不死の少女と悪魔の"ゲーム"『フラウ・ファウスト』

マンガサロン『トリガー』2016年07月07日 印刷向け表示
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フラウ・ファウスト(1) (KCx)
作者:ヤマザキ コレ
出版社:講談社
発売日:2015-04-07
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『魔法使いの嫁』が大ブレイクし、一躍有名になったヤマザキコレ先生。そのヤマザキ先生の最新作ということで、多くの人が期待を寄せていたのが『フラウ・ファウスト』。三巻発売のこのタイミングで、今一度この作品を紹介したいと思います。

 

世界で最も有名な錬金術士の物語

16世紀に実在した錬金術士ヨハン・ゲオルク・ファウスト(本作のヒロインであるヨハンナの名前も、ここに因んでいるのだと思われます)。彼をモデルとして、様々なファウストとメフィストフェレスの物語が生み出されてきました。それは、悪魔メフィストフェレスに魂を売ったファウストが自らの願望を叶えるという物語。中でも、やはりゲーテが60年も掛けて著した『ファウスト』が今では一番メジャーな存在でしょう。

ゲーテの『ファウスト』では、冒頭でメフィストフェレスと神が賭けをします。人間であるファウストが、向上心を持ち続け正しい光の領域への道を歩めるか。それとも、メフィストフェレスが誘惑したらそれに負けて闇の領域へ堕するか。そして、ファウスト自身とも有名な「時よ止まれ! お前は美しい」という言葉を発したら魂を捧げさせるという契約を結びます。この言葉は、その瞬間に満足してしまい向上心を喪った状態になった時に発せられる言葉であるからです。

ゲーテ版ではすんでの所でメフィストフェレスの本懐は遂げられませんが、その結末は物語によって様々です。メフィストフェレスの望む結果になる物語もあります。大枠は変わりませんが、枝葉末節は様々な形が存在するファウストとメフィストフェレスの物語。

この『フラウ・ファウスト』は、そんな系譜上の作品の最新バージョンでもあります。

 

『フラウ・ファウスト』のファウストとメフィストフェレス

本作では、メフィストフェレスは100年前に五体を刻まれ、頭や腕や足といった部位ごとに各所に封印されています。そして、かつてメフィストフェレスと契約を交わしたヨハンナ・ファウストは「メフィストフェレスを復活させて、ぶん殴って這いつくばるらせる」ためにそれらの部位を捜し求めて旅をしています。その道中では、知的好奇心旺盛な少年マリオンとの出会いや、ファウストを追う異端審問官ロレンツォとの闘いもあります。

この『フラウ・ファウスト』ではファウストとメフィストフェレスの間でどのような"ゲーム"が行われているのかというと

「ファウストがメフィストフェレスを捕らえたらファウストの勝ち」
「ファウストが立ち止まったらファウストの負け」
そして、そのままではファウストが勝つのは難しいであろことから、とある"ハンディキャップ"が設けられています。そのハンデを含む、ファウストの謎や過去なども大きな見所の一つとなっています。


真実も事実も空想もいつかはひとかたまりのおとぎ話(フェアリーテイル)だ


…本は先人の財産だ
でもそれを鵜呑みにはするな
固執もするな
多角的に見ろ

自身の知的探究心から来る行為の数々が後世に「狂人の所業」として知れ渡ってしまったファウストから発せられるこの言葉に、考えさせられるものがあります。

2巻の最初で描かれる、ファウストの生い立ちにまつわるエピソードは、本作の主人公であるファウストの一筋縄ではいかない特殊性を絶妙に描き表しています。

あまり他に類型のないタイプの欲望を持つ主人公だけが醸し出せる味を、うまく料理して提供してくれていると感じます。共感できる部分はありつつも、明らかに一線を越えてしまっているが故に世間の評価にも頷けてしまう、危うい主人公。しかし、その危うさこそ魅力に繋がる部分でもあります。


又、ファウストの"娘"であるニコ・バーンスタインが

私のすべては私が決めたこと
(中略)
後悔も反省も私のもの

――だれのせいでもない
決めたのは私

私は私が選びとった
私だけのものよ

という台詞を放つシーンも、好きな所です。
やはり、ヤマザキコレ先生は「ここ!」という時の決めシーンの巧さがあるなぁと。
この作品では、自らの強い意志を持って行動する人間(あるいは人外)の、その意志の力が輝いて見えます。

果たして、この物語での勝者は誰となるのか。あるいは……。

悪魔と人間の関係などについても様々な伏線が張り巡らされており、これからまた幾重にも展開して行きそうなので続きを楽しみに待ちたい作品です。

 

(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

 

フラウ・ファウスト(2) (KCx)
作者:ヤマザキ コレ
出版社:講談社
発売日:2015-11-06
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フラウ・ファウスト(3) (KCx)
作者:ヤマザキ コレ
出版社:講談社
発売日:2016-07-07
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魔法使いの嫁 1 (BLADE COMICS)
作者:ヤマザキコレ
出版社:マッグガーデン
発売日:2014-04-10
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ふたりの恋愛書架 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
作者:ヤマザキ コレ
出版社:芳文社
発売日:2013-02-12
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七夕の今日、『フラウ・ファウスト』は最新3巻が発売!

他作品も一緒にひもとくと、また多層的にヤマザキコレ先生の世界を楽しめます。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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