精神科看護師が読む『コミュ障は治らなくても大丈夫』。コンプレックスと寄り添う生き方とは?

医療美術部2016年07月16日 印刷向け表示
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こんにちは、医療美術部です。

医療美術部は医師や看護師など医療従事者や医療系学生が集う団体です。
8月に東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケットにて、医療ネタの同人誌や医療モチーフのアパレルグッズを販売いたします。興味ある方は是非いらしてください。

今回紹介したい作品の作者は水谷緑先生。我らが医療従事者にまつわるコミックエッセイ「まどか26歳、研修医やってます!」「じたばたナース」を執筆されております。
医療現場では患者さんとのコミュニケーションが重要となる場面に多く遭遇します。

看護師養成校には、看護のためのコミュニケーション技法の授業が存在しています。
看護師のコミュニケーションは、患者さんのケアのために必要な看護技術なのです。

そんなコミュニケーションが大の苦手な「コミュ障」アナウンサー吉田尚記さんの体験を水谷緑先生がコミックエッセイにされました。

空回りの日々の果てに「日本一からみづらいアナウンサー」誕生

ラジオ局アナウンサーに内定するも「しゃべる仕事」への不安に押し潰されそうになっていた「コミュ障」の吉田さん。社会人デビューし、その不安は現実となっていきます。

新入社員挨拶にて、大声で元気よく叫んでみたが、全員が無反応で静まり返ってしまう。
上司とエレベーター内で2人きりになっても、会話が続かない苦痛から携帯電話をかけるフリ。
街頭インタビューでは「おばさん」呼ばわりしてしまったことで相手を怒らせてしまう。
インタビュー相手についてマニア並みに知り尽くし質問したら、ただの尋問になってしまった。

水谷緑・吉田尚記 『コミュ障は治らなくても大丈夫』より

…やることなすことすべてうまくいかず迷走。
『日本一からみづらいアナウンサー』と呼ばれてしまった…。

 

大好きなパトレイバーの仕事がきっかけで、伝わる言葉が出せた

「もう変なこと言ったり聞かないようにしよう!」
「相手を不快にしないように気をつけなくちゃ!」

失敗を重ねるたびに、自分の思いを抑えこんで、力んだり怯えながら仕事をする吉田さん。
自分の思いを抑えて仕事をする吉田さんにディレクターさんがアドバイスをくださいます。

水谷緑・吉田尚記 『コミュ障は治らなくても大丈夫』より

「会話は感情が生まれないと楽しくならないよ」「感情の出し惜しみをするな!」
ディレクターさんのアドバイスが、怯えていた吉田さんにヒントをくれました。

そして吉田さんに転機が訪れます。

アニメオタクの吉田さんが大好きな作品「パトレイバー」特番の仕事が舞い込んできました。
番組進行中は仕事を忘れてしまうくらい、思ったことをしゃべり続け、オタク心は解放され…。吉田さんのパトレイバーを愛してやまない気持ちに共感したリスナーから、これまでにない量のメールが送られてきました。

水谷緑・吉田尚記 『コミュ障は治らなくても大丈夫』より

 大好きなパトレイバーの話題によって、自分の感情をさらけだしながら、多くのリスナーの心を動かすことができました。

 

相手と心を通わせることはできないから「聞く」意識を持つ

この経験から吉田さんは「コミュ障」な自分が、会話をする時に「何かを伝えなくてはいけない」という思い込みをしていたことに気がついたのです。

会話の中で相手に伝わることは、自分の思いとは関係ない。
「何かを伝えなくてはいけない」という思いは、自分の思いを押し付けるだけ。
最初から相手と心を通わせようとしなくてもいいという事実。

自分の思いを伝えることには、限界がある。
限界があるなら、会話を続けるためにどうしたらいいのだろう?

吉田さんは、会話の中で自分を唯一コントロールできることが「聞く」ことだと気づけました。

水谷緑・吉田尚記 『コミュ障は治らなくても大丈夫』より

 「聞く」ことを意識し、相手の気持ちについて考えながら、質問を投げかける。
「コミュ障」な吉田さんが、会話を楽しむヒントを少しずつ、見つけていきます。

 

「聞く」ことはこころに寄り添った看護ケアの基本ともなる

看護師も患者さんの話を「聞く」ことで、看護に繋げていきます。

ときに病気が治らないといった、厳しい現実から逃れたい患者さんの「つらい」思いをコミュニケーションの中で受け止めなくてはいけない場面にも遭遇します。
そんな時患者さんに「少しでも元気になってくれたら」と思いながら「頑張って」「必ず良くなる」といった励ましの言葉を伝えても、患者さんの「つらい」思いに寄り添った看護の提供はできません。看護師の思いを押し付けるだけになってしまいます。

「本当に患者さんがしてほしいことは、何だろう?」と考えながら、患者さんの話を「聞く」ことが、こころに寄り添っていく看護の基本となります。

患者さんに「つらい、一人にしておいてくれ」と望まれれば。
あえて接触を減らし、距離を置いた関わりをしていきます。むやみに話しかけたりせず、ただ患者さんの気持ちを気にかけ、時々見守ります。

一人になれることで「つらい」思いを患者さん自身が見つめなおし、一人でできる範囲での、気持ちの整理を助長できるような、環境づくりや関わりを心がけます。

患者さんに「つらい、一緒にいてほしい」と望まれれば。
隣で話を聞いたりタッチングしたりしながら、そばにいるように努めます。
患者さんの話を「聞く」時は、思いを否定することのない声かけをしていきます。
例えば「寂しい」と言われれば「そうなのですね」「寂しいのですね」と、患者さんの思うことをそのまま受け取ったように返答します。

そばにいることで「つらい」思いを共有でき、気持ちの整理の仕方を一緒に考えてみることができます。


そうして看護師は患者さんのこころに寄り添えるような、言葉や態度を示していきます。

タッチングとは:患者さんへの安心と安楽を提供する目的で行われる、軽いボディタッチなどの非言語的コミュニケーション。体に手をあてたり、さすったりなど。

 

患者さんと看護師のこころ、両方に寄り添い続けながら信じて

「つらい」思いや現実から逃げ出したくなるのは、患者さんだけではありません。
看護師自身も、関わるプレッシャーやストレスから逃げ出したくなることもあります。
自分のコミュニケーションについて「あの時、本当にあんな言葉や態度でよかったのだろうか」と振り返って、後悔することもあります。

ケアの過程で生まれた看護師自身の「つらい」思いと寄り添うことも、看護ケアを提供していくために必要な過程です。自分自身の思いも大切にしていくことによって、よりよいケアについて考え直すことができるのです。カルテを読み返したりプロセスレコードを書いてみたりして、看護師自身のコミュニケーションの傾向について考察していきつつ、ケアプランを練り直します。

看護師が、自身のこころにも寄り添い、患者さん自身が本来持っているであろう「つらい」思いと向き合える力があることを信じて。いつか力を引き出せるようにと、患者さんのこころに寄り添い、関わり続けていくこと。

これが看護ケアとしてのコミュニケーションです。

プロセスレコードとは:患者さんと看護師の会話の状況について振り返り考察し、記録したもの。患者さんの傾向について理解を深めることや、看護師のコミュニケーションの向上を目的として活用していく。

 

からだやコンプレックスが治らなくても、受け入れることができる

「聞く」ことで「コミュ障は治らなくても大丈夫」だと。
この本のタイトルが吉田さんの「コミュ障」というコンプレックスを受容しています。
吉田さんは、ご自身が「コミュ障」をコンプレックスだと感じる気持ちと、会話をする相手の気持ちの、両方のこころに寄り添った観点のもと、アナウンサーとしてお仕事をされているように感じました。

その観点からは患者さんのからだだけではなく、コミュニケーションを通し、こころも含めて、寄り添い向き合う「人を看(み)て護(まも)る」という看護の文字通りの原点をも思い返すことができました。

企画・本文:のまり(看護師)
監修・タイトル発案:Dr.れく(医師)
++医療美術部++

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