2016年最強のモテ線は「欲しがらない」女の子だ!
超高度の「ふつう」を追及した、極上のラブストーリー『トラや』。

杉田 千種2016年06月10日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トラや (1) (F×COMICS)
作者:南 Q太
出版社:太田出版
発売日:2003-08
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 

 日曜日は家でデート。トラはお茶飲んで、僕はビール飲んで。

主人公・けんちゃんは、フリーのグラフィックデザイナー。

けんちゃんの好きなものは、ビールと掃除と料理とお洗濯。

その恋人・トラの好きなものはケーキとお茶とけんちゃんのひざ。

 

南Q太『トラや』1巻より

ふたりは会えばゴロゴロ過ごす。

前もって予定なんか立てることはほとんどないし、

お互い電話もめったにかけない。

 

さらにトラはセックスもあんまり好きじゃないという。

 

つまり、作中で二人は、特別なことをほとんどしない。

 

おうちで借りてきた映画を見たり、

近所のケーキ屋さんで桃のババロアを食べたり。

本書は誰にだって経験したことのある他愛無い恋愛のシーンばかりで構成されている。

そんな<ふつう>がなぜか輝いて見えるのが、本書の凄みである。

 

その「ふつう」を、さらに際立たせているのが、ヒロインのトラのキャラクターだ。

 

トラは欲しいものを聞かれても「おいしいハーブティが入れられるポット」くらいしか言わない。

おいしいケーキは好きだけど、高いレストランは望まない。

物件探しをするときも、こだわるのはペット可かどうかだけ。

 

そして、ちょっとうまくいかない時には、

「私 けんちゃんいたら何にもいらないって思ってるよ」

なんて言ってくれる。

 

南Q太『トラや』

こんな女の子、無敵じゃないだろうか。

軽やかで、やさしくて、はかない。

女の私でも、ちょっとドキドキしてしまうくらい、

無欲のトラは魅力的なのだ。

震災の起きる前、「ふつう」の愛おしさを描いた南Q太の先見性。

『トラや』は未完の作品である。

この1巻が刊行されたのは2003年。

遡ること13年。それは、大きな震災が起きる前だった。

そんな時期に、当たり前の日常の愛おしさを、そして普通の恋愛を、

丁寧に描いた作家・南Q太の先見性には、ただただ敬服する。

 

2016年の今、刊行直後より、ずっと多くの人に届くであろう名作・トラや。

続刊の刊行が心から待ち遠しい。

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事