「好きは、呪いだ・・・」決して叶わない夢をもつ人が『コンプレックス・エイジ』を読んで向き合うべき1つの現実

神戸 パン2016年03月27日 印刷向け表示
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コンプレックス・エイジ(1) (モーニング KC)
作者:佐久間 結衣
出版社:講談社
発売日:2014-08-22
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みなさん「趣味」はお持ちですか?私にも、とても熱中している趣味があるんです。だけど、その「趣味」が原因で、ある“悩み”を抱えることがあるんです・・・ 

平日の私はいたって普通の大学生です。授業に出て、サークルやゼミ活動に勤しみ、バイトもしています。ただ一つだけ少し変わった趣味があります。

それはコスプレです。コスプレが好きで、週末はイベントやスタジオに行く日々です。

そして、私がコスプレで着る衣装は、某雑貨店に売っているようなペラペラな衣装ではありません。サテンやスパンコール生地でできた“本格的”な衣装です。二次元に近づくための努力や投資を私は惜しみません。ポージングや表情からウィッグ、カラコン、つけまつげ等のアイテムなどなど、少しでもコスプレの完成度を高めるために、やれることはすべてやっています。

『コンプレックス・エイジ』の主人公、片浦渚も二次元の憧れのキャラクターになるための努力や投資を惜しみません。特に作中に出てくるアニメキャラ「ウルル」のコスプレには人生をかけています。
この作品では、主人公が10年間捧げてきた趣味―コスプレ―にどのように向き合うのかが描かれています。

コスプレイヤーの理想と現実

高校時代からコスプレに勤しんでいた渚はコスプレ関係者の間では有名であり、日々充実していると感じていました。
しかし年下のレイヤー綾に出会ってから様々な葛藤が生じ始めます。

 

(コンプレックス・エイジ 第一巻)
年下レイヤー綾を見て最愛のキャラクター『ウルル』を思い浮かべる渚

はじめて渚が見た綾は、自身がずっと憧れ続けてコスプレしている「ウルル」そのものでした。渚は自分が持っていない「才能」を綾に感じます。綾に対する、ある思いが渚のなかに生まれました。
人間誰しもが抱く「嫉妬」です。小物や衣装、メイクやポージングは自分の努力や投資次第でどうにかなりますが*身長や若さはどうにもなりません。「なぜこんなにも好きなのに、愛しているのに、私はウルルになれないのだろう・・・」と、たちはだかる現実に打ちのめされるのです。
*身長:高くする分には厚底ブーツ(10cm)を履けば解決できるが低くはできない。

コスプレイヤーが恐れること

コスプレイヤーが最も恐れていることがあります。それは“身バレ”です。コスプレイヤーがコスプレする際は、必ずハンドルネームを名乗ります。私もハンドルネームを名乗り、交流しています。自分が「コスプレイヤー」であることを公言していない人も多いです。それぐらいコスプレイヤーたちは、自身の趣味にものすごく気を遣って活動しているのです。

コスプレは最近になって多くのメディアに取り上げられるようになりました。

しかしその取り上げられ方は、いわゆる「見世物」として扱われることが多いです。コスプレイヤーと一般の人の「コスプレ」に対する認識には、まだズレがあるように感じます。

作中で、とある事件が起きます。
渚の職場の正社員、葉山が同僚にコスプレイヤーだということがバレてしまいます。

(コンプレックス・エイジ 第二巻) 

現役コスプレイヤーたちが『コンプレックス・エイジ』の中で最も恐れたシーンです。
私自身、大学の友人向けアカウントと趣味アカウントは分けています。
この場面での「すごいですね」は賞賛する言葉ではなく、この年でよくこんな格好して変な写真撮られていますね、の意味にしか感じられません…。

女の幸せ

「趣味」は時として、自分の人生の大きな“壁”となることもあります。

渚は高校の同窓会で再開した千田光太が『マジカルずきん✩ウルル』好きであることが分かり、交際に発展します。
しかし千田はコスプレという趣味を受け入れることができませんでした。渚は自分の趣味を取り、破局してしまいます。

一方、渚の親友公子は結婚を機にコスプレをやめることを考え始めます。

一般的に、恋愛して一生寄り添えるパートナーを見つけることが女の幸せであるとされているように感じます。
しかし、コスプレイヤーは自分の好きなキャラに近づき、人々から認められることを幸せに感じます。両立している人も少なくありませんが、趣味を優先させる人が多いのも事実です。

週末はイベントかスタジオ、平日は衣装修羅場でデートする暇なんてありませんという生活を私も送っています。
※衣装修羅場:衣装が必要な日が迫っているにも関わらず、進度が芳しくなく徹夜せざるえない程切羽詰まった状況のこと。

「好きは呪いだ」

コスプレは自分の容姿を「理想」に近づけるものです。

ただ、現実の容姿は歳をとるにつれて、徐々に理想とかけ離れていきます。毎日見ている鏡の中の自分の容姿が、次第に衣装とマッチしてこなくなることを感じる。容赦ない現実を突きつけられるのです。

でも、「好き」だから止められない。「好き」だから、現実の自分と理想との差に悩まされる。

そんな呪いに主人公・渚はかかっていたのです。

(コンプレックス・エイジ 第六巻)

コスプレだけに限らず、他の趣味や将来に対しても人は決断を迫られるときがあります。

「いい年した大人が何をやってるんだ」と言われたことがある方は多いのではないでしょうか。趣味は時に年齢、金銭面と様々な現実に直面し、どう向き合っていくか決めなければなりません。

野球が好きだから野球選手になりたい。絵を書く事が好きだから漫画家になりたい。でも、そんな「夢」を実際に叶えられる人はほんのひと握りです。どこかで折り合いをつけて大人になる人がほとんどです。

だからといって好きなことを、趣味を、将来の夢をあきらめてしまっていいのでしょうか。

自分の「好きなこと」と真剣に向き合った人々を描いたのが『コンプレックス・エイジ』です。
「好きなこと」を諦めなければならない現実と直面したとき、ぜひ読んでみてください。

 

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