犀の角のごとくただひとりく最澄と空海―。
マンガ「阿・吽」は現代のベンチャー起業家こそ必要だ!

中原 由梨2016年02月12日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

阿・吽 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
作者:おかざき 真里
出版社:小学館
発売日:2014-10-10
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 

後頭部を拳骨(げんこつ)で殴られたような衝撃だった。

おかざき真里さんといえば、代表作「サプリ」「&-アンド‐」など
働く女性の揺れ動く心情を、繊細なタッチで丁寧につむぐマンガ家…という印象だった。
そのおかざきさんが青年誌で連載を始めた、かつ、空海と最澄を描く、と聞いた時は
「チャレンジだなぁ」なんて軽くとらえていたのだが、そんな風に簡単に考えたことを
土下座して謝りたくなるぐらい「阿・吽」は想像もしない、荒々しい作品だった。

最澄と空海と聞いても、多くの人は名前をきいたことがある位程度の認識しかないだろう。
(恥ずかしながら、私もそうでした…)
マンガ「阿・吽」にはその二人が悩み、苦しみ、渇望し、やがて世界を変えるであろう物語が描かれている。

しかし、不思議なことに、読み進めるうちに
二人が現代のベンチャー企業の起業家のように感じてくるのだ。

仏僧のエリートコースである国分寺で正僧を目指すが、
腐敗した仏教界に絶望し比叡山に籠った最澄。
多くの暗い気持ちにも触れ、命を落とすような危機に際しても
絶望を抱えながら最澄は叫ぶ。
「それでも私は皆を救います!」と。

最高学府だった大学で何を勉強しても
がっかりすることしかなかった空海は仏教と出会い、
乾いた土が水を吸い込むがごとく学び、己を知る。

手段をたくさん選ぶことができる現代と違って、
平安時代の二人には世の中を変えるためには「仏教」という手段が
一番有効だったのだし、ほかは選べなかったのだろうと思う。
宗教が政治をも動かすほど強大な権力と化している中で
新しい道を見つけるために悩み、苦しみ、失い、絶望し、それでも進もうとする姿は
既存のものを壊して新しいビジョンを提示しようとしてる起業家の姿勢と
似通ってるように感じる。

最新刊(3巻)の最後に二人は海を渡ることを決意するが
外国にいくこと≒死ににいくことだった平安の時代、
それを止めようとする周りの者にこう答える。
「“追うべきもの”が、この世に存在しているのだ」

「それを追わずしてなんの人生か」と。

 
 

                       (『阿吽』/おかざき真理 )

真剣に自分や世の中と向き合い、それでもまっすぐに正しさと向き合う二人の物語を読んでいると
自分に問いかけられている気がする。
それも首根っこつかんで怒鳴る勢いで問われているような錯覚に陥る。

「お前は真剣に生きているのか?」「命をかける覚悟があるのか?」と。

そして私は自問自答し冒頭の感想に戻る…。知的にぶん殴られた気持ちにになる。

「阿・吽」は天才2人の話ではなく、信念をもった男が戦うマンガである。
そして、全身全霊をかけて真剣に生きる覚悟を問う作品である。
いつの時代も世の中を動かすことが出来るのは、こんな大きく熱い気持ちを持った人間だけなのだ。

======================================
全て生き物に暴力を加えず、
全て生き物を悩まさず、
子を望まず、友をも必要としない。
犀の角のごとくただひとりゆけ。

むさぼらず、虚言せず、渇求に負けず、
居食せず、曇りと幻影を払え、
この世界の中で―拘るな。
犀の角のごとくただひとりゆけ。

魚が水中で網を破り泳ぐように、
火が既に焼いたあしょに戻らぬように、
結び目を引き裂け。
犀の角のごとくただひとりゆけ。
======================================

 
            (『阿吽』/おかざき真理 )

 

犀の角のごとくただひとりゆけ。

 

阿・吽 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
作者:おかざき 真里
出版社:小学館
発売日:2015-05-12
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

阿・吽 3 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
作者:おかざき 真里
出版社:小学館
発売日:2015-12-08
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

HONZ会員登録はこちら

人気記事