アル中夫、クスリ、風俗、ホームレス、カルト宗教……転落人生の極地にある救いとは?『SAD GiRL』

マンガサロン『トリガー』2016年03月20日 印刷向け表示
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SADGiRL (torch comics)
作者:高浜寛
出版社:リイド社
発売日:2016-01-29
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この作品にはどうしようもない哀しさが、そしてそれだけが齎すことのできる救いがあります。

高浜寛先生は、手塚治虫文化賞大賞にもノミネートされている『蝶のみちゆき』で昨年注目を集めました。ここ数年、連載もあることによってコンスタントに高浜作品に触れられる状況になっているのは僥倖という他ありません。何せ描く作品描く作品が面白いのですから。マンガサロン『トリガー』でも、お薦めしては「素晴らしかったです」「泣きました」など大好評が帰って来ます。そんな注目すべき高浜先生の新作短編集がこちら。

本作でも、表紙にも描かれており象徴的な胡蝶。華やかさというよりは、儚さを感じさせます。画のタッチや淡い色彩と趣向を凝らした本の装丁も相まって、夢幻へと迷い込んだような印象を与えます。右開きと左開きの物語が混在している単行本というのも非常に珍しく、良い意味で異質なオーラを放つ一冊です。

表題作「SAD GiRL」は、タイトル以上に悲惨で陰惨な女性の姿が描かれていきます。アル中夫の存在、オーバードーズ、友人によるクスリ漬け、よりを戻したクズ男が隠していた借金を返すための風俗就業、ホームレス化、カルト宗教に染まった実家……。「艱難汝を玉にす」という言葉が虚しく感じられる程、これでもかとばかりに酷い仕打ちのオンパレード。読んでいて非常に辛いです。が、辛いだけでは終わりません。

「生きていこう
まるで一度も挫折したことがないかのように」

という最後のセリフが絶妙です。黒澤映画の『生きる』を初めて観た後のように、人生や人の性(さが)について思いを馳せずにはいられませんでした。『蝶のみちゆき』といい、一体どんな人生を経験して来てこれを描くに至ったのか……。

果たして、その一端は現実に起きたある事柄を元に描かれた収録作の一つ「ロング・グッド・バイ」から感じ取れました。そして、あとがきに更に詳らかに書かれてもいました。想像以上に、「SAD GiRL」の主人公は作者だったのだ、と。そして、酷烈な過去を私はこんな笑い話にもできるようになりましたよ、と語る高浜寛先生の強く優しい眼差しを感じました。

シリアスな話の中にも時折登場するユーモラスな描写の意味が解った気がしました。勿論、何年何十年経っても笑い飛ばせない人もいるでしょう。しかし、もしも同じような境遇の人が読めば大きく救われるケースも少なからずある本です。

「女は泣かせてはいけないと知った。強くなりすぎる」

も心に刻まれたセリフです。この短編集に登場するのは、強くならざるを得なかった哀しき女たち。世界の女性たちが流す涙の総量が少しでも少なくなることを、強くなる必要性が生まれないことを願います。

そして、もし強くなってしまった女性がいたならば、この作品から一片の救いを見出してくれることを、あるいは強くしてしまいそうな男性がいたならば、その行為がどれだけの影響を及ぼすかを密に考え、軽々に行動しないでくれることを心から祈念します。

ニュクスの角灯 1 (SPコミックス)
作者:高浜寛
出版社:リイド社
発売日:2016-01-29
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『SAD GiRL』と同時に発売された『ニュクスの角灯』も、毛色は全く違う作品ですがお薦めです。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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