予想できないから、漫画も人生も面白い。優しくも鋭い元風俗嬢と悩める人々の物語『ちひろさん』

佐伯 英毅2016年03月08日 印刷向け表示
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 たまに漫画家さんのインタビューなどで聞く
「キャラクターが勝手に動き出す」という言葉。あなたも、一度くらい、聞いたことがあるのではないだろうか?

僕は編集者になるまで、
「勝手にキャラが動き出すなんて、本当に起きるのか?キャラクターをつくっているのは作者本人ではないか」と思っていた。
だが、いま僕は編集者として
『テンプリズム』という作品に関わりだして、「ベルナ」という「勝手に動き出すキャラ」がいることを目の当たりにした。

作者である曽田正人は、
「描き始めるまで、ベルナが何を言い出すか、わからない」と言っていた。
作品が出来上がるまでの流れの一番近くにいると、それがよく分かる。
ベルナに関しては、レビューを描いたので、そちらもぜひ。
『テンプリズム』を読めば、彼女がいかに勝手に動いて、読者にとって予想外な展開を引き起こしているか、分かるはずだ。

「勝手に動き出すキャラ」に出会ったとき、
読んでいる人は、自分の予想通りに行動しないキャラに対して、「腹の底が読めないキャラだ」と感じるだろう。それは、現実世界において、自分以外の他の人間が、色々なことを考えて自由に生活しているのと同じだと思っている。
「生きている」キャラクターは、「生きている」人間と同じで、
簡単に行動が予測できないし、何を考えているか100%分かることはない。

今日紹介するのは、
そんな「勝手に動き出す、生きたキャラ」である「ちひろ」が中心にいる漫画『ちひろさん』だ。

ちひろさんは、元風俗嬢。今は海辺の小さなお弁当屋さんで働いている。
彼女の元には色々な人がやってくる。冒頭部分は、こんな感じだ。

 

 
ポツリポツリと登場するキャラたちは、
ちひろさんが持つ、昼間の海のような穏やかさに、救われたり、救われなかったりする。
脇を固めるキャラたちも、決して派手ではないのだけど、味わい深いキャラばかりで、好きになってしまう。

「勝手に動き出すキャラ」がいる漫画の特徴のひとつとして、
伏線らしき伏線がなく、前のエピソードが、その後の物語に思わぬ形で活かされる、という特徴がある。後から出来事が繋がっていく展開は、まるで本当の人生ようなリアリティーを持っている。

ホームレス、育児放棄、DV、マルチ商法、同性愛、自殺志願。
重たい悩みを抱えた人たちを、
時に優しく包み込み、時に鋭く叱るちひろさん。予想できない行動をとるちひろさんに手を引かれるように、読み進めていくと、ちひろさんを介して、それぞれ違うエピソードで登場した、思わぬ人たちが出会い繋がっていく。

作中で描かれる幾つかの出会いの、くすぐったいような素晴らしさは、
「自分の人生でも、こんな粋で素敵な関係を築けるかもしれない」
と思わせてくれる。
その、これからの人生へのワクワクこそが、リアリティーと深さのある『ちひろさん』という作品で味わえる、大きな喜びのひとつだ。


ぜひあなたも読んで、ちひろさんに会ってみてほしい。

 

また、『ちひろ』という風俗嬢時代を描いた漫画もある。
『ちひろ』は、今から10年前に連載していたのだそうだ。10年経って、ちひろさんには、少し変わったところと、変わっていない部分がある。『ちひろ』の後に『ちひろさん』を読むと、より深く物語を味わえるだろう。
『ちひろ』のマンガHONZのレビューは、こちらから。

 

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作者:安田弘之
出版社:秋田書店
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