女教師と男子生徒。禁じられた恋に翻弄され、救済される者たち『色は匂へど』

マンガサロン『トリガー』2016年04月02日 印刷向け表示
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色は匂へど 上 (KCx)
作者:よしだ もろへ
出版社:講談社
発売日:2015-11-06
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色は匂へど(下) (KCx)
作者:よしだ もろへ
出版社:講談社
発売日:2016-02-05
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限りなく灰色に近い水色の上巻と、艶やかに赤い下巻。色違いの上下巻が妙なるコントラストとなっている、美しくもどこか背徳的な装丁の『色は匂へど』。人間関係において「透明になろう」とした経験のある人には、強く共感できる主人公だろう。

高校生である主人公・清澄純は、中学時代にいじめに遭っていた。その経験から、なるべくクラスで目立たないように振る舞い、いじめられているクラスメイトを見ても見て見ぬふりをして過ごしていた。人とは、そんな自分の弱さにも傷付く生き物だ。自分もかつて受けた傷の痛みを解りながらも、その痛みを負う者を目の当たりにして傍観者でいることしか選べない。そんな弱さに、無限に後悔を重ね更に傷付いていく。

本作は、純を中心に心に傷を負った者たちによって織り成される群像劇だ。主要人物たちは皆一様に穏やかでない過去を持っている。それによって捻じ曲げられてしまった心がどのように行動として発露するかもまた人それぞれで、読んでいると過去に出逢って来た人々の顔を想起して何とも言えない気分になる。それ程に、ある種のリアルさが宿っている。

そして、この物語は高校生男子と女教師の淡い恋愛を描いた物語でもある。世界の澱の中で独りではどうしようもなかった純を、新任教師の天ヶ瀬いろはが優しく救って行く。男教師と女生徒モノというのは多く世に溢れているものの、その逆はあまり多くはない。しかし、一定数のファンはいるはずだ。そんな人には本書を強くお薦めしたいし、万雷の拍手を送りながら読むべきだ。

『いなり、こんこん、恋いろは。』の時からよしだもろへ先生の絵の可愛さは確かなものがあったが、こんな表情を描かれてしまってはまともな男子高校生の理性など一瞬にして吹き飛ぶのは必定である。ズルい。ズルすぎる。天ヶ瀬先生可愛すぎる。

又、同時に黒髪ロングストレートの美人クラス委員長・佐藤香桜里も、純に密かに想いを寄せている(何だ、ハーレムものか? と思われる方もいるかもしれないが、そういう訳でもない)。

普段であれば、私は外見的な好みから香桜里の主人公に対する恋を応援したと思う。しかし、本作に限ってはそうはならなかった。それでも、私は香桜里のキャラクターも愛して止まない。その迸る強烈な個性は特筆すべきものがあるので、是非読んで確かめてみて欲しい。一部の人にとっては、香桜里のために読む価値すらあるだろう。

美しい絵でありながらも、人間の暗部も多く描かれて行く物語だ。人間誰しもが持つ、表と裏。それを生み出すに至った過去の体験。それらとどう向き合って生きて行くのか。そんなあなたでも良いんだよ、そのままでも良いんだよ、と言ってくれる人がいることは大いなる幸いだ。人は一人では弱き者だが、弱き者同士が力を合わせて過酷な世界と対峙して強く生きて行く姿は普遍的に美しい。ラストシーンには、そんな人の世の美しさが詰まっている。世界の彩りを取り戻してくれる人に出逢えているのなら、その光を信じて勇気を振り絞り、前に進んで大切にして行くべきだ。

上巻に収録された特別読み切りBLの「穢れ一つ無き」も、少ないページ数の中に優しさと切なさと業が込められた秀作だ。よしだもろへ先生の作品は今後も追い続けて行きたい、と強く思わされた。

 

(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

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