『アテンション 「注目」で人を動かす7つの新戦略』日本語版解説 by 小林 弘人

2016年2月27日 印刷向け表示
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トリガー(引き金)を引く前に 

ここからは、本書の知見をビジネスにどう活用するかについて考えてみたい。

しかし、まず先に、これまで紹介したトリガーは、安易な一般則として落とし込めるものでは ないことを断っておこう。なぜなら、「自動トリガー」を取ってみても、そこには、驚きを際立たせるための「対比」が必要だからだ。あなたがどのような状況でどこの誰を相手にしているか が具体的にわからなければ、対比を描くことはできない。

また、「フレーミング・トリガー」にしても、注目してほしい相手の認識とその優先順位を理解していなければ、そこに影響を及ぼせない。さらに、注目や理解が進む前に効果を発揮するそれは、仕掛ける時宣を知る必要がある。

強そうな名前だから、「破壊トリガー」を使いたい? それにはさらに注意が必要だ。本書でも書かれているのだが、相手にとっての重要な価値がそこに含まれていなければ、相手をカンカ ンに怒らせるだけだ。「報酬トリガー」も右に同じ。相手の欲求を理解し、それを可視化すれば うまくいくが、そうでない場合にはスベるだけだ。

ほとんどのトリガーはあなたが置かれた状況や相手によって、具体的な手法が変化する。なので、わたしからのアドバイスは、まず、「相手を知ろう」である。それには「ペルソナ」といって、顧客を具体的かつ存在する人のように描く手法があり、それがもっとも有効だろう。

その上で、次のようなやり方で用いるべきトリガーを検討してみるのがよいだろう。

おそらく、顧客にとって商品購入までのリードタイムが長い商材の場合、多くのトリガーはその組合せによって機能するはず。即時の注意喚起で集めた潜在顧客から、もう少し絞られた顧客へと導く場合には、最初に使われたトリガーと違うものが用いられるべきだ。

そのように顧客の注目の段階によって、トリガーの選択は変わるので、メモに一本の直線を描き、それを顧客の成長段階と重ねて考えたらいいだろう。たとえば、直線の左端は「即時の注 目」、右端は「長期の注目」だ。左端には、DMや検索連動型広告のキーワード経由で「即時の注目」を払った状態の顧客がいる。そこから右に線が進むにつれて、「長期の注目」を払った状 態へと移行する。直線の左端から右端までのどこでいかなるトリガーを試すのか考える必要がある。次に、用いるべきトリガーに呼応するマーケティング施策を当てはめてみよう。各トリガー を実行する担当が、営業、広報・宣伝……と、部署を横断する場合には、チームで試論してみる ことがお薦めだ。それによって、まるで見当違いな施策を行っていないかどうかも見えてくるだろう。

クリエイティブが大きく変わる―情報は「露出」から「強弱」へ

これまで、テレビや新聞・雑誌広告・OOH(屋外広告)といった従来型メディアに載せるコンテンツは、一度人目を惹いたらそれでオシマイだった。しかし、デジタル・マーケティングは違う。訴求対象によって幾種類ものコンテンツを用意することはざらだ。加えて、それをどのくらいの頻度で、どの配信チャネル(ソーシャルメディア、ポータルサイト等)で流通させたらよいのか設計が必要となる。そこで、コンテンツが顧客の注意を喚起できたかどうかを測定するツールの登場だ。なかでも、「ヒートマップ」や「アイトラッキング(視線追跡)」は「自動トリガー」と相性がよいだろう。それらは人々の視線の軌跡を追い、どこに注目したのか、時系列で追うことができる。後者はウェブやアプリだけではなく、実際の店舗の商品棚や看板の中身に対する「注目」の流れも追える。

また、ECサイトなどは、効果測定の結果、表示させるクリエイティブを随時切り替えている。 そこには「完成」という概念はなく、「アップデート」があるのみだ。アメリカのウェブメディアの一部では、「ヘッドライン最適化(オプティマイザー)」ツールを使って、いくつもの見出しをつくり、いちばんウケる見出しの探求に余念がない。

これまでは、コンテンツを頻出させて顧客の目や耳に触れさせる機会を増やすことが重要だと 考えられてきた。一方、ウェブやスマホ上では、発信したメッセージに顧客が共感し、さらに友 人たちに共有したくなることが理想的である。「露出」よりも、顧客にとって「強いシグナル」 を発していることが肝要だ。そのためにも、(a)露出のタイミング、(b)相手にとって価値が高い、(c)瞬時に注目される、この三つが欠かせない。「即時の注目」が測定できる現在、常に”強い”コンテンツが作り出せるかもしれない。「自動トリガー」を知ることで、クリエイティブが大きく変わるだろう。

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