『マンガ建築考 もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら』どうなるの?

東海林 真之2016年02月09日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

タイトルを見た瞬間、買うことを決めました。

『空想科学読本』、『前田建設ファンタジー営業部』が好きな私です。「もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら」というサブタイトルに、イチコロ。この手の発想は、ほんとズルいと思います。いや、大好きです。作ってくれたことに感謝したい。

目次を見てみても、これまたズルい。おもしろすぎます。

カイジの渡る細い鉄骨は、高層階にあの長さで渡されて、なぜ、たわまないのか?」(現実に考えうる素材で、あの鉄骨は再現可能なのか)、「巨人の進撃を阻む高さ50メートルの壁を、日本で作ることは難しい。なぜか?」(そしてどの地域なら可能なのか)、「深海の大監獄-インペルダウン-は、どうしたら建設できるのか」(原型のような人工施設がフランスにある?)、「綾波レイの部屋の内装を再現するには、どんな工法を用いればよいのか」(コンクリート打ち放しではない?)などなど。これらの言葉を読んだ時点で、もう、答えが知りたくてたまりません。前から順になど読まず、該当ページに直行です。

そんな風に食いつきすぎた私ですが、一方でこの手の本は、どこまで「キチンと」現実に建てることを検討しているのかが気になるところ。発想はおもしろくても、考察が安易だと萎えてしまうのです。そこでさっそく奥付をみてみると・・ふむふむ。著者は、早稲田大学の建築学科出身(建築の名門!)。建築家であり、世界を股にかけて建築"素材"を探求する人だとのこと。建築を取り巻くあらゆることがらを徹底的に追求し続けた結果、ついにマンガのなかの建築物研究に到達した・・と、これはホンモノだ

読んでみて断言できますが、とにかく考察が緻密です。言い換えるならマニアック。どれくらい緻密なのかは、ぜひ読んで確かめてみてほしい。と締めたいところですが、以下に少しだけ、紹介していくことにします。
 

マンガ建築考 -もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら― (ThinkMap)
作者:森山 高至
出版社:技術評論社
発売日:2011-03-05
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

*注:この本自体は漫画ではありません


例えば冒頭で記した「カイジの鉄骨」の検証について。この著者の方、なんと構造計算をはじめてしまいます。まずは1回目の鉄骨渡り。25メートルの溝型鋼材鉄骨だと仮定して、加重応力を計算。カイジだけでなく、カイジの前を行く若者、後ろに続く人の3人分の荷重がかかった場合、果たしてこの鉄骨はどの程度たわむのでしょうか。

計算上、たわみは2センチ以下になるようです。この計算結果から、著者の考察は進みます。「たわみ制限2センチ以内」というのは、「建築基準法を守った範囲」とのこと。「鉄骨渡りのためだけの仮説構造物であるにもかかわらず、(中略)、さすが日本の建設業者ですね。」って、ホントだ、すごい! ・・いやいや。深読みも過ぎます。

そして2回目の鉄骨渡りに続きます。これが問題。再び構造計算をはじめる著者。

なんとこの鉄骨、自重だけですでに真ん中が18センチたわんでしまい、3人乗ってしまうと30センチ近くもたわむと計算されました。ここで著者は燃えました。

しかし、マンガの中ではそのようなことは起きていない。むしろビルとビルを渡る運命の道として、ことさらまっすぐ伸びるよう描かれています。ここがこの「カイジの鉄骨渡り」の肝だと思うんです。

そ、そうだったんだ・・。

ここから話は、「どうしたらマンガのような(たわまない)鉄骨をつくれるのか」に転じます。まずは使う素材と工法の検討。特殊な鋼材を用い、プレテンション(張力)をかけることで、たわまないほどに強度を増すことを可能にする。さらに、(開業直前なので)すでにタワークレーンが撤去されたであろうホテルの高層階まで鉄骨を吊り上げること、対岸の窓枠の下に突き出した床の設置、高圧電源の引き込みなど、すべてスペシャルな難工事を行うことで、はじめて、鉄骨渡りが実現されると、考察を深めるのです。

そして総額を見積もると軽く十数億円を超える金額に。こんな金額、現実的なのでしょうか? この章の最後に、著者はいいます。

帝愛の趣旨は、参加者の自発的行動による問題解決、機械とは異なる人間の極限状態での機転、恐怖に打ち勝つ勇気、行動力、そんなものの確認だったのです。それだけのために、あそこまでやってしまうのが、帝愛グループ。

なるほどなー。
ということで、帝愛グループならば、莫大な金額を投じても 特殊な高張力鋼をつくり設置することはするだろうから、あのようなピンと張られた緊迫感のある鉄骨が実現できたのだと検証されました。パチパチパチ―。

ちなみにここまで、約7ページ。この鉄骨渡りの検証から、「じゃあ、最後のガラスの階段はどうなんだ?」「あれはいけるのか?」とページは続きます。これが約9ページ。


本は全部で223ページ。お腹いっぱい楽しめます。そして読み進めていくうちに、知らず知らず、建築物に対する目が肥えてきます。マンガって勉強になるなぁと、改めて気づかされた本でした。
 

マンガ建築考 -もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたら― (ThinkMap)
作者:森山 高至
出版社:技術評論社
発売日:2011-03-05
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 *注:この本自体は漫画ではありません

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら

人気記事