あなたはどちらが好きですか?競技ダンス経験者が語る『背すじをピンと!』と『ボールルームへようこそ』の面白さの違い

佐藤 あやの2016年07月10日 印刷向け表示
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ボールルームへようこそ(1) (講談社コミックス月刊マガジン)
作者:竹内 友
出版社:講談社
発売日:2012-05-17
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 『ボールルームへようこそ』を読んで好きになった人は、競技ダンスを観たくなる『背すじをピン!と』を読んで好きになった人は、競技ダンスをやってみたくなる。どちらも競技ダンスを題材にした漫画ですが、両者の間にはそういう質的な差があるように思えます。

どちらも主人公は初心者で、「立ち方」を覚える所からダンスの世界に入ります。

ダンスは、体幹で体を引き上げて立つ「立ち方」を覚えないと、軸がぶれて手足に振り回され、重心がどんどん下に落ちていきます。そういう踊り方をしていると無駄に体力を消耗して、試合終盤で死を見ます。そもそも長時間練習の時点で死を見ます。筋肉のつき方も歪になります。

しかし「立ち方」を覚えないと死を見るなんて、初心者である主人公も、この漫画を通して初めてダンスを知る読者も、知る由はないでしょう。

でもダンスって、そういう世界なんです。難解な振付けを覚えることよりも、正しい「立ち方」を習得することの方が難しい「地味を突き詰めて初めて華やかになる」、そういう競技です。

『ボールルームへようこそ』は、特別な才能なんて何一つ持ち合わせていないように思われた主人公が、偶然出会った競技ダンスのトッププレイヤーたちによって、引きずり込まれるようにその世界に飛び込んでいってしまう話です。

競技ダンスに対するリスペクトが明確に描かれ、トッププレイヤーに対する敬意が主人公を突き動かす描写は圧巻の一言に尽きます。周りに圧倒されながら「普通の男がすごい人間に囲まれるうちに知らず知らずすごい人間に近づいている」、こういうストーリーです。

『背すじをピン!と』は高校の部活で競技ダンスに出会います。派手な新歓パフォーマンスに惹かれて、残ったのは地味な主人公と地味な女の子。二人とも派手な先輩に囲まれながら地味に一生懸命頑張るのですが、二人とも小学生の頃に植え付けられた異性に対するプチトラウマを後生大事に引きずっているような子です。

でも、ど下手くそな初心者の段階から競技ダンスを通じて心身ともに強くなって、トラウマを乗り越えます。ですから基本的には「何かに一生懸命になることで自分をもっと好きになる」というストーリーになります。

『ボールルームへようこそ』を読んで競技ダンスを始めようと思う人はいないかもしれません。何故なら、私たちは主人公の藤田多々良のように、ある日突然競技ダンスのトッププレイヤーに出会ってその世界に引きずり込まれるような、ど素人がトッププレイヤーに囲まれて実力ごと引き上げられるような、そんな「偶然」を掴めないからです。

だからこそ、会いに行きたくなる。応援したくなる。何やらすごそうな人間を見ると逃げたくなるような性格の人でも、競技ダンスのトッププレイヤーの演技を観てみたい、大会を調べて体育館に行ってみようか、そんな気分にさせる漫画です。

それに対して『背すじをピン!と』は、競技ダンスを始めたくなる漫画かもしれません。何故なら、主人公たちが少年漫画のヒーローとしてギリギリなレベルでど下手くそだから。「一生懸命頑張っている」、主人公たちはど下手くそにも関わらず、競技ダンスを楽しめる。そして何より、競技ダンスの世界に足を踏み入れるまでの「勇気の過程」が丁寧に描かれているので、近場にダンススタジオがあったら体験レッスンを受けてみたくなるような漫画です。

地味な人間が、地味な性格のまま、地味に練習しても、華やかな世界で活躍出来る。それをリアルに可能にするのが、ダンスというスポーツの醍醐味です。派手好きなお調子者が読んで面白い漫画というよりは、保守的な慎重派が読むと勇気付けられる漫画です。2つとも、家で本や漫画ばかり読むのが好きな人に、生涯の趣味を与えてくれる漫画かもしれません。  

ボールルームへようこそ(2) (講談社コミックス月刊マガジン)
作者:竹内 友
出版社:講談社
発売日:2012-07-17
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