音楽性の違いとか言ってんじゃない!バンドが続くかどうかは人間関係だ『BECK』

佐保 祐大2016年07月01日 印刷向け表示
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BECK(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)
作者:ハロルド 作石
出版社:講談社
発売日:2000-02-15
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 僕はバンドを10年間ほどやっていた。やっていたバンドはジャンルとしてはラウド系とか、ミクスチャー系といった部類に入る。重たい音楽にシャウトやデスボイス、ラップが入っていたりもした。
女の子ツインボーカルで当時Dragon AshやRIZEなど、日本でもミクスチャー系というジャンルが全盛期であった頃で、自主制作でCD出したり全国ツアーを回ったり結構本気でバンドをやっていた。

そのバンドは結局解散ということになってしまったが、解散理由は“音楽性の違い”なんかではない。かといってもう音楽が続けられないほどメンバー間で仲が悪くなったわけでもない(さすがに長く続いたバンドだっただけに結成当時のような仲の良さが続いたわけでもない)。
バンドを長くやると多くの人が経験するだろうが、解散理由は決して“音楽性の違い”なんかで一括りにできるほど簡単ではなく、かといって長くファンでいてくれた人になんて説明したらいいのか困るのも事実だ。

音楽マンガの代表作であるハロルド作石の『BECK』はそんなバンドマンの裏側や人間関係の難しさを物凄く絶妙に、そしてリアルに表現できている。なのでバンドマンが見ても「分かる!!!」といえるほど上手くバンドを続けることの難しさを表せている音楽マンガなのだ。

今回は自分の経験をもとに、音楽マンガ『BECK』を通してバンドを続けることの難しさについてお伝えする。

 

マンガで音を伝えることの難しさ

音楽を主体としたマンガは決して少なくはないが、長く続くものは決して多くはない。それはマンガで音楽を表現することの難しさがあるのではないかと思う。

たとえばバンドの名曲となる曲が生まれてそれをLIVEで披露する。観客はそれを聞いて驚いたり感動したり歓喜に包まれたりするわけだが、マンガから音が聞こえてくるわけではないので、読む側としては没入感を味わうことなく、ちょっとシラけたりサメた感じで読んでしまう。
マンガのなかに入り込み同調することが難しいのだ。

しかし、BECKでは聞こえないはずの音楽がまるで聞こえているかのような錯覚に陥ることがある。歌詞が載っているわけでも音符が記載されているわけでもない。けどもたしかに、音が聞こえてくるのである。

主人公であるコユキが歌うシーン、これはこのマンガで何度も表現されている。コユキが歌うシーンはまるで時が止まったかのような無音のような表現で描かれている。先ほどもお伝えしたが歌詞が載っているわけでもない、けども自分の脳内にはコユキの声が聞こえていて、それがまたとても綺麗な声なのだ。

マンガのなかで描かれている観客のように聞く人に衝撃を与え、コユキにしか目がいかず周りの音が一切聞こえなくなってしまうのだ。当然マンガなのでコユキがどんな声なのか一切分からない(アニメ、映画版は置いといて)。けども確実にコユキの繊細で透き通った声が自分の脳内で再生されるのだ。

(ハロルド作石『BECK』より) 

 

バンドマンが抱える続けることの難しさ

バンドを続けることで一番難しいのは“人間関係”である、とある程度僕は断言してもいいと思ってる。決して“音楽性の違い”ではない。もちろんバンドを続けていくことで表現したい、やりたい音楽が変わってきてそのバンドで続けていくことが難しくなることもあるだろう。
けども少なくとも自分の周りの近しい人で、メンバーチェンジや脱退、解散の理由を聞くとその多くが人間関係の悪化になる。

BECKでも人間関係の悪化によってバンドがうまく機能しなくなっていくのは何度も表現されている。一番はコユキとリードボーカル兼ラップを担当している千葉の関係だ。
このBECKでは千葉によるノリノリのラップによる曲がメインとなっている。しかし、バンド活動が進むにつれてコユキによる歌の魅力がバンドメンバーに衝撃を与え、そして観客や音楽関係者など多くの人に衝撃を与え、コユキの影響力が大きくなっていく。

それに窮屈を覚え、自分が必要なのかどうか自問自答するのがメインボーカルの千葉だ。これは自分のバンドでもそうだったのだが、ボーカルが2人いる場合は明確な役割とバランスが重要だ。
コユキと千葉に明確な役割はあった、しかしバランスが崩れてしまったことによって人間関係が崩れてしまったのだ。

コユキによる影響力が強くなり、自分がバンドの中で必要とされているのか、また自分でも存在意義を見いだせなくなった千葉は次第にバンドから離れるようになってくる。LIVEが終わったあとメンバー間や一緒にLIVEをやったバンド仲間と談笑することや打ち上げに参加することなく、一人帰りクラブでラップの大会に出るなど自分の存在意義を探すため、また自分がいるべき場所を探すために活動を始める。

そうして次第にバンドから心が離れ、他の場所で活動していくことの比重が大きくなり、バンド活動に影響が出るようになってくる。
そうなってくるとメンバー間でも亀裂が入ってくる。このBECKでも最初は小さな違和感から始まり、それが核心に変わる。しかしバンドに影響が出ないならと容認していると、スタジオ練習やLIVEに遅刻したり来なくなったりと大きな影響を及ぼすことにより大きな問題へと発展する。

これはバンドをやっている側としても“あるある”で、自分のバンドを含め、他のバンドでも同じようなことは起きているのである。
それはボーカルに限ったことではない。ギターが2人いるツインギターのバンドでなくても同じことだ。そのパートが自分しかいなかったとしてもだ。
それほどバンドというのは繊細で小さなことで壊れやすいものである。たとえそれがメタルバンドやパンクバンドであったも同じだ。


BECKでは一時は脱退を考えた千葉がヒップホップでは自分が求めている場所とは違うということに気づき、バンドに戻ってくる。しかし一度離れようとした身であるため後ろめたさを感じてしまう。
そのとき千葉と一番亀裂が入っていたコユキが千葉を求めていたこともあり、二人は和解し以前のようなバンドに戻ることになった。

これが現実的かというと決してそうではないのだが、ここで千葉が離れてしまってはマンガとして夢がなくなってしまう。千葉が戻り、以前のようなバンドを取り戻すことが重要なのだ。

(ハロルド作石『BECK』より) 

バンドをやっていると音楽のこと以外に関する問題が多く出てくる。いやむしろ音楽に関する問題の方が少ないかもしれない。
ほとんどが人間関係が悪化したことによって起こる問題だ。音楽についてもそう言えるのではないか。

BECKはそういった音楽だけではない、バンドマンの人間関係をこれ以上ないぐらい表現した音楽マンガなのである。

 

BECK(34) <完> (KCデラックス 月刊少年マガジン)
作者:ハロルド 作石
出版社:講談社
発売日:2008-10-17
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RiN(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)
作者:ハロルド 作石
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