草食、サードウェーブ……日本人を翻弄する◯◯系男子というレッテル貼りにイラつかないたった1つの方法『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』

小禄 卓也2016年07月02日 印刷向け表示
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先日、ビッグニュースが飛び込んできた。あの渋谷直角先生の名作『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべてを狂わせるガール』が『モテキ』や『恋の渦』などでお馴染み大根仁氏によって映画化されるそうだ。

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール
作者:渋谷 直角
出版社:扶桑社
発売日:2015-07-23
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こんにちは。マンガHONZのサードウェーブ系男子、ころくです。サードウェーブと呼ばれることに対して喜びや悲しみ、怒りといった一切の感情を持ちません。今回は、映画化を祝して『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべてを狂わせるガール』(以下、『民生ボーイ』)のレビューを書きたいと思う。

家電雑誌からライフスタイル誌『マレ』に異動した、奥田民生を人生の指針に持つ編集者・コーロキ。そこで出会ったレディースアパレルのプレス・天海あかりに恋をし、泥沼の愛憎劇に巻き込まれ、いつになったら奥田民生みたいに「力まないカッコいい大人」になれるのか……。『民生ボーイ』は、恋に仕事に翻弄される35歳編集者の「最後の青春」に懸ける葛藤が描かれたマンガだ。

渋谷先生は、「あぁ、こういうめんどくさそうなヤツいるわぁ」というちょっと癇に障る人物の特徴を上手く捉え、皮肉交じりに(と、僕が受け取ってしまうだけかもしれないが)描く能力がえげつないほど高い。『民生ボーイ』でも、新人編集者の歓迎パーティをわざわざ自宅で開き、ワインや音楽のうんちくをあますところなくひけらかす編集長や、自宅で高級な食材ばかり使って料理してそう(きっと燻製とかするタイプ)なサードウェーブ系編集者など……。本当にいるかどうかは分からないが、某ブ◯ータスや某ポパ◯といったライフスタイルを提案しがちなファッション雑誌の編集部に本当にいそうな人が出てきている。

主人公のコーロキは、家電雑誌編集部からの異動ということもあり、そんな雰囲気になじめない。しかも、奥田民生を敬愛していると公言したことでファッション系編集部の人たちからは白い目で見られる始末。あぁ、かわいそうに。

「ラベリング」を効果的に使う渋谷先生のキャラデザイン

ところで、みなさんはラベリングという言葉をご存知だろうか。ラベリングは社会学用語で、特定の人の一部分を切り取って、それがその人のすべてであるかのようなレッテルを貼り決めつける行為のことである。ゆとり世代やさとり世代、草食系男子やサードウェーブ系男子なんかがそうだ。日本人の大好物と言ってもいいだろう。僕もサードウェーブ系男子と自認しているくらいだから、ラベリング自体は嫌いではない。

渋谷先生は、こうしたラベリングされたキャラクターの描き方が抜群に上手い。コーロキ自身も、ファッションセンスはもちろん、ワインや音楽の知識、そして美味しいご飯屋さんを知ってなきゃいけないというような「ファッション編集者」のラベルに終始翻弄され、不要なプレッシャーに追い込まれる。しかも、アパレル会社のプレスの可愛い女の子に恋しちゃったもんだから、その子に釣り合うために目一杯背伸びしなければいけない……。

そんな二重苦に悶えるコーロキに、多くの人が共感を覚えるのだろう。僕はそこが好きだ。

その人の99%を見えなくするラベリングを克服するためのたった1つの方法

このように、真に受けてしまうとムダに苦しんだりイライラしたりしてしまう「ラベリング」をコーロキは最終的に克服するのだが、窮地に立たされる彼を救ったのは、彼自身が取り組んでいた仕事だった。詳細はぜひ作品を読んでいただきたいのだが、ここにこそこのマンガで学ぶべきポイントが集約されているように感じる。

コーロキは悟る。ラベリングなんていうものは幻であると。ほとんどフィクションのようなものだ。どっかの誰かが勝手に決めた「◯◯系男子」という言葉が、そのカテゴリに当てはまる人たちの人格すべてを表すはずもないのに、そこにこだわってしまったがために苦しむのだと。要するに、ラベリングされていようが周りに合わせようが、自分がどう思うか、どうしたいか、という1点に考えを集約するだけでブレることがなくなるということに、コーロキは気付いたのだ。いや、気付かされたのだろう。

ラベリングに苦しんだりイラついたりしないためのたった1つの方法は、自分自身の判断基準を自分の中で持つ、それだけのことである。このマンガに登場するほとんどの人物は、それができずにいる。『マレ』編集長も他の編集者も、天海あかりも、みんな自分の中に判断基準がないために壊れていく。そこに同情してしまう渋谷先生のストーリーテリングがまたにくい。

「貧困女子」や「下流老人」などといったように、毎年のように新たにラベリングされた名称が生まれては消えていく。こうした言葉は、時として世の中の「今現在」を上手く捉えているようにも見えるが、未知なる事象を言葉でくくることによる安心感を得るためと、市場を生み出すためだけの単なる言葉でしかない。否定はしないが肯定もしなければよくて、言葉遊びのようなものとして楽しむだけだ。

このマンガは、エンディングに向かうにつれてジェットコースターのようなエクストリームな展開が待ち受けていて、ラスト数話は衝撃的に面白い。だから、ネタバレになるようなことは言わないできたつもりだ。ぜひ、仕事に恋に翻弄するコーロキにみなさん自身を重ねながら、諸行無常な世の中を生き抜く術を学んでもらいたい。

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール
作者:渋谷 直角
出版社:扶桑社
発売日:2015-07-23
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