真っ暗な道を照らすひとすじの光。いくえみ綾と小沢健二がほのかに灯した『バラ色の明日』という未来

中原 由梨2016年06月29日 印刷向け表示
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タイトルと反して(!?)、本当に暗い話だと思います。いくえみ綾さんの『バラ色の明日』は。
 
 先日、念願叶って小沢健二さんのライブに初めて行くことができまして。私はフリッパーズギター時代からそりゃーもー大好きだった訳なので、言葉にできないぐらい興奮しましたし感動しました。やっと参加できたライブで小沢健二さんは暗い道を照らす一筋の光について繰り返し歌っていました。このライブがそのものが光であるかのように。
 
まるでこのマンガ『バラ色の明日』のようだと思いました。
 
 マンガ『バラ色の明日』に出てくる(ほぼ)全員の登場人物たちは、何かしら解決しない課題を抱えています。それは近親相姦だったり、血がつながらない親子間の愛憎だったり、子供を置いて蒸発する親や恋人の死だったり、友達を傷つけたトラウマだったり…。 
双子のイチとナナの前に突然あらわれた「お父さん」と名乗る男   
 
 『バラ色の明日』は、それでも“明日はバラ色だろう”と、ぼんやり信じて進む人たちのオムニバス形式の物語です。
 
 いくつかの物語…時に一話完結の物語もあれば、語部を変えて視点を変えながら複数回続いていく物語もあります。いくえみ綾さんのこの手法がさらに洗練されるのが名作『潔く柔く』だと思いますが、『バラ色の明日』の方が先に連載された分、どちらかと粗削りな印象です。
 
 救いがある話もありますが、救いようがない状況もあります。どの登場人物も共通しているのは、大人も子供も、埋められない大きな穴を抱えています。だけど、誰も決して深刻すぎず暗すぎず、なぜか奇妙な明るささえ感じられます。本人超真剣だけど、第三者から見たらどーでもいいような奇妙な可笑しさを携えている(だいたい24時間深刻に悩むことは稀だしね)。そのマッチングが妙なリアルさになって、キャラクターへの親近感に変ります。
母親は自分の子供と再婚した夫をおいて家を出てしまう   
 
 何でも望みが叶うことなんて人生において本当に稀だし、希望なんてたくさん持てない。若くても年を重ねても、それは変わらない。巷には「想いは届くよ!なんでも思い通りになるよ!!」というマンガも歌も多いし、確かに時に魅惑的に感じる。けど、現実は思い通りになることの方が少ないし、やっぱり単純じゃないし簡単じゃない。だってリアルはもっと雑だもの。そして意外にドラマチックです。ドラマの主人公みたいに陶酔したりしないけど。
 
そんな中、たったひとつだけ持っていけるとしたら、「明日がバラ色かもしれない」というぼんやりした気持ちだけかも。そうあるよう強く願うけど、色々ある毎日の暮らしの中ではぼんやり思う程度かも。
 
 暗闇を進む人に差すひとすじの光。それがバラ色の明日へ続くとよいな(希望)、と思いました。小沢健二と『バラ色の明日』は、そんな明日を願いながら進む勇気をくれました。ありがとう。
 
 
 
(画像はすべて『バラ色の明日』/いくえみ綾より引用)
 
 
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