空を超えて〜ラララ♪ 人工知能のヒーローはアトムの夢を見るか!? 彼の名は『鉄腕“アダム”』。 「シンギュラリティ」以降の“鉄腕”

森 旭彦2016年05月31日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

真夏にクーラーの効いた部屋でSFマンガを読んでいる時間は幸せだ。中二の頃から続く、カルピスを飲みながら地球の終わりの心配することができる時間は、終わらせてはならない。たとえそれが「シンギュラリティ(技術的特異点)」以降の世界であっても、だ。

 ( 吾嬬竜孝 『鉄腕アダム』より )
こういうのである。
この敵は「蝶」と呼ばれる人類の敵だ。「全長34メートル、質量4000トン、TNT換算で6000万メガトンのバケモノ」であり、宇宙の彼方から地球に襲来する。
本書に登場する国連航空宇宙軍のジェシー・マクスウェル博士の言葉を引用する。

「(その生物は)生物と定義していいのかはわかりません。我々は単純に形状から『蝶』と呼称しています…簡潔に言うと炭素を主体とした計算する情報爆弾とでも言ったところでしょうか。…我々が普段使用しているノイマン型コンピュータ(インテルインサイドのシールが貼ってあるPC)は、大量の熱を放出している…。コンピュータは設計上扱えるビット数、つまり0か1か、イエスかノーかのスイッチに上限があり、それを超えたビットは熱として捨てられます…。蝶が行っていることがまさにこれ…何千年、何万年かはわかりませんが蝶は計算した情報を延々と溜め込んでいます。そしてその天文学的な情報を一気に熱として放出します。その熱量は六千五百万年前に恐竜を絶滅させた隕石落下に匹敵する…熱力学第二法則を利用した究極の爆弾です」

舞台は西暦2045年。ロシアとアメリカが第二の冷戦へと突入した地上は相変わらずだが、人類は火星への入植を始めている。イーロン・マスクの活躍は『日刊イーロン・マスク』が出せそうな勢いだし、NASAは2035年までに有人火星探査を実現しようと動いていることから、こうした舞台設定にもリアリティがある。
そして西暦2045年は、コンピュータの技術が爆発的に進化し、コンピュータの未来を人間が予測できなくなるタイミング「シンギュラリティ(技術的特異点)」が到来すると予測されている。

シンギュラリティ以降に生まれ、アトム以来二人目となる“鉄腕”を持つ主人公・アダムは、ジェシー博士の開発した人工知能を搭載し、人間とまったく区別がつかないヒューマノイドの姿をしている。しかも愛読書は村上春樹という、なかなか好感を持てる人物…いや、さしずめ人でも機械でもない「人たる所以を持たない第三者」だ。
人工知能脅威論をディストピア的SFに読み替えていく作品は多いが、本作では地球のピンチに立ち向かうヒーローとして描かれる。地球の運命が人工知能に委ねられるという未来像を描くハイセンスなSFだろう。

アダムの頭脳には量子コンピュータが搭載されており、「蝶の膨大な情報に逆演算をかけ、初期状態に戻す」ことで、戦う。

 

 ( 吾嬬竜孝 『鉄腕アダム』より )
本書を読み進めるとサイバーパンクの要素が強い設定が随所に登場する。それらはすべて、科学的な事実に基づいて設定されており、時折「科学講義」というエントリーにまとめられており、こちらもとても読み応えがある。

本書の作者は吾嬬竜孝(あずま・りゅうこう)という人で、僕は本作に出会うまで存じあげなかった。「少年ジャンプルーキー」に収められている二作品もとても興味深いし、フェティッシュを設計しながらつくる試みのような『ドアノブ少女』は絵コンテの丁寧さにも驚いた。
ドアノブと少女とシンギュラリティがどうやってこの人の頭の中ではいっしょになっているのだ…? 底知れない作家と出会えた。世界にはいろんな人がいるな。つくづく。最高だと思う、地球。

未来の“鉄腕”を通し、核の驚異ではなく、人工知能の驚異を描くことで「アトム」を塗り替えるのか?
それとも、人類が神を超える様子をシンギュラリティに重ね、新しい神話を描いてみせるのか?
そして人を超えた知性を持つアダムは、自らの運命に葛藤するのだろうか?
本当に楽しみなマンガだ。

さて、最後に大ニュース。
なんと本書はまだ単行本等はリリースされておらず、「少年ジャンプ+」でタダで読めます!

 

 
( 吾嬬竜孝 『鉄腕アダム』より )
タイトル

鉄腕アダム

作者:吾嬬竜孝
ジャンプ+
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事