マザコンと呼ばれようと、お母さんのことをもっとよく知りたい!身近であるからこそ、実はよく理解していなかった「母」という存在を描く。押切蓮介『HaHa』

宮原 沙紀2016年03月14日 印刷向け表示
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漫画家・押切蓮介さんのお母さんといえば、清野とおるさんの漫画「東京都北区赤羽以外の話」に登場しています。

(清野とおる「東京都北区赤羽以外の話」より)

 

この姿勢、そしてこの存在感…。
数コマの登場だったにも関わらず、ものすごいインパクトを私に与えました。

東京都北区赤羽以外の話 (ワイドKC 月刊少年シリウス)
作者:清野 とおる
出版社:講談社
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こちらの押切蓮介さんのお母さん、やはり只者ではありません。彼女は一体何者なのか。その謎が、こちらの作品で明かされています。

HaHa (モーニング KC)
作者:押切 蓮介
出版社:講談社
発売日:2016-01-22
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 “母といえば、口を開けばお説教。よくもまあ次から次へとお説教ばかり口をついてでてくるものだと感心するくらい口うるさい存在、かたやテレビを見ている時はくだらない下ネタで大爆笑している。家族だから、母親の性格は良く理解している。”


しかし作者はある日ふと気づくのです。そんな身近すぎる存在であるからこそ考えもしなかったけれど、この人の育ってきた環境や、考えてきたこと、どうしてこういう性格になったのか。「そういえば何も知らない…。」と。

「お母さんは、昔、どんな青春時代を送ってきたのですか?」

(押切蓮介「HaHa」より)

作者が“母”の若い時に興味を持ち、敬意を持って聞こうとすることからこの物語は始まります。

1963年、下関。母・亘江、18歳。父は厳格な性格の警察署長。母は割烹旅館の女将。家で抑えられて生きて来た反動からスケ番だったという奔放な少女時代が語られます。

亘江の父への反抗心や

(押切蓮介「HaHa」より)

偉大な母

(押切蓮介「HaHa」より)

親戚との対立

(押切蓮介「HaHa」より)

そして自立

(押切蓮介「HaHa」より)

両親への様々な思いや、事件、自立を通して今の母は作られていました。


清野とおるさんを圧倒した母のオーラは人生の荒波に揉まれた人が発する独特のものだったのでしょう。

そして、この作品には母・亘江、亘江の母・キヌヨの名言がたくさん登場します。

「運動して運気を動かしなさい」


「午前中を無駄にすることなかれよ。午前中を活かしてこそ1日が生きるの」


「短期は損気」


「人間はお金を稼ぐための生き物ではないわ。楽しく生きるために努力する生き物よ」

(押切蓮介「HaHa」より)

親の意見となすびの花に千に一つも仇はない。という諺のとおり子を思う親心から生まれたお小言やお説教は、うるさくても自分のためになることなのかもしれません。

私事ですが、私の家は長野で三代続く漆器屋を営んでいます。母は二代目の次女として産まれ、お金には苦労せず暮らしていたそうですが、厳格で心配性の両親に、自由は尊重してもらえなかったそうです。栄養士を志して三重県で勉強していたのですが、家を継ぐはずの長女が家を出てしまい、急遽連れ戻され、父とお見合いし、三代目の妻としていま稼業を継いでいます。

私はいままで母に「〜をしちゃダメ」となにかを禁止されたことがありません。母はいつも自分の意思でなにかをすることができなかったから自分の娘たちにはそういう思いをさせたくないと、私たちのやりたいと言ったことはほとんど許してくれました。

ちょうどこの漫画を読んでいる時、母が倒れたという連絡がはいりました。昨年、長く患っていた股関節手術をやっと決意し、両脚に人工股関節をいれたのですが、まだまだスムーズには歩けずリハビリを頑張ろうと意気込んでいた矢先、意識を失って病院に運ばれたのです。

結局、数日の入院で体調は回復し、今はもうすっかり元気なのですが、母親ともう話せなくなるかもしれないという恐怖を初めて感じた出来事でした。母が元気で生きていてくれることのありがたみを確認しました。

そんな状況の中で読んでいたこの漫画の、最後に載っていた母・亘江さんからのエールと暖かいあとがきに、すごく勇気づけられました。

(押切蓮介「HaHa」より)

「自分が存在していることは当たり前のように思っていたが…自分という人間は色々なものの上で成り立っている。そのことを教えてくれた母に感謝しなくては…」母の物語を聞いた押切さんの言葉です。自分のルーツである両親のこと、そのまた両親のことに想いを馳せてみる。両親でなくても、近くにいることが当たり前になってしまっている人のこれまでに耳を傾けてみる。どんな人にも人生のストーリーがあります。自分を取り巻くいろんな人のストーリーを聞いてみることが、その人のみならず自分を知ることにもつながるかもしれません。

 

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