糸井重里さんが注目した「ほんとにまったくふつうの人がマンガにした熊本の地震の記憶」 熊本地震から2ヶ月…たとえメディアに忘れられようとも、今も更新が続いている『ネココの地震日記』がある。

今村 亮2016年06月17日 印刷向け表示
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熊本地震のことを覚えていますか?

はじまりは夜でした。ひしゃげた熊本城の姿とともに、熊本地震のニュースは日本列島を一気にかけめぐりました。震度7の大地震が九州地方を襲った、報道はそう告げていました。

しかし現地の情報は一向に伝わりません。道路・鉄道・航空、すべての交通が断絶された熊本で、いったい何が起こっているのか・・・?

そんなとき、糸井重里さんが紹介したのはひとつのマンガでした。

震災の現状を伝えるノンフィクションマンガ

『ネココの地震日記』は、震源地にほどちかい熊本県阿蘇郡西原村で被災した作者によるノンフィクションマンガです。
 


ネココさんは3人家族。ネココさんが感じた震災の恐怖と避難生活の日常が、飾りのない実直な筆致で描かれています。

熊本地震の日付が知られていない理由

東日本大震災は「3.11」、阪神・淡路大震災は「1.17」、震災にはメモリアルデイがつきものですが、熊本地震が何月何日に起きたかご存知でしょうか?おそらく正確に知らない方がほとんどではないかと思います。その理由のひとつは、熊本地震を特徴づけているのが、「前震」「本震」と呼ばれる二夜連続の大地震だからです。

震度7を経験した翌日、ネココさんは恐怖でなかなか眠れません。テレビでやっていた金曜ロードショー(放送されていたのは「名探偵コナン 業火の向日葵」)をつけっぱなしにしたまま、ようやく、うとうとし始めたところでした。
 

「まさか!強いのは もう ないはずだ」 


この夜、熊本地震の恐怖は本格化します。熊本地震の恐怖とはつまり、眠れない夜の恐怖です。

あれから2ヶ月が経ちましたが、熊本は今も終わらない余震に襲われています。驚くべきことに、気象庁のデータによると、6月16日時点で観測された地震は、なんと1752回に上るそうです。この頻度は、東日本大震災や阪神・淡路大震災を大きく上回ります。


「今夜もまた地震が来るのではないか・・・」

夜が来るたび、熊本には不安な空気が流れます。ネココさんの家は、幸い、倒壊しているわけではなさそうです。しかし家族は家を出て、昼は庭で、夜は車中で暮らすことを決断します。また来るかもしれない地震の恐怖がそうさせました。
 

 

被災直後、意外と大変なのはアレだ!

『ネココの地震日記』で特徴的なのは、生活感あふれる被災直後の小ネタです。ネココさんの家は電気が大丈夫だった一方、水道の復旧が遅かったようです。3週間ほどにわたる断水生活で、とにかく大変なのは・・・

・・・・・トイレ!

ネココさんは、庭に穴を掘って用を足していることがわかります。トイレットペーパーは描かれていますが、水は描かれていません。水は希少品です。給水車からなんとか獲得した貴重な水を、排泄物を流すためには使わなかったのではないかと思います。

しかもその背面のお父さんの様子が、これまたリアルです。

「保険のために 家の亀裂の 写真とっておこう」

震災復興の土台は、いかにして生活を建てなおすかにかかっています。ウンコにしても保険にしても、なりふり構ってなんかいられません。画になるドラマばかりではありません。そのリアルを、ネココさんは包み隠さず伝えてくれました。糸井重里さんはきっと、そこに共感したのだと思います。

日常は終わらない。更新が続く『ネココの地震日記』

全国メディアでは、すっかり熊本地震の報道が減りました。しかしネココさんの日常は終わりなく続いています。その様子が更新され続けていることは注目されるべきだと思います。

「ネココ 続 少しずつ復興編」
「ネココ_水出る時って こんなもんか編」
「ネココ_怪奇現象か?・・・遅れてくる地震ダメージ編」
「ネココ_復興してるのか!!日常へ編」
http://mcs.world.coocan.jp/nekoko.html

水道が復旧し、家の雨漏りが止まり、熊本の日常は少しずつ復旧していきます。しかし、どうしても癒せない傷も描かれます。テレビをつけっぱなしにしたままでないと眠れないネココさんの様子に、胸がしめつけられます。

ネココさんの事例が代表するように、被災地における、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の長期化は避けようがありません。「震災3年後には、被災した子どものおよそ30%にPTSDの症状が見られたという厚生労働省の研究班の調査結果も」とNHKは報道しています。

被災地でNPOにできること

実は、私の実家も熊本で被災しました。還暦を過ぎた父母ふたりがウンコを流せない被災生活を送っているのがさすがに心配になったのをきっかけに熊本に戻り、今も東京と行き来しながら過ごしています。

実家が少し落ち着いた頃、ネココさんの住む西原村や、そのお隣の震源地・益城町へ足を伸ばすと、さらに酷い状態であることを知りました。ガレキだらけの町、避難所の疲労感、進まない生活再建・・・。特に益城町は6月時点で、なお5,000人が避難生活を続けています。

ガレキだらけの益城町で避難生活を送る子どもたちの様子を見ていると、指をくわえて眺めているわけにはいかない、という焦りを感じます。

私の職場であるNPOカタリバは、東日本大震災被災地の子どもたちの支援を
続けて6年目になります。つい先日の3.11でも、このHONZでしりあがり寿さんの作品を取り上げ、「3.11から何も変わらないあなたへ。」というレビューを書かせていただいたばかりです。しかし、まさか地元が「被災地」と呼ばれる日が来るとは、想像もしていませんでした。3.11から何も変わっていないのは、私自身だったのでしょう。やれやれ。

そこで私たちは、安心して勉強できる場所を失ってしまった子どもたちを、「学習機会」と「居場所」の提供を通してサポートすることを決めました。『ネココの地震日記』がなかったら、この町の子どもたちには出会わなかったかもしれません。


残念ながら国や県の公的資金を頼りにできないことがわかったため、「熊本地震子ども応援募金」を開設しました。募金を頼りに、レンタカーや寝場所の資金をつなぎ、なんとか3月末の高校入試まで支援を続けたいと思っています。

 この活動を続けていたら、いつかネココさんにお会いできるかもしれません。ネココさん、この記事をご覧いただいていたら、ぜひ一度カタリバにご連絡ください。直接感謝をお伝えできたら幸いです。私は益城町におります。

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