まだまだあなたは自分を追い込める! マンガ界のブラックジャック『コミックマスターJ』が教えてくれる「締切と限界」を超える情熱

矢代 真也2016年05月30日 印刷向け表示
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出典:『コミックマスターJ』<少年画報社>

「遅くなりまして申し訳ありません!」。こんな1文とともに始まるメールは辛い……。送信者に、仕事の期限、すなわち締切を守れなかった「社会人失格」の烙印が押されることが明白だからだ。

世の中のほとんどの仕事には、締切といわれるタイムリミットが存在する。企画書、見積書のみならず、細かいところではメールの返信についても、期限があってはじめて、社会は無事に動いている。

つまり、自分が締切を守れなかった場合には誰かが負担をこうむるのだ。それは痛いほどわかっている。ただわかってはいても、締切を守れない状況というのは、仕事をしている社会人であれば、何度か遭遇したことがあるはずだ。そして冒頭のような、自己嫌悪にまみれたメールを書く羽目になったことも……。

 
出典:『コミックマスターJ』<少年画報社>

日本には、週刊マンガ雑誌という媒体が存在している。そこで連載する漫画家は、毎週20P程度の原稿を毎週完成させなければならない。7日間で20P。その作業量は想像以上に過酷である。作家本人の稼働のみならず、アシスタントや編集者を含めたチーム全体で立ち向かわなければ、到底乗り切れるものではないだろう。

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コミックマスターJ』は、そんな週刊マンガの「締切」に立ち向かう人々を描いた短編「漫画家マンガ」である。作品を一言で言うとこうなる。「ブラック・ジャックのような凄腕アシスタント・コミックマスターJ(以下、J)が、どう考えても不可能な締切を何とかしてくれる」。


出典:『コミックマスターJ』 <少年画報社>

不可能な締切のどれもは、常軌を逸しているレヴェルで不可能だ。例を挙げてみよう。締切前日に完成した原稿が燃えてしまうのは序の口、「宇宙人」に妨害される夢と現実の世界が融合してしまうなど、現実には起こりそうもない例外的状況のオンパレードである。しかし、どのエピソードもなぜか本質的で締切に追われたことがある者のハートをつかむ。

それはJの助けを乞う漫画家もしくは編集者が、どうしても締切を守りたい、そして自分が携わっているマンガを世の中に出したいと心の底から願っているからだ。どんなに不条理な逆境においてもマンガという「仕事」に文字通り命を懸ける人間の姿がそこには確実に描かれている。


出典:『コミックマスターJ 』<少年画報社>

徐々に作品を読み進めるにつれて、一晩で20Pの原稿を仕上げてしまうブラックジャックじみたJの圧倒的漫画制作能力が、この作品の肝ではないことに気づくはずだ。Jが原稿を仕上げてくれるから締切が守れるのではない。Jが心が折れそうな漫画家の情熱をもう一度燃え上がらせるからこそ、「マンガ」という作品が掲載される意味があるのだ。


出典:『コミックマスターJ』<少年画報社>

「遅くなりまして申し訳ありません!」。こう書いたことがあるあなたは、どのような言い訳をそこに添えただろう? 電車が遅れた? 体調を崩した? もう、後ろめたい嘘を自分につくのはやめよう。

なぜ期日を守れなかったのか? それは仕事に対する情熱が足りなかったからに他ならない。これを幼稚な精神論だと笑う人もいるだろう。ただ、『コミックマスターJ』という作品は、そんな精神論に身も心も捧げたクリエイターたちの物語だ。しかも、それが最高にカッコいいことを納得せざるをえない魂のこもった「マンガ」なのだ。


出典:『コミックマスターJ』<少年画報社>

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