「料理が得意です」とアピールされて許せるのはどのレベルからですか? 内田春菊『おやこレシピ』

杉田 千種2016年07月18日 印刷向け表示
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おやこレシピ
作者:内田 春菊
出版社:新潮社
発売日:2015-11-20
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「料理が得意なんです」って言って許される人って・・・?

生来、心が狭い人間です。なのでおそらくは、一般的にスルーされることが多い言葉にひっかかってしまいます。

その中の一つが、「わたし(もしくはオレ)、料理が得意なんです」です。

料理が得意ってどういうこと? 

他人が「この人、料理が得意で~」と紹介してくれるのはよくわかります。だって美味しいまずいはその料理を食べた自分以外の人間が決めるものでは? そういう性質のものを自ら得意と宣言していいレベルとはいかに・・・・・・? いつもそんなことを考えてしまいます。

内田春菊さんの『おやこレシピ』は、そんなめんどくさい私が圧倒されるほどの、料理の才能がきらめく一冊でした。

内田さんというと、東京電力のでんこちゃんのキャラクターデザインも担当された著名なまんが家さんとしての印象、そして複数の男性との間に4人のお子さんをもうけるなど、日本人離れした家庭を築いた先進的な女性としてのイメージが立ちます。

(内田春菊『おやこレシピ』より)

本書では、その4人のお子さん達が「今よりすこし」小さかった頃、内田さんが実際に作っていた料理やおやつの作り方が説明されています。その解説がとにかく凄い。どの料理に関しても、内田さんは感性でやすやすと作り方を解明、さらにアレンジしているのです。 

(内田春菊『おやこレシピ』より)

たとえば、はかりも泡立て器もとくに使わずケーキを焼いてしまう、複雑なスパイスを勘でブレンドしチャイを煎れてしまう、子どもがよく買っていたという理由だけでとろけるプリンの作り方を開発してしまう・・・・・・など。とにかくセンスがあることが、一コマ一コマから伝わってきます。レシピを必要とせず、勘だけを頼りに、新しい料理を開発していく――これこそ、才能。料理が得意、と自認すべきレベルではないでしょうか。

さらにそんな自由なセンスで作られたおやつを食べて育ったお子さん達は、内田さんの目からみても、みな料理が得意に育っているんだとか・・・・・・! レシピを必要としない料理上手のお母さんの手元を見て、そしてその手に成る美味しい料理を日常的に食べて育ったかれらは、きっとそのセンスを正しく受け継いだのでしょう。何ともうらやましい話です。

あのとき、彼女が「料理『全く』しません」と公言した理由

しかし、これほどの腕前がありながら、これまで内田さんと料理、というふたつがつながったことはありませんでした。それは彼女の戦略でもあったようで、事実、「マジで全く料理しません」と公言した時期もあったそうです。

若い頃、性愛を真っ正面から描いていた内田さんは、マスコミから嫌な目に遭わされることも少なくなかったそう。なかには、無理矢理家庭的な面を演出しようとしたり、料理しているところを撮ろうとしたりする人も。「料理『全く』しませんから」という言葉は、陳腐な表現をくっつけて、作品や作家の本質を伝えようとしない彼らへの痛烈な皮肉であり、反抗だったのです。レシピ漫画のあいだに、さらりと入れ込まれた、たった2ページのエッセイからは、凜とした女性の後ろ姿が匂い立つようでした。

作家・内田春菊の類い稀なる料理センス、そしてとてつもなく格好いい生き方が詰まった『おやこレシピ』は料理が好きな人もそうでない人も楽しめる一冊です。

 
おやこレシピ
作者:内田 春菊
出版社:新潮社
発売日:2015-11-20
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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