シュレーディンガーの美少女『能面女子の花子さん』は元気を貰えるシュールコメディ iPhoneカメラは能面を顔認識するか

マンガサロン『トリガー』2016年05月09日 印刷向け表示
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能面女子の花子さん (KCx)
作者:織田 涼
出版社:講談社
発売日:2016-04-07
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「大切なのは、内面だ」

巷ではしばしばそんな言説を見かけます。
それが正しいのか、あるいは外見も一定以上に重要なのか……その議論はひとまずここでは置いておきましょう。

今回紹介する作品においてはこうです。

「大切なのは、能面だ」

内面(NAI-MEN)と能面(NO-MEN)。ほんの些細な違いで大惨事ですね。

あ、ハイ。

そう、本作のヒロインは能面と共に生きる宿命の下に生まれた少女。これは、常に能面を着用して生活する花子さんの日常を描いた、史上初の「能面女子学園コメディ」なのです!

本作で描かれる、能面女子のライフスタイルをご紹介していきましょう。

 


知られざる能面女子の生態と謎

1. そもそも、なぜ能面を常に被っているの?

一言で言えば「家庭の事情」。元々、家系が能面を作る一族であり、女は常に能面を装着して商売をしていた名残が、女聖闘士の掟の如く人前で面を外すことを禁じていたのでした。流石に学校では没収されてしまいそうなものですが、品行方正で新入生代表挨拶を務めるほど成績優秀な花子さんは、先生からも能面を許容されています。


2. ずっと能面を外さないなら、食事はどう摂るの?

意外にも、食べることが大好きであるという大食漢の花子さん。しかし、常に昼休みは人知れず昼食を済ましており、どこで何を食べているのかクラスメートも読者も興味津々です。一体どうやって、能面を外さずに無事食事を完遂できるのか……? 答はぜひ読んで確かめてみて下さい。


3. 能面を活かした日常的な遊びとは?

花子さんには、イケメンのけんちゃんという良き理解者である幼馴染がいます。そんなけんちゃんと花子さんが昔からよく行っていた遊びの一つが「能面鬼ごっこ」。鬼に見つかった人は能面を被り、鬼以外は能面の紐を解くことで助けることもできる。ある意味、鬼よりも怖くトラウマになりそうな遊びの顛末も必見です。

(余談ですが、この画像を撮る時に能面に対して顔認識機能がバッチリ働きました)


4. 能面はハンドメイド?

何と、花子さんの能面は自分で彫っているものも多数! 料理もできて器用な花子さんは、常に愛用の刀を携帯しています。その様子は、講談社作品の伝統を髣髴とさせるものがあります。つい、フルーツカービングでメロンに能面をあしらってしまうのもチャームポイント。


5. 能面女子も恋をする?

高校は別になってしまったものの、毎日花子さんに弁当を作るけんちゃんが抱く密かな恋心も見所の一つ。そんなけんちゃんに、ある日ライバルが登場します。能面をこよなく愛する一流能楽師のさぶちゃんこと松田三郎。身の周りの人以外で初めての能面に強い執着を持つ人物からのアプローチに花子さんは……。けんちゃんとの三角関係も見逃せません。

面の下は美少女なのか。それとも……。波動関数が収束する時は来るのか。


唯一無二の能面女子マンガのトピックを幾つか取り上げましたが、この漫画の何より素晴らしい所は作者がとても楽しんで描いているだろうなと伝わってくる所です。凄まじく美麗な絵で丁寧に描写される、数多の能面の表情。その一コマ一コマを切り取っても笑える表情や陰影を描くのは心底楽しかっただろうなぁ、と。

笑顔にも怒った顔にも見える能面を、美しく、迫力を持たせて描いていく。

プロである以上、望むと望まざるとに関わらず指示された物を描かねばならない時というのもあるでしょう。しかし、作家が本当に描きたいものに芯から取り組んだ時には、この作品のようなオーラが宿るものです。全力で楽しんで描いている姿勢・その歓びが伝わって来るので、単なるシュールギャグ漫画ではなく、とても元気を貰えるシュールギャグ漫画となっており、絵柄的にも読み手を選ばずお薦めできる作品です。

 


仮面、能面、能の歴史

仮面女子といったアイドルも人気を博している昨今ですが、仮面という文化の歴史は古く、紀元前40世紀頃には既に発祥していたと言われています。仮面は素顔を覆い隠すことのみならず、神や霊的存在に変身したり憑依させたりして何らかを表象するための宗教的に重要なアイテムでもありました。人類文化と共に長い歴史を様々な形で歩んで来た存在といえるでしょう。その中で能面は最初に用いられた記録があるのが13世紀であり、14世紀に一般的に普及していったとされています。仮面全体の歴史から見れば能面は新しい物とも言えますが、一方で能は「千年先にも残るであろう仮面演劇」と世界的な評価を得る演目でもあり、2001年には初めての世界無形遺産にも指定されました。

本作ではほぼ全編がコメディではありますが、一瞬だけ三郎がその本音を吐露するシーンがあります。

「伝統を背負っている限り現代社会と距離ができて当然だ」

三郎が抱くのは、能面は被りながらも、現代人として自由に振舞い青春を謳歌する花子さんへの憧れ。こういった能面であったり、相撲であったり、あるいはなまはげといったような日本の伝統的な文化はある種ネタとして一笑に付されがちな部分もあります。『能面女子の花子さん』も一見そういった形に見えてしまうかもしれません。が、読めば真面目に下調べや取材を行った上で愛を持って描かれているのが解ります。この漫画は、古き良き日本の伝統文化と、最新の流行を取り入れた漫画制作技術の粋との時代を越えたフュージョンなんです。2006年には『ガラスの仮面』の紅天女の新作能が公開され、昨年には待望の再演も行われるということもありました。切っ掛けはどうであれ、そういった所から能面や能への興味を持つ人が出て来れば、それは素晴らしいことであると思います。
 

(文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

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