日本が誇るブカツ漫画の新定番『ハイキュー!!』は敗者の漫画である

高橋 紗也子2016年03月04日 印刷向け表示
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 『笑ってコラえて』というテレビ番組がありますが、そのなかでも私は「吹奏楽部の旅」というコーナーが大好きです。朝から晩まで練習してコンクールで戦って勝敗に一喜一憂する高校生たちの姿は、小学生のころの私には輝いて見えていました。結局私は吹奏楽部に入りませんでしたが、いまでも吹奏楽部は私にとってあこがれです。

 そして、私が今最も、そうした青春のエネルギーとノスタルジーを感じられるのが『ハイキュー!!』です。『ハイキュー!!』は、少年マンガには珍しい、「敗者の目線」が強い漫画です。試合に実際に負けたのではなくても、登場人物一人ひとりが大小さまざまな挫折を経験しています。体格とパワーを持っていながらある試合を境に試合に出られなくなってしまうエース東峰、兄の失敗を見て全力を出すことを恐れている月島。そんなそれぞれの苦しみを軽くするのは、先輩だったり後輩だったり、さらには家族だったりして、ときに周りに支えられながら、ときに周りを巻き込みながら大きくなっていきます。それが烏野高校排球部のメンバーたちに、私が共感する点です。

 

「コートの"こっちっ側"にいる全員!もれなく"味方"なんだよ!!下手糞上等!!迷惑上等!!足引っ張れ!!それを補ってやるための!!"チーム"であり"センパイ"だ!!!!」(2巻12話 田中龍之介)

高校生の一年って本当に大きくて、一つしか年は違わないのに欲しいときに欲しい言葉をくれるんですよね。もちろん実際にはそんなステキな先輩ばかりではないんですけど、そういう先輩がこのマンガにはたくさんいて、ツボをわかってるなあ、と思います。特に主将の澤村に関してはもう理想の先輩です! とても高校生とは思えない器のデカさ! 自由にやらせるところと手を出すところのバランスが絶妙で、なんでも自分ひとりでやりきろうとすることがイコール「頼れる」ということではないことに気づかされました。

 

「俺ら3年には"来年"がないです だから一つでも多く勝ちたいです 次へ進む切符が欲しいです それを取ることができるのが俺より影山なら、迷わず影山を選ぶべきだと思います」(4巻26話 菅原孝支)

レギュラー争いは部活マンガのなかでも醍醐味の一つですが、必ず選ばれない人が生まれます。選ばれない側の苦しさも部活の魅力で、そこから逃げないのがこの作品の魅力。チームの勝利のために犠牲になる自分の立場を、惨めに思うどころか逆に勝っていく手段だと考える。我が身かわいさが勝ってしまうの私のような人間には逆立ちしてもできそうにありません。それでいて腐らずに自分の武器を見つけて磨こうとしていく部員たちのひたむきさはとても応援したくなります。特に山口のサーブが成功したときは思わず「やっとか……!」と言っていました。

 

「あの時もう少しもう少しだけ頑張ってたら 筋トレも走りこみももっと頑張ってたら もっと主将らしくできてたら レシーブ一本に必死になれてたら あと一歩足が前に出ていたなら もう少しバレーをやれていたんだろうか」(5巻40話 道宮結・池尻隼人)

冒頭で述べた「吹奏楽部の旅」の何が好きかというと、主人公が勝つとは限らないところです。だって全部勝ち進んだら人間味がないじゃないですか。ほとんどのチームは負けます。そして、いままでの自分の練習が十分だったか、他のことにかまけて練習がおろそかになっていなかったか、と振り返ってしまいます。でもそれは、ほんの少しでも打ち込んだ時間があったからだと思います。一つのことに集中した経験が全くなければ、集中していない自分を見つけることもできません。そういう「負けについて考える気持ち」にスポットを当てたシーンが『ハイキュー!!』にはいくつもあって、その「負け」はひとつの代の終わりであると同時に次の代の始まりでもある。ほとんどの学校は負けて次の世代に勝利を託し、優勝校は次の世代にその誇りをつなげて一番上の学年は去っていきます。それぞれの学校で部活のメンバーは全く新しいものになるけれど、いろんなものがいなくなった世代から受け継がれて、それぞれの学校のカラーが生まれていくんだと感じさせられました。

 

 元気を出したいときに聴く曲が明るい曲だけではないように、この漫画には明るさだけではないエネルギーがこもっています。癒しとも激励ともちょっと違う、そんな力をくれる漫画です。最近アニメ化、舞台化、ゲーム化とマンガのメディアミックスをフルコースで成し遂げた人気沸騰中の王道スポーツ部活マンガ『ハイキュー!!』はなんと本日3月4日最新刊である20巻が発売されます!強敵白鳥沢との対戦もいよいよクライマックス。この名言集でその魅力が伝われば嬉しいです。

 

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