五十嵐大介最新作『ディザインズ』、世界でもっとも抱かれたくない“女豹”が登場 『海獣の子供』の五十嵐大介最新作は、生物兵器がテーマのハードSF

森 旭彦2016年04月14日 印刷向け表示
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( 五十嵐大介 『ディザインズ』 )

『海獣の子供』で、ジュゴンに育てられた子供たちを通し、海という異世界の深淵を描いてみせた五十嵐大介。最新作『ディザインズ』で描くのは、人間によって遺伝子を操作された生物兵器だ。

 
冒頭のカットに登場するのは、驚異的な身体能力を宿した、人間と動物の中間の存在ヒューマナイズド・アニマル「HA」。物語の舞台は、彼女らのような人間 以上の能力を持ったHAが、生物兵器として戦争に用いられる未来だと考えられる。もちろん「獣人たち数万を率いて大戦争」といった昔のSFじみたシーンは 描かれない。作中では、“運搬費用も安上がり、最小の戦闘単位で、最大の効果”があげられるHAを使い、ゲリラ戦闘を展開するシーンが描かれている。ロ ボットやドローンによる戦争がすでに実現しつつある今、SFとしてリアリティのある舞台だろう。

本作を読んでいて、H・G・ウェルズの『モロー博士の島』を思い出さずにはいられない。科学界を追放されたマッドサイエンティスト、ドクター・モローが、ひとり離島で研究を続け、外科手術によって動物を人間に改造するという物語だ。
作中の登場人物、オクダはドクター・モローのオマージュにも感じる。はたしてここで描かれるのはドクター・モローの悲劇のリプリントなのだろうか?

 
( 五十嵐大介 『ディザインズ』 )

動物と人間の交配種は「キメラ」と呼ばれる。現在の科学界では、理論的には、この世界で有効活用され得るキメラは、人間への臓器提供者として生み出 されると言われている。つまり人間に移植するための腎臓や肺などの臓器を“栽培”するための「一部が人間である生き物」として、豚と人間の交配種が用いら れる可能性があるという。
この先半世紀の間で、私たちは生命科学を飛躍的に進歩させるだろう。上記のような出来事が今はまだ絵空事のように思えるが、現実味を帯びていくのにはそれほど時間はかからないだろう。
そして生命科学の進歩は、常に生命倫理とのイタチごっこと共にある。

五十嵐大介は、作中で生み出されたHAの内面に深く踏み込んでゆく。たとえば、両生類の皮膚を持つ少女のHAが登場する。作中では「両生類の皮膚を持つということは、全身を鼓膜で覆われているようなもの」だとされている。
この少女がシャワーを浴びるシーンが描かれるのだが、シャワーの水の向こうの生活音(おそらくは水道管すべてから聞こえる音)、さらにその先にある海の音すらもが彼女の中へと流れ込んでゆく。そして彼女はそれを「うた」として聴く。
このうたは、地球そのものが奏でているのだろうか。殺戮兵器として生み出された彼女らは、動物であった頃の本能で、このうたを聴いているのかもしれない。 すると彼女らは、動物でもなく、人間でもない存在にあらず、動物であり、人間である存在として、描かれるのかもしれない。
あるいは彼女らの振る舞いから、私たちが生命倫理について考えるような側面も、このマンガにはあるのかもしれない。

1巻を読んで、ここは物語の海の波打ち際にすぎないという感覚がある。彼女らはどんな海を見つめているだろう?
下のカットを見て、『海獣の子供』を思い出す人は多いだろう。本当にこれからが楽しみになる新作だった。

 ( 五十嵐大介 『ディザインズ』 )

ディザインズ(1) (アフタヌーンKC)
作者:五十嵐 大介
出版社:講談社
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