少女は星から星へと渡り、死闘を続けさせられる……『わたしのカイロス』

マンガサロン『トリガー』2016年07月08日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

わたしのカイロス (BUNCH COMICS)
作者:からあげたろう
出版社:新潮社
発売日:2016-06-09
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

 これは、良い王道ですね!

開始3ページで明かされる必要十分な世界設定に、早々に胸踊りました。

ヒロインのグラジオラス=ハンティングソングは罪人。その罪の贖いとして、「剣闘刑」に処されています。

「剣闘刑」とは、貴族の見世物として星々を転々としながらその星ごとに設定された対戦相手と強制的に闘わせられ続けるという刑罰。ただし、勝ち続けることで特典や恩赦が与えられるというシステムになっています。

しかし、罪と言っても悪辣な貴族に対する正当防衛によるものでした。グラジオラスの故郷の惑星アルパは、圧倒的な階級社会。「おとうさま」と呼ばせられたその貴族の男・ジギタリスは、「平民救済プログラム」と称して以下のうら若き乙女たちを集めていました。名目は、「プログラムを終えたら貴族に次ぐ地位と自由を与える」というもの。しかし、現実は……

法律というものは、基本的に公正であるように見せ掛けながら、作る側の人間にとって都合の良いようにできているものです。だからこそ、専門的な言葉が満載で平易な文章にはなっていません。哲学者ソクラテスが「悪法もまた法なり」と言って毒杯を呷り死んだという話は有名であり、この言葉は「どんなに悪い法律でも法は法なので従わねばならない」という意味合いで捉えられがちすが、これも実は捏造。そんなことを言って死んだという記述はどこにもなく、むしろソクラテスは「自分の哲学に殉ずるべし(故に、法が間違っているなら従わず正すべし)」という主旨のことを言っているのです。「悪法でも従うべき」という解釈は、悪法がまかり通っていた時代に遵法精神を育むための悪意ある意訳です。

「理不尽だけど、法律だから守らなきゃ」という態度は、人として正しい在り方でしょうか。むしろ、楽に流れる思考停止ではないでしょうか。おかしいと思うことにおかしいと指摘できない状態はおかしいのです。そもそも、人間が作るシステムが完璧に完全無欠に作用し続ける訳はありませんし、変化する時代や情勢に応じて改善していくことはいつの世でもどこの国でも必要なことでしょう。

そういう意味でグラジオラスは、家族を守るため誤った世界の在り方に真っ向から抗する、まったき主人公であります。自らの中の正義に基づき、絶対的権力者に対して堂々と反抗する勇気ある少女です。王道物語のヒロインとして申し分ありません。


そんな彼女が、様々な星を巡り、闘い続ける物語。星から星を渡っていく、という所に心が沸きます。『銀河鉄道999』がバイブルの一つである私にとっては、たまらない設定です。宇宙、それは最後のフロンティア。

どんな地形なのか?
どんな大気組成なのか?
どんな生物がいるのか?
どんな未知の危険があるのか?
どんな景色や空が見えるのか?

異世界への憧憬や好奇心を様々な形で満たしてくれる、冒険と同質の楽しみがあります。

最初の星では、長いパートナーとなるであろう少年カイロスとの出会いがあります。「剣闘刑」にかけられた「咎人」は何か一つだけ武器を携行することが認められていますが、グラジオラスは彼を武器として共に闘っていくことになります。カイロスとの微笑ましいやり取りの数々に、古き良きボーイ・ミーツ・ガールの趣が宿っています(本作はガール・ミーツ・ボーイですが)。何せ、タイトルが『わたしのカイロス』ですからね。読み終えてから、改めてその意味を噛み締めるとニヤニヤしてしまいます。彼の持つ謎も、今後の見所です。

あと、ここが大事なのですが、格好いいおっさんが出てきます。

その名も、「不死の英雄」の異名を持つ咎人・アキレア。63勝無敗で、後1勝を上げると恩赦を貰えるという状態。圧倒的な強さですが、豪放磊落な性格で見ていて気持ちの良いキャラクターです。おっさんが格好いい作品は名作!

可愛い絵柄なのですが、時にはゾクッとさせられる描写や表情もあります。

痛いシーンやおぞましいシーンもあります。表紙の絵からは想像しにくいそのギャップもまた魅力です。


過酷な運命の中でのグラジオラスとカイロスのこれからの闘いと生き様、そして様々な星の様態が楽しみです。

 

(文:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿)

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事