そんなことで絶望しているの?絶望という言葉では生ぬるい、言葉では言い表せない世界『霧の中のラプンツェル』 人はここまで残酷になることができる

荒井 健太郎2016年03月29日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

霧の中のラプンツェル (アクションコミックス)
作者:あらい・まりこ
出版社:双葉社
発売日:2012-04-28
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

人はどこまで残酷になれるのでしょうか?

  

(旧アウシュビッツ収容所Ⅱービルケナウより 撮影地:ポーランド)

  ラプンツェルって知っていますか?グリム童話の1つで、父の罪の代償として、魔女に囚われた娘が美しい長い髪のおかげで王子様に救われるお話です。最近だとディズニーが『塔の中のラプンツェル』という映画を制作していましたが、このマンガのラプンツェルは第2次世界大戦におけるナチスドイツによるホロコーストをテーマにしています。アウシュビッツに訪問してこのマンガを思い出したので今回レビューを書きました。撮影した写真を絡めながらマンガを紹介していきます。

 

物語の始まり

主人公のラケルは父母兄の4人家族のユダヤ人。ナチスが力を持つ前は幸せな家族だったのですが、ユダヤ人の迫害が進むにつれて兄は大学を追われ、父の店は壊され、亡命したフランスも占領されてしまい、最終的にはアウシュビッツへと送られます。話はラケウが遠い幸せだったころの夢を収容所の中で見るシーンから始まります。アウシュビッツの話はどこまで行っても最後まで絶望しかないのです。

(『霧の中のラプンツェル』より)


アウシュビッツのビルケナウに行くとここのシーンに使われる収容所の実物を見ることができます。レンガだけの家畜小屋のような外装にただの木の板でできた3段に藁を敷いた上に、沢山の人が寝かされていたそうです。

(旧アウシュビッツ収容所Ⅱービルケナウより 撮影地:ポーランド)

ここは旧アウシュビッツ強制収容所Ⅱ−ビルケナウと呼ばれている場所の収容バラックの中です。ここの収容所には終戦間際の1944年頃には10万人もの人が収容されていました。殺戮装置の殆どはこちらのビルケナウに建設されていましたが、バラックも含め今は殆どのこされていません。

(旧アウシュビッツ収容所Ⅱービルケナウより 撮影地:ポーランド)

 

1話ごとにグリム童話をモチーフにした物語が残酷さを引き立てる

話ごとにグリム童話のタイトルを関した、民話調の話を織り交ぜながら、徐々に徐々にユダヤ人が迫害されていく様子を淡々と救いなく描いています。

(『霧の中のラプンツェル』より)

 

絶望すら忘れる

ラケルは快活で元気、利他的な考えの持ち主で主人公の鏡といえるような存在です。ユダヤ人であるラケルは、大学を追われた兄アロンの友人であるハインリヒに一目惚れされます。兄が大学を追われたことで研究のポストにありつけたハインリヒはアロンへの償いとラケルへの愛情から、ナチスに入り彼らを救おうと奮闘します。

(『霧の中のラプンツェル』より)

これだけを聞くと国を追われる少女とそれを助ける王子様という構図が見て取れますが、この物語にそんな救いはありません。童話のラプンツェルでは魔女に囚われたラプンツェルの長く美しい髪をはしご代わりに王子様が会いにきます。そして、王子様に会ったことに激怒した魔女がラプンツェルを捨て、捨てられたことを知った王子様は絶望して身を投げ失明します。しかし、最後に森の中で再会し、ラプンツェルの涙によって王子様の視力は回復してハッピーエンドです。

しかし、第1巻の最後でラプンツェルは…

ビルケナウの大規模なガス室の周辺は廃墟になってしまっています。

(旧アウシュビッツ収容所Ⅱービルケナウより 撮影地:ポーランド)

小学生のときに見た『白い巨塔』で財前教授がビルケナウの線路に立つシーンからずっと行ってみたくて、『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』『縞模様のパジャマの少年』『夜と霧』なんか有名どころ抑えて見に行ってみました。解説も聞きましたが、正直言葉で聞く悲惨さが想像を超えていて、実際に行き、メガネの山を見ても、髪の山を見ても、かばんの山を見ても、子供のやせ細った写真を見ても遠い昔にしか感じられませんでした。

ただ、このマンガをもう一度読むとホロコーストの悲惨さが、言葉よりも現実よりもどこかリアルでした。そこで過ごす人の顔が描かれているからかもしれません。ラケルがどうなるのかはわかりませんが、連載再開を強く望んでいます。日本であまり語られないホロコーストですが、ぜひこの機会にマンガで触れてみて下さい。幸か不幸かたった200円で読めます。

※ちなみにアウシュビッツに行くというと「ドイツにいくんだ」と言われますが、アウシュビッツはポーランドにあります。まだユーロも導入されていないので、物価も安くいい国でした。

 

霧の中のラプンツェル (アクションコミックス)
作者:あらい・まりこ
出版社:双葉社
発売日:2012-04-28
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録
作者:V.E.フランクル 翻訳:霜山 徳爾
出版社:みすず書房
発売日:1985-01-22
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事