マンガ大賞受賞&最新刊発売記念『ゴールデンカムイ』ロングインタビュー~編集の大熊さんに聞いた面白さの秘密、野田先生のすごさ、ここだけのお話~VOL.1

マンガHONZ編集部2016年05月02日 印刷向け表示
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 書店で平積みになる本、というのは、人気作を見るための1つの指標である。
では、今、もっとも書店で平積みされている作品といえばなんだろう。もちろん客層ごとに異なるだろうが、それを踏まえても間違いなくトップグループに入るのが、北海道を舞台にした一大スペクタクルマンガ『ゴールデンカムイ』だ。

『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2014年38号より連載を開始し、2015年度コミックナタリー大賞・第2位、「このマンガがすごい! 2016」(宝島社)オトコ編・第2位。そして、「マンガ大賞2016」では大賞に輝いた注目の話題作である。

今回は、「マンガ大賞2016」の大賞授賞と、4月19日に発売したばかりの最新刊7巻を記念して、『ゴールデンカムイ』担当編集の大熊八甲(おおくま・はっこう)氏に、その面白さの秘密と舞台裏を伺った。

インタビュアーは、マンガ新聞の岡田篤宜。
(構成/佐藤茜)
ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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 ゴールデンカムイの面白さの秘密は・・・「全部のせ」

――― このたびは「マンガ大賞2016」大賞授賞おめでとうございます。「マンガ大賞」で男性作家が大賞を受賞するのは、第一回の2008年、『岳』の石塚真一さん以来8年ぶりです。抜群の面白さで、マンガHONZ内でも早くから話題に上がっていました。

苅田のレビュー:
「埋蔵金争奪+ジビエ! 『ゴールデンカムイ』の主人公には知られざる秘密が・・・。」

味博士のレビュー:
「アイヌ美少女「私にう○こ食わせる気か!」→「う○こおいしい…」『ゴールデンカムイ』」

マンガHONZメンバーは、女子大生から40代後半の男性までと幅広いので、好みが別れることも多いのですが、『ゴールデンカムイ』は全層から支持されています。老若男女を捉えて離さない面白さの秘密を教えていただけないでしょうか。

ありがとうございます。面白さの秘訣は、そうですね・・・僕が敬愛する作家の一人である藤子・F・不二雄先生がこんなことを言っています。

「人気まんが」というのは、読者の求めるものと、まんが家が表そうとしているものとが、幸運にも一致したものなのです
(『藤子・F・不二雄のまんが技法』(著:藤子不二夫 出版社:小学館文庫))」

『ゴールデンカムイ』担当編集の
大熊八甲(おおくま・はっこう)氏

上の言葉のとおり、「野田先生の引き出しの中にある素材で、より多くの人に受けるものは何か」っていうのを模索したんですね。それが、「狩猟」、「ミリタリー」、そして、野田先生の出身である「北海道」。それが読者の読みたいものと合致した結果だと思っています。なので「和風寄せ鍋ウエスタン」というか、「全部のせ」の面白さになっている。要素ごとに色々な楽しみ方ができるため、多くの方に受け入れられているのかな、と。

――― なるほど。その面白さは狙ったものなのでしょうか。それとも偶然そうなったのでしょうか。

狙っていきました。編集は、いわば、マンガ家という料理人の最初の味見人です。万人受けする味かどうか、というのは作者と一緒に狙っていけると思っています。僕は野田先生とはデビュー作『スピナマラダ!』立ち上げからのお付き合いで、連載終了後、様々なテーマでネーム(マンガの下書きの下書きのようなもの)を出していただきましたが、『ゴールデンカムイ』を読んだ瞬間にもう、「これだ!」と。野田先生と僕の間に核心が生まれました。

――― それでは、連載開始して、すぐに人気になったのでしょうか?

初回の反応がすごくよかったですね。そのあと、7話で杉元と白石が雪庇(せっぴ)から落ちたんですが、ここからアンケート結果も安定していきました。

(7話冒頭。杉元と白石が落ちていくシーン。凍えながらの二人の掛け合いには腹が震える)

――― なるほど。

地味なおっさんが二人、暖めあっているんですけど(笑)あと、ちょっと戦略的に話を組み立てているというのもあります。実はアンケート結果は気にせず、1巻に収録される7話分(180ページ)は連載開始前から作っていました。で、コミックスの切れ目7話目に土方歳三を登場するようにして・・・

(ご存知、新撰組副長・土方歳三。刀を振るうアクションシーンがとにかく格好いい。)

目玉だったんです。そこが上手くはまって、アンケート結果がすごく良くて。

――― 素晴らしいですね。

で、さらにグルメ描写を入れたらまた良くて・・・。

(カワウソの料理シーン。おいしそうなのはもちろん、
調理法なども細かく描かれており、料理番組を見ているようだ)

実感しているのは、やはり緩急の大事さですね。アクションは“緊張”なので、それ一本だと読者は読み進めるうちに、「もっともっと!」と更なる緊張を求めてしまう。そこにグルメみたいな、日常系の要素を挟むことでインフレ防止になりますし、スイカに塩かけたら甘みが引き立つ、みたいな相乗効果も生まれます。ただ、「全部のせ」もそうなのですが、毛色の違うものを入れ込むことになるので、かなり技術がいります。下手をすると要素が互いに打ち消しあって味がなくなってしまうことも多いのですが、野田先生の力ですごくいい形になりました。

 

真摯だから、獲物を捌くシーンも省かない


――― 『ゴールデンカムイ』のグルメは、かなり狩猟の要素もあるグルメですよね。料理の手順が、材料になる獲物を捕らえるために罠を作るところから始まり、捌くシーンもしっかりある。

(罠にかけるところと、皮をはぐところまで。読めば実践できてしまいそうな細かい描写が続く)

それは、野田先生の「真摯さ」によるところだと思います。例えば、アイヌの方々って、捌くときに毛皮を畳むんですよ。雪原の上とかに。日常的な作業であっても、なんとなく、ではなく、一つ一つの挙動にメッセージが込められている。グルメシーンに限らずですが、『ゴールデンカムイ』は、アイヌの方々の生活も重要なテーマなので、妥協せず全部伝えたい、という思いが込められていると思います。現実を下地にエンタテイメントにするというのが、野田先生のやり方なので。

(捌いた獲物の毛皮をたたむシーン。(単行本未収録のものを特別にご提供いただきました))

――― なるほど。ちなみに、「目的のために戦う」といった少年誌的な要素に加えて、青年誌的な、ちょっとグロい描写もありますよね。

(臓物が出ながらも戦う鬼気迫る場面。これ以外にも腕や足が飛ぶシーンもある)

それも狙っています。ただあの、グロ描写とかは・・・野田先生、猟奇的なものは苦手とおっしゃてるんですけど、たぶん嘘なんじゃないかと・・・ちょっと好きだと思います(笑)。

 

新連載はクラスの転校生

――― グロ描写が過激すぎて変更の依頼をしたりとかも?

ありますね。実は『ゴールデンカムイ』の原始の3話のネームは延々ヒグマが村を襲っている食害を描いてましたし。

――― (笑)それはそれで読んでみたい気もします。

僕が思うに、マンガの新連載って、クラスの転校生だと思うんです。
つまり、転校してきて、最初に挨拶して顔を見せて、が、第一印象。それが、読者にとっての情報 ―― 読者はクラスメイトなんですよ。情報はそれくらい。でも、ページ数、つまり日数を重ねていくにつれ、コイツが何に泣くのか、何に喜ぶのか、何に怒るのか、何を食べて生きるのか、どんな女の子が好みなのか分かってくと、「コイツ俺自身だ」ってなるのか「親友だ」ってなるのか、「かっこいいコイツの背中を見ていたい」っていうヒーロータイプの、要は、『宇宙兄弟』の日々人や『トリコ』のトリコみたいになるのか。もしくは、小松(『トリコ』の準主役)見たいな、共感タイプの主人公なのかがわかる。

――― なるほど。

そうやって読者との距離感をいかに縮めていけるかが、ものすごく大事。で、ファーストインパクトにグロを押し出すと、すごく大きな刺激なので注目は集まります。すげーの始まったと。

――― そうですね。

でも、その注目ばかりに目が行って、その後、変わり者ではあるけど、人気者にはなれないと思うんですよ。

――― 確かに。

だから最初に注目を引きつけるのならば、その注目を維持し続ける魅力を、ちゃんと計算して作っとかないと、あまりやるべきじゃないな、と。だから、「3話連続グロだと、その注目のされ方は変わり者の注目のされ方で、人気者のされ方じゃないって思うので、もうちょっとバランスよく、色んな魅力的な要素を入れませんか?」っていうお話をしました。

――― そういった試行錯誤で、あの素晴らしい第1話になったんですね。

NEXT:リアリティとエンタテイメントの両立が成功のカギ!?マンガ大賞受賞&最新刊発売記念『ゴールデンカムイ』ロングインタビューVOL.2を読む

(インタビュー:岡田 篤宜 構成:佐藤 茜)

ゴールデンカムイ 7 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2016-04-19
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