。

今までアル中や依存症なんてのは、飲んだくれのおじさんの自分とは関係のない遠い話かと思っていた。しかし日常の問題から逃避したり解決するためにお酒にズブズブとはまっていく本作の過程は妙にリアルで、それこそ「わらえない」。まるで他人事とは思えない。

そして私たちが現実だと思っていることは何かにすがりついて依存している状態なのかもしれない。これは決してお酒だけでなく、仕事、ネット、恋愛、買い物、ゲームなどあらゆることに言えることである。
私たちは何かに依存することによって普通の日常を維持していて、その依存の度が超えると壊れてしまう。そんなギリギリなところで生きている危うさを本作は教えてくれるのだ。

 

因みにアル中作品には本当に面白いものが多い。ぜひ合わせて読んで頂きたい。

アル中ワンダーランド
作者:まんしゅうきつこ
出版社:扶桑社
発売日:2015-04-09
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失踪日記
作者:吾妻 ひでお
出版社:イースト・プレス
発売日:2005-03-01
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今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
作者:中島 らも
出版社:講談社
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夜はやさし(上) (角川文庫)
作者:フィツジェラルド 翻訳:谷口 陸男
出版社:角川グループパブリッシング
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きらきらひかる (新潮文庫)
作者:江國 香織
出版社:新潮社
発売日:1994-05-30
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