「いなければいいのに」と思った家族と真に向き合う時。引きこもり脱出応援記『ふつつか者の兄ですが』

マンガサロン『トリガー』2016年03月03日 印刷向け表示
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ふつつか者の兄ですが(1) (モーニング KC)
作者:日暮 キノコ
出版社:講談社
発売日:2015-09-23
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日暮キノコさんの作品を読む時、私は警戒するようになった。

ドラマ化もされた『喰う寝るふたり 住むふたり』のような穏やかな作品ならまだしも『モンクロチョウ』のような作品もあるので、いつ暗黒面に突き落とされるか判らないからだ。しかも、この最新作『ふつつか者の兄ですが』はひきこもりをテーマにしているのだから尚更だ。

本作は、四年間ひきこもりの兄・保がいる女子高生の妹・志乃の物語。

人に紹介できない兄の存在。その存在のために青春を犠牲にして家事を行い続けねばならず、家に友達も呼べない志乃の苛立ちが序盤から描かれる。誰にも言えず自らの内に溜め込むしかない辛さが、読んでいても苦しい。

しかし、そんなひきこもりの保もとうとう二十歳を目前にして働き出そうとする。

心底疎ましく思っていても、やはり昔は心を通わせた家族。仲睦まじくとは言えず、ぶっきらぼうながらも兄妹が支え合って前に進もうとする姿に感銘を受ける。

『あしたのジョー』のジョーとB′zの稲葉に憧れている保の言葉が良い。

目の前にあんのは壁じゃなくて扉だと思うことにしたっ!!
お前や親父との間にあるのも扉でっ
壁じゃない… だから通じるはずだって…っ

そう、壁だと思い込んでいる物は実は壁でなく扉だったり薄布一枚だったりするかもしれない。修復不能に思えるものも、思っているだけで行動してみれば新しい形で蘇らせることもできるかもしれない。一番難しい最初の一歩さえ意を決して踏み出してしまえば世界は変わる可能性を秘めている。

勿論、踏み出したその先が穏やかな道だとは限らない。何とか社会復帰を果たそうと、何件も断られながらようやくラーメン屋でバイトすることになった保。しかし、そこでミスを連発してしまい、それが過去のトラウマを蘇らせる切っ掛けともなって苦しむ。

心が闇に囚われてしまい「辞めたい」「辞めたい」と朦朧とする保の描写には苦々しい共感を覚える人も多いだろう。人は忘れるからこそ生きていける。しかし、時に忘却という機能が不全となる記憶があるのは人間の致命的な欠陥だ。

それでも、動き続けることで保の世界はまた新たに変わっていく。出逢いを通して、人生は千変万化していく。志乃の方も、良き友や憧れの男子のいる学校、セクハラ満載ながら気のおけないバイト先で、年相応の時間を過ごしていく。兄と妹の、それぞれの青春の矛先はどこへ向かうのか。

「この志乃の一番の友人で天使のようなサキちゃんもある瞬間に突如豹変するのでは……?」
そんな疑心暗鬼を捨て去ることをできないまま、10話ラストを読んで胸を焦がす。

これもまた、人生だなぁ……。

 

ふつつか者の兄ですが(2)  (モーニングKC) (モーニング KC)
作者:日暮 キノコ
出版社:講談社
発売日:2016-02-23
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  • 丸善&ジュンク堂
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 2巻が発売したばかりですので、ぜひ今の内に!

 

(文:マンガサロン『トリガー』店長 兎来栄寿)

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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