『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』の作者・森田崇氏が、原作者モーリス・ルブランより有利なある理由

小沢 高広2016年05月22日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

去年亡くなったウチの祖母は1905年生まれだった。
日露戦争終戦の年に長野県で生まれ、パリ講和会議の年に上京。二・二六事件を間近で見て、関東大震災と東京大空襲を生き延びた。「あのときウチのばあちゃん何歳で、どこそこに住んでたころかー」なんて考えると、歴史上の出来事を教科書だけで学ぶよりは、いくぶん生々しく身近に感じることができた。

怪盗ルパン伝 アバンチュリエ(5) 奇巌城・下 (ヒーローズコミックス)
作者:森田 崇
出版社:小学館クリエイティブ
発売日:2016-05-02
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 今回、そんなことを思い出したのは、『怪盗ルパン伝アバンチュリエ(以下アバンチュリエ)』に登場するアルセーヌ・ルパンが、架空のヒーローでなく、歴史の荒波にもまれた生々しい一人の人間として描かれているからだろう。
『アバンチュリエ』は森田崇氏による『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』シリーズの漫画化である。小学校のとき、図書室で読んだルパンは、細身の中年男性で、パーフェクトな怪盗のイメージだったのだけれど、森田氏の描くルパンはこう。

 



…若い。
『奇巌城』の舞台は1908年。ルパンは30代前半。作中で、恋に悩み、生き方に悩むくらいに若い。
先日発売された5巻で『奇巌城』編が完結した。既刊の位置づけは、森田氏によると、こういう関係になっているという。

『奇巌城』編は、第一次世界大戦の数年前が舞台だ。作中でも、きな臭さがうっすら漂う。ルパンの人生もその影響を受ける。ルパンのエピソードと歴史を結びつけたことのない者にとっては、たいへん新鮮だ。
そして忘れちゃいけないのが、ハーロック・ショームズの存在。

いわずとしれたシャーロック・ホームズのルパン版の名前である。ルパンシリーズとホームズシリーズは、とうぜん別作者による作品ではあるが、出版時期が一部かぶっている。つまり同時代を生きたキャラクターである。互いの噂くらいは聞いていたかもしれない。いや、会ったこともあるかも。いやいや、対決したことだってあるかもしれない。妄想は膨らむ。ルパン原作者モーリス・ルブランはその欲望に忠実にしたがった。
「…出しちゃえ」
怪盗vs名探偵。
その後も多くの物語で描かれるこの対決構図の中でも、この2人は別格だ。
現代ほど権利関係の意識がしっかりしていなかった時代の産物とはいえ(モーリス・ルブランは、コナン・ドイルに連絡はしたとのこと)、このクロスオーバーはいまなお魅力的である。そして現在では権利的にクリアになっているこの関係を『アバンチュリエ』では、ルブランの欲望に忠実に、いや権利的にクリアゆえにそれ以上に、全力で描いている。

作者あとがきにこうある。
「(ルパン譚で最も有名である)『奇巌城』を単独の作品としてでなく、原作の発表順通りに、ルパンの登場から数々の活躍、ハーロック・ショームズとの数度の対決の『後に』どうしても描きたかった」
森田氏が漫画化する点で、原作のルブランより有利なのは、物語が完結していることだ。ルパンの人生を俯瞰し、歴史と照らし合わせることで、物語はより厚みを増す。

そして優れた妄想は、さらに多くの妄想を呼ぶ。
twitter上では、『アバンチュリエ』5巻の発売に端を発し、こんな会話も繰り広げられた。

『ルパンやホームズの活躍時代を軸に「同時代、接点があったかもしれない人物・キャラクター」を考察するまとめ』

リュミエール兄弟、エジソン、ポワロ、夏目漱石…。そして、ついにはルパンが見るアポロの月面着陸なんてものまで。ぜひ『アバンチュリエ』とあわせて、上記のまとめも読んでいただきたい。

 

怪盗ルパン伝 アバンチュリエ(5) 奇巌城・下 (ヒーローズコミックス)
作者:森田 崇
出版社:小学館クリエイティブ
発売日:2016-05-02
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事