医師が読む吃音症マンガ、自罰的なあなたもきっと大丈夫『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

医療美術部2016年03月23日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

マンガHONZをご覧のみなさん、はじめまして。医療美術部と申します。医療美術部は漫画やイラストを描くことが好きな、医師や看護師などのマンガサークルです。ジャンルは解剖図やサイエンスイラスト、漫画や萌え絵まで幅広く、同人誌(医学語呂なう本とか)を定期的につくっています。制作コンセプトは《楽しく学べる、正しい医学知識》。

交流会(オフ会)を月一回くらいやっています。サークル参加後(コミケ等)にしゃぶしゃぶを食べに行きます。同人誌を売った利益でしゃぶしゃぶを食べます。しゃぶしゃぶは美味しいですね。漫画を通して、非医療者と医療者の掛け橋になれたらと思っております。よろしくお願い致します。

今回は『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』を紹介します。たまたまkindleセールしていた時に見つけて即購入。

押見 修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』より

アニメ化もされた『悪の華』などで有名な押見修造先生の漫画作品です。

自身の吃音の体験をもとに描かれた作品だとか。全11話で、構成も話もシンプルで分かりやすい。漫画ならではのオーバーな感情表現で読者を作品世界に没入させます。主人公、大島志乃は一見普通の高校1年生の女の子。ですが、最初の自己紹介から自分の名前がうまく言えず、高校生活の出だしからつまずいてしまいます。

押見 修造「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」より
押見 修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』より

友達が出来ずに校舎裏で一人お弁当を食べる志乃ちゃん。そこで出会ったのは、音楽が好きなのに「音痴」の加代。ただ一人、志乃の吃音を笑わなかった加代。志乃は彼女と徐々に打ち解けるようになっていく。

押見 修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』より

しかし、二人の関係の中に、志乃の吃音を馬鹿にしていた菊池が加わって…

押見 修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』より

この「吃音症」という病気。ご存知の方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

精神科医がよく使う診断基準のマニュアルに、米国精神医学会の「DSM-5」という基準があります。そこでは、「小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害(吃音)」と表現されています。つまり、突然、特定の言葉が発しにくくなる病気です。緊張状態でなければ吃音が発生しない場合から、独り言でも吃音が発生する場合もあります。

緊張や不安などに伴って悪化する場合があり、脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌との関連も指摘されています。幼少期の養育環境・ストレスの影響も示唆されています。また遺伝子解析で関連する遺伝子も分かって来ているとのこと。症状を苦にして自殺してしまう方もいる、重大な神経発達疾患です。


と、長々と吃音症の説明を書いたものの。この漫画の魅力は病気の描写ではないと思っています。作者本人もあとがきで「ただの『吃音漫画』にしたくなかった」と言っていますし。


病気を持っていても少女は少女です。多感な時期を、疾風怒濤の思春期を、必死に生き抜く、どこにでもいる少女です。たしかに大島志乃は病気なのかもしれません。でも、きっと誰でも人より劣っている部分を持っているのです。社会の平均よりもどうしても下のレベルになってしまう部分。恥ずかしい部分。出来るなら隠したい部分。それをどう受け入れ、乗り越えていくかという、青春のストーリーなのです。

個人的に好きなのは一話のサブタイトル。「はじめまして、すいません」。志乃ちゃんの自罰的な感情を象徴しているかのようです。そこからどうやって志乃ちゃんは前に進んでいくのか。もがいて生きている人間の誰よりもエネルギッシュな声を、歌を、感じてみてください。

押見 修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』より

この漫画は、人から笑われたりからかわれたりして、自罰的な感情を抱いてしまった人達に
「あなたはあなたなんだ」と背中を押してくれるような作品です。

文責 良茶(医療美術部)

志乃ちゃんは自分の名前が言えない
作者:押見 修造
出版社:太田出版
発売日:2012-12-07
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事