これを読めば、創作が上手くなる! すべてのクリエイター志望者に告ぐ、オススメコミック。

三木 一馬2016年04月12日 印刷向け表示
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僕は小説の編集者ですが、作品の編集するとき(原稿を読んで内容を如何に面白くするかの指摘を考えるとき)、「文章が自分の脳裏に映像で浮かんでくるかどうか」にもっともこだわっています。一つの物語があって、その作裏に浮かんでくるかどうか。読者がその作品の「勝負のとき」――つまりクライマックスシーンで表現されている文章が、バッと脳に入り込めて『面白い』と感じてくれるかどうか。そして「夢中になれる」かどうか、で僕は判断しています。

と、言葉で言うのは簡単ですが、ではそんな文章スキルはどのように培えば良いのでしょうか。マンガ家でいうなら、ネームのコマ割りに相当する『ドラマの運び方』について、自身のマイベストマンガになぞらえて、語っていきたいと思います。

僕の人生史上もっとも面白いと感じたマンガは、『ノーマーク爆牌党』です。著者は片山まさゆき先生の麻雀漫画で、『近代麻雀オリジナル』にて1989年2月号から1997年4月号まで連載されました。単行本は全9巻ですが、残念ながら現在は絶版状態にあり、電子書籍なら購入出来るという状態です。

ノーマーク爆牌党 (1) (近代麻雀コミックス)
作者:片山まさゆき
出版社:竹書房
発売日:1991-02-01
  • Amazon Kindle

 今、麻雀漫画と聞いて二の足を踏んでしまった皆様。ちょっと待っていただきたい。この作品は、麻雀漫画ではあれども、万人が楽しめるスポ根系名作『競技漫画なのです。

僕が考える名作『競技漫画』に共通するポイントは、『競技ルールが分からなくても、ドラマに興奮できる/主人公に感情移入ができる/敵役を憎く感じられる/それらを登場人物と一緒になって体感できるところにあると考えています。

一方、ご存じのように麻雀はギャンブルです。そしてお金をかけると日本の法律では違法です。しかしながら、そういったアングラな雰囲気をこの作品は払拭するかのように、徹底した『競技麻雀』にこだわっています。将棋や囲碁の世界と同じように、『頭脳戦を得意とする麻雀プロたちによる知的な争いを描いています。ですから、こういったギャンブルマンガ定番の演出装置「イカサマ」も存在しません。徹底したルール上の競技……卓上のスポーツとして表現しています。麻雀のプロリーグ戦を勝ち抜きたいという野心を持つ主人公、そしてその頂点に立つ最強のライバル。彼らの幾度にもわたる熱戦を、非常にクリーンに表現しているのです。

本来なら、ここで主人公の一人である「爆岡弾十郎」の得意技『爆牌』……その悪魔的技法の緻密さと斬新さを解説したいところなのですが、あえて割愛します(ただ、この『爆牌』を看破して打倒するストーリーこそがこのマンガの真骨頂なので、興味を持ったなら本編を読んでみてください)。

お世辞にも、このマンガの絵は上手いとは言えません(片山先生、大変申し訳ございません)。
にもかかわらず、このマンガは、誰が読んでも』、『スッと自然に』、『自分の感情を移入させて』ストーリーを明確に理解出来るのです。生き生きとしたキャラが物語の中を動き回り、気づけば彼らをずっと追いかけて、ハラハラドキドキしてページをめくっています。

それはなぜか。
一見、下手な絵でもそれを可能としているのは、片山先生が描くキャラが、線が少ない簡素なものであるにもかかわらず、シルエット」をきっちり表現しているためです。
加え、もっとも重要なポイントとして、このマンガはネームがとても優れているからなのです。

たとえばキャラの特徴で言うなら、主人公の「爆岡弾十郎」はスマートなツンツンヘア、鉄壁保はチビのパーマヘア、茶柱立樹はワンレングス……といったように、主要キャラは全員「シルエット」にしても誰が分かる描き分けで表現されています。記号化というのはとても大事で、○を三つ描いて三角形のかたちに配置すればミッキーマウス、○二つと△一つでダンボー、というように、みんなの記憶に残すための必須な要素です。それを、昨今のマンガトレンドからは真逆の「絵は下手で線は少ない」状態で表現できているのは、とても高度な技術なのです(重ねていいますが、片山先生、本当にすみません)。

この記号化された絵で、恋愛シーンですらきっちり描いており、一人の女性を巡ってラスボスと主人公が対決する展開まで存在するのです。それを「競技麻雀」=スポ根系競技漫画で描いているのですが、ルールを知らない読者にもドラマさえしっかりしていれば、感動は届けることができることがわかります。僕はこの事実に、ジャンルに縛られないマンガという創造物の可能性を感じました。

そして、記号化された絵で感動させるドラマを描くことができるのは、ネームがとても優れているからなのです。
ストーリーベースのクリエイターさん……とくにマンガ家志望者の方は、是非この作品を手にとって、ネームとコマ割りを意識して読んでみてください。如何にマンガという媒体で、「奇麗な絵」というものが不必要なものかが分かります。それくらい、ストーリーで勝負しているのがこの『ノーマーク爆牌党』という麻雀マンガなのです。
この作品からなにかヒントを得ることができたクリエイターさんは、きっと、今までとこれからで、自分が創る作品の質が変わっているはずです。

ノーマーク爆牌党 1 (1)
作者:片山 まさゆき
出版社:竹書房
発売日:1991-02
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  • 丸善&ジュンク堂
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出版社:中央公論新社
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