全力を尽くしてダメだった人にあなたはどんな言葉をかけますか?偏差値37の工業高校から六大学に入った私が『ドラゴン桜』から感じたこと

高橋 岳洋2016年04月28日 印刷向け表示
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「あの高校の子だから、間違えても仕方ないね」。アルバイト先のコンビニ、レジの奥側から店員の笑い声が聞こえてきた。当時17歳の私にとって、小さなミスを指摘するだけで、言葉とともに母校の名前が出てくるのは苦痛で仕方なかった。

「○○大学の子だと就職先もいいところないでしょ」、「まあもともと期待してなかったけど」。人は誰しも陰口をたたかれた経験はあるはずだ。期待に応えることができなかった人はギャップに苦しむことになる。それは私にとって、思い描いていた理想の自分と今の自分自身との落差であった。

私はずっとそのギャップに苦しめられていた。高校受験に失敗し、偏差値37の工業高校の制服へ袖を通した。アルファベットのわからない同級生、古文がわからない古文教師、自分がその学校に通っていることが恥ずかしくてたまらなかった。中学の同級生にはさんざん陰口をたたかれた。「あいつバカだから、あの学校行ったんだよ」「将来は段ボール工場で働くんじゃない?」ただその学校の生徒というだけで後ろ指をさされた。人の表面的な価値を決めるのは、その人のひととなりでも、行いでもない。学校名や役職、その人自身にシールのように張りつけられてしまった肩書きだ。

そんな時、このマンガと出会った。『ドラゴン桜』だ。主人公の矢島と水野も自分の肩書きに苦しめられていた。水野は母親に「私の子供なんだから」とレッテルを貼り付けられ、矢島は優秀な兄たちと比べられてしまい、次第に自分の可能性を否定するようになっていく。

(※母に可能性を否定される水野。今でも目頭を熱くさせられる)

 

肩書きに苦しめられている時、やってはいけないことがある。それは周りに言われるばっかりに、努力してもいないのに自分の可能性をすべて否定してしまうことだ。「私バカだから、勉強できないんだ」。勉強をしたこともないにもかかわらず、ただ言われるがまま自分はできないと思い込んでしまう。「成功している人間は、それはもともと才能があったからで・・・自分はもともと平凡な人間だから努力したって無理だ。そういう思い込みが、人の人生をどれだけ窮屈に縛りつけていることか」。ドラマ版『ドラゴン桜』の中にこんな台詞がある。思い込みこそが全ての自分の可能性を否定してしまうのだ。だが、水野と矢島は自分の可能性をどこまでも信じようとしていた。それは自分の歩む人生を、一人で強く生きたい思いがあったからだ。

(※矢島が教室を出ていったあと、決意を新たにする水野)

この二人の姿を見たとき、「なぜ同じ状況の自分は、彼らのようになれないのだろう」と強い劣等感におそわれた。「自分も勉強すれば変われるかもしれない」、「違う未来が見えてくるかもしれない」。彼らのように誇りを持ちたいと思い、全校生徒ただ一人の受験生となった。

(※当時、暗記に使用していたノート。勉強法“メモリーツリー”を自分用にアレンジし、ノートの端へと言葉を伸ばしていた)

 

「高橋君は私の授業が分かるからそういったことをするのね」と、教師には授業中、嫌味を言われた。周りの目線は徐々に変わっていき、友人は私を自然と避けるようになった。
周りの反響は私の生活を一変させた。「勉強ばっかして幸せになれると思うなよ」。そう言い私の机を蹴る教師、カバンの中にはゴミを入れられたこともある。参考書代を稼ぐために始めたアルバイト先では陰口を叩かれ、むせび泣きそうになった。しかしそれでも耐えることができたのは、少しずつ自分が思い描いていた未来が“夢”から“目標”へ近づいていく実感があったからだ。『ドラゴン桜』はちっぽけな私に、できなかったことができるようになっていくことの喜びを教えてくれた。

 「努力した者が成功するとは限らない、しかし成功した者は皆努力している」あるマンガの有名なセリフだ。18歳の私は全力を尽くした、だが一年目は志望校に合格することは叶わなかった。それは矢島も一緒だった。

(※努力しても報われない現実を思い知った合格発表)

 

  今の私は矢島にどんな言葉をかけるだろうか。
「全力で努力しても夢を叶えられなかったら?」今でも、その答えを考える時がある。
夢破れた後も人生は続いていく。だが、今の私にとって「その時の努力が今の自分を支えてくれている」という実感は心の中にある。負けではない、勝ちの途中だ。

“地道な努力に勝る魔法の一手などどこにもない“と、このマンガは教えてくれる。ドラゴン桜は勉強も世の中のことも知らないままであった自分を、将来突き当たるであろう壁と闘うことのできる「人間」にしてくれたのだ。昔語り続けていた”目標“は今では”現実“となった。人生を変えるマンガがここにはある。「努力に価値はありますか?」と聞かれたら、私はこう返そう。

 

 

 

 

その答えは「YES」だ。

 

 

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