人間の本質を暴く極上ダークオムニバス『燐寸少女』 もし、あなたの妄想が叶うとしたら?

マンガサロン『トリガー』2016年06月10日 印刷向け表示
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燐寸少女 (1) (カドカワコミックス・エース)
作者:鈴木 小波
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2014-10-31
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5月28日から実写映画も放映開始となった、『燐寸少女』。アニメ化より先に実写化されるとは予想外でしたが、評判もかなり良いようで私も観に行きたいです。

ちなみに原作者の鈴木小波先生は、小波と書いて「『』なみ」と読みます(「『こ』なみ」だと思っていた時代が私にもありました)。ここテストに出ますので、お気を付け下さい!

昔から応援して来た身としては、これを切っ掛けにブレイクして欲しい! と、切に願いつつ本レビューを認めます。

 

妄想を具現化するマッチを巡って

『燐寸少女』は、その名の通り有名なアンデルセンの『マッチ売りの少女』をモチーフにしたお話になっています。あの不思議なマッチと同じように、この物語のヒロイン・リンが供する「妄想燐寸」は「が点いている間に思った事、すなわち妄想が具現化する」というもの。

もし、そんなマッチがあったら皆さんはどう使いますか? 表向き大きな欲望はなくとも、不満の裏には欲求があります。人生にそういった感情を持ち合わせていない人間などほぼいません。そうした物を手にした時、あるいは使ってみた時、初めて自分の中の黒い欲望に気付くこともあります。

そのマッチを、この物語では様々な人々手にしていきます。そして、自分の妄想を具現化する人々の多種多様なストーリーを楽しめる、基本的には一~二話完結型のオムニバス作品となっています。

自らの正義感に説得力を持たせたい少年。

努力せずにパティシエとして成功したいと考える青年。

亡くなった祖母に逢いたい孫。

いつか小説家になりたいと望む少女。

沢山ある面白いのに売れない本が売れて欲しいと願う書店員。

この世の理を超越した便利な道具を手にした時、どう用いるか。自身の最も望むものは何か。そこには確かに人間の本質が立ち現われます。そんなシーンこそ、この作品の大いなる醍醐味。

その正義感は本当に正義なのか? 
自らの鬱屈を晴らすためではないのか?
取るに足らない嫉妬が動機になってはいないか?
その優しさはささやかな優越感を守るためのものではないのか?
良い人を演じているようでいて知らず知らずの内に他人を見下していないか?

自身の体験や想いに照らし合わせて、「ああ、これは自分かもしれない……」と、グサグサと刺さるシーンが満載です。

そして、妄想を叶えられたからといって必ずしも幸せになるとは限りません。それは、現実に夢や願いを叶えた時もそうでしょう。相応の代償が必要な場合も多いです。その叶った瞬間は最高点に達したように感じるかもしれません。ただ、人も世界も、移ろい行くもの。一つ所の幸せに永続して浸るのは困難を極めます。絶対的な、あるいは相対的な不足感からまた新たに欲望が生じるのが人の常。そんな欲といかに向き合い、付き合うかは人生を懸けた課題でしょう。

ブラックでダークな後味で考えさせられる話も多いです。西義之先生風のタッチで描かれる『笑ゥせぇるすまん』的な物語だと思って頂いて、概ね間違いありません。ただ、中には心温まるお話も含まれており、良い意味で闇鍋的。読み終えるまでどっちに転ぶかわからず、ドキドキしながら読めるのがまた楽しいです。

又、マッチ売りのリンとは別に、妄想ではなく心からの本当の願いを叶える「夢幻灯」を扱うろうそく売りのチムも登場。リンとは相通ずる部分もあり、正反対な部分もあり。更に、チム以外にも過去からの因縁がありそうな彼女たちの今後の関係性も注目ポイントです。

お話も面白いのですが、鈴木小波先生の最大の魅力は「」であると個人的には思います。独特の味わいがあり、単色塗りで炎だけグラデーションの掛かった表紙のデザインなども非常に秀逸です。

特に、4巻巻末に収録の過去に描かれた「元祖版」のクオリティは圧巻です。写植の一切ない手書き文字の味や、ダイナミックな構図に類稀なるセンスが遺憾なく発揮されており、人によってはこのページだけでも定価以上の価値を十分に感じられるでしょう。読み切り版である「本家版」と併せて必見です。

3巻発売時に作られた一分ほどのPVもハイセンスですので、ご覧下さい。動いてるリンちゃん、とても可愛いです。

人間の暗黒面が好きだけどたまにはハッピーエンドも見たい人、一風変わった漫画が好きな人に強くお薦めです。

 

(文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

燐寸少女 (2) (カドカワコミックス・エース)
作者:鈴木 小波
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2015-07-04
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燐寸少女 (3) (カドカワコミックス・エース)
作者:鈴木 小波
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2016-03-02
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燐寸少女 (4) (カドカワコミックス・エース)
作者:鈴木 小波
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2016-06-02
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ホクサイと飯 (単行本コミックス)
作者:鈴木 小波
出版社:角川書店
発売日:2013-10-22
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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