アイシールド21に学ぶ、弱者の戦略論。またはいかにして我々は気持ち良くハイタッチするか。

MIUMIU2016年04月05日 印刷向け表示
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2016年、今の会社に就職してからちょうど10年目を迎える。

10年前、就職活動をしていたときに、面接でよく聞かれた質問がある。
「我が社では、どんな風に働きたいですか?」 
ぼくの大好きな先輩の阿部さんはいつだってこんな風に答えていた。 
「幕末の志士のように、働きたいです」
当然困惑した面接官は、好奇心ではなく、おそらくは親切心で次の質問を振り絞る。  「えっと・・・具体的には?」
先輩は用意していたとおりにドヤ顔で即答する。 
「坂本龍馬のように、です」
多分、面接官の聞きたい“具体的”はそういうことじゃないのだろうけど、そういうことじゃないからこそ、面接はそこで唐突に終わる。
阿部さんはそんな男気あふれる就職活動を3年続けて、外資系のIT企業に就職した。
どこが幕末の志士なんだよ!?ってずっと思っていたけど、8年間の勤務を経て、いまは日本のためになる経営者や政治家を育成する塾に転職された。
こういう初志貫徹の仕方もあるよな。阿部さん元気ですか?今年度もよろしくお願いいたします。

ぼくはといえば、就活時いつだって「泥門高校アメフト部みたいに働きたい」と思っていた。漫画アイシールド21の主人公のチームだ。もちろんそうは言わなかったけど。就職活動をしていた10年前も、広告会社に就職して毎日打ち合わせして企画してプレゼンしている今も変わらない思いだ。2016年現在、みなさまに支えていただきながらそれなりに実践できている気がする。勝負の前には円陣を組みたい。プロジェクトの終わりにはハイタッチしたい。みんなで闘って、みんなで勝ちたい。そんな気持ちの根底にこの漫画がある。

「アイシールド21」

高校アメフトを描いた漫画だ。いじめられっことして周囲から軽んじられてきた少年が、ひょんなことから伝説の覆面アメフト選手「アイシールド21」を名乗ることになり、パシリを通じて鍛えられた健脚で活躍し、チームを全国大会へと導いていく。ジャンプ的な友情・努力・勝利を描いたスポーツ漫画の傑作。
※ちなみにぼくは当時も今もアメフトのルールは全くわからない。それでも全く問題なく楽しめる作品です。

この作品を単なるスポ根漫画で終わらない名作にしているのが本作の裏主人公である「蛭魔妖一」の存在だ。主人公より一年先輩の高校二年生の彼はぼくにとって理想のビジネスマンだ。それは、ぼくが32歳の会社員になった今でも変わらない。蛭魔は悪魔的な頭脳から導かれる試合中の戦略と試合外の謀略で、弱小チームだった自らの「泥門デビルバッツ」を勝利に導いていく。チームを構成するのは元パシリで俊足の主人公をはじめ、挫折した野球少年や、心やさしき巨漢、元ヤン三人組、スポーツ経験はないが偏差値が高いガリ勉といった個性的なメンツたち。キャプテンである蛭魔は彼らの人格・適性を活かした奇抜な戦略で奇跡的な勝利をあげていく。彼の繰り出す魅力的な戦略と大胆な試合展開、そして示唆に富むセリフにぼくは魅了された。そして彼の戦い方を思い出しながらも、今もずっと仕事し続けている。そんなぼくのロールモデルである蛭魔の考え方を表現する端的なセリフがある。

『アイシールド21』 第37巻
 
「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねぇ。あるもんで最強の戦い方探ってくんだよ 一生な」

これは蛭魔が作中屈指の才能をもつライバル選手にボソっとつぶやいた一言。蛭魔自身も優れた知性こそあれ、スポーツ選手としての身体的な才能はほとんどない。チームメイトも決して恵まれた選手ばかりではない。そんななかで彼はいつだって、仲間たちの個性を活かして、そこにすべてを賭ける戦略で不利な状況をひっくりかえしてきた。時にはブラフを駆使し、時には力押しの一点勝負に賭け、時には試合時間のほとんどをフェイントに費やして、時には相手チームのエースを完全に無視して、時にはあえて相手チームに折れた腕を見せつけて・・・。
戦略の大胆さと、それを支えるチームワークの熱さこそが、この漫画の醍醐味だ。蛭魔の繰り出す大逆転の戦略はチームの人間ひとりひとりの個性をよく把握し、彼らのできる最大限のパフォーマンスを引き出すことで成立する。相手チームがまさかそこまではできない、やらないと思うことを実現させていく。つまり優れた戦略は仲間を信頼しているからこそ成立するという、組織論がこの漫画には描かれている。(これがもうめちゃくちゃ感動するんだよ!!エンタメとしても!!)

もちろん蛭魔は徹底的に勝利にこだわる。勝利の追求と仲間への信頼は裏表一体なのだ。一生懸命やればいい、結果よりも過程にこそ意味がある・・・そんな青臭いセンチメンタリズムは彼には存在しない。

『アイシールド21』第3巻

「最後までよく頑張ったって褒められてえのか 負けたけど、俺たちがんばったよなって慰めあうのか 勝つ為にやってんだ 勝つ気ねぇがんばりなんざ、何の意味もねぇ」

一生懸命がんばるというのはすなわち、勝ちにこだわるということだ。勝ちにこだわるとは、戦略的であるということだ。そして戦略的であるということは、仲間を理解し、仲間を信じるということなのだ。試合中、蛭魔は常に仲間を鼓舞し続ける。

 

『アイシールド21』第21巻

「教えてやるよ、カスが天才様をひっくり返すことはよくあることだってなぁ!!」

『アイシールド21』第2巻


  「アメフトに偶然はねぇ!!ラッキーパンチってのは狙ってだすもんだ」

極め付けは主人公が、優勝候補チームの最強のエリート選手に圧倒されて自信を失いかけているときのこのセリフ

 

『アイシールド21』第34巻
 

「…テメーの勝てる可能性なんざ0%だ つったら諦めんのかよテメーはよ 俺はテメーが大和に勝つって決めつけて作戦立てる そんだけだ」

チームメイトへの信頼こそが大胆な戦略をうみだし、大胆な戦略がチームメイトのパフォーマンスを引き出すことを象徴する一言だ。こういうことばをかけられるリーダーの元で働きたいし、あわよくばそんなリーダーになりたい。
現実世界でぼくたちは、だいたい蛭魔と同じ、いやどちらかというともう少しきつい状況に置かれている。ぼくたちが何の仕事をしていたってチームが完璧なことなんてない。おそらく、ぼくもあなたも天才ではない。それでも結果を出すためには徹底的に戦略的であるしかない。つまり徹底的にチームを信じるしかないのだ。

もちろん蛭魔も言っているとおり、

『アイシールド21』第23巻


「いくら奇策珍策練ろうがな結局最後にモノ言うのは基礎トレだ」

そうなんだよ。基礎的な努力は最低限の前提なんだけどさ。(ちなみにこのセリフのシーンは作中屈指の名場面)

日本を代表するヒップホップグループライムスターの名曲「KUFU」に「持ってるやつに持ってないやつが勝つ唯一の秘訣、それがKUFU(工夫)」というしびれるパンチラインがある。ここまで紹介してきたとおりアイシールド21は、単なるスポ根マンガではない。持たざる者がいかにして勝利するかという弱者の戦略について書かれたマンガであり、マネジメントの教科書だ。そう、つまり、ぼくやあなたがいかにして勝つかという物語なのだ。

そういえば、10年前のあの日面接してくれた先輩と今では同じチームで仕事している。人生はアメフト以上にどうなるかわからないもんだ。(アメフトのルールは知らないけれど)春、新しい一年が始まる。これからのあなたが少しでも多く、仲間たちとハイタッチできることを願う。

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